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爆笑問題・太田「すぐに炎上して、その度に落ち込む」。本屋大賞受賞『成瀬は天下を取りにいく』著者に明かした「言いたいことを言う」と決めた理由【太田光×宮島未奈対談】

  • 2024.6.11
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本屋大賞受賞前から、ラジオでも『成瀬は天下を取りにいく』を絶賛していた爆笑問題・太田光さんと、学生時代から爆笑問題の大ファンで救われていたという著者の宮島未奈さん。中京テレビ放送のトークバラエティ『太田上田』でお二人が初対面・初共演を果たした直後に、特別に時間をいただき、対談していただきました!

(取材・文=立花もも 撮影=中惠美子)

■キャラクターの魅力 相方はかけがえのない存在

太田 本屋大賞の候補作はだいたい読んでいるけど、今回は絶対『成瀬は天下を取りにいく』で決まりだと思っていました。圧倒的におもしろかったですもん。まず、成瀬のキャラクターがいいんですよね。高校の入学式でいきなり坊主頭になって登場してさ、その理由が、髪がどれくらいのスピードで伸びるか検証するためって、痺れるでしょ。成瀬がどういう人間なのか、エピソードの積み重ねからものすごく伝わってくる。そういう奥行きのある小説が僕は好きなんですよ。

宮島 ああ……うれしい。

太田 あと、成瀬と幼なじみの島崎がコンビを組んでM-1に挑戦するでしょう。小説で書かれるお笑いネタって、正直、そんなにおもしろくないことも多いんですよ。でも『成瀬~』のは、ネタとしてやっているところが目に浮かぶというか、うまくやれば絶対にウケるよなって思いました。作者は、お笑いとまったく関係のないところからきた人じゃないだろうなあ、とも。

宮島 それもすごくうれしいです。私自身、漫才をやってみたいと思ったこともあるんですけど、ネタをつくる以前に、まず相方と出会えないんですよね。この人だ、と思える相方に出会える時点で、漫才師の皆さんはかけがえのないものを手に入れているな、と思います。だから成瀬と島崎もそういう関係として描きたかったんです。夫婦とも恋人とも違う、相方と呼べる存在に巡り合えるのって、ものすごく尊いことなんだよ、って。

太田 急に関西弁になるっていうのも、おもしろいよね。あそこも笑ったなあ。

宮島 太田さんも昔、テレビかなにかで「東京でいま一番期待のお笑い芸人です」って紹介されたときに「おおきに」って言っていましたよね。

太田 そうだっけ?(笑)

宮島 それが、ものすごくおもしろかったんです。『爆笑問題の日本原論』は漫才形式で時事ネタを語る本でしたが、高校時代にずっと読んでいたことも、私が漫才ネタを書く根底にあると思います。

■やはり友達がほしかった!暗黒だった高校時代は美化しない

――そもそも、爆笑問題との出会いはいつだったんですか?

宮島 中学時代に観た『ボキャブラ天国』ですね。出演されている方のなかでも、爆笑問題はとくにオチに至るまでのフリを大事にしていて、別格におもしろかったんですよね。そこから出演番組は全部みて、太田さんが個人でお書きになった本も読みました。とくに『カラス』というエッセイ集には、ものすごく暗い高校時代を送ったと書かれていて、机に365本の線を書いて一日ずつ消しながら毎日通ったというエピソードに心打たれました。

太田 単に意地っ張りだったんですよ(笑)。あいつやっぱり休んだな、ってまわりに思われるのがいやだったし、学校のしくみに文句を言うならきちんと通ったうえで言いたかった。もちろん、どうしても通い続けることができなくて、フリースクールとか、別の居場所を選ぶことがあってもいいんだけど、離れた場所から文句だけを言う奴にはなりたくない、って思ったんだよね。

宮島 そういう太田さんが、先陣を切る姿を見せてくれたから、私頑張ることができたんです。私も高校時代は友達がいなくて、学校なんて本当に行きたくなかったけれど、太田さんのまねをして皆勤賞をとりました。あと、高校時代がいちばん楽しかったっていう奴は大成しない、という言葉にも、とても励まされましたね。だったら私は、将来、何かになれるかもしれないって。

太田 でもまあ、高校時代、友達ができるものなら、ほしかったよね。

宮島 そうなんですよ。決して「あの暗黒の三年間があったから今がある」なんて美化はしたくないですし、もっと楽しい青春を送りたかった。その想いが『成瀬~』にも反映されている気がします。だから今、学校に行くのがいやでたまらない子たちが、かつての私が『カラス』を読んで励まされたみたいに『成瀬~』から力をもらってくれたらいいなと思います。

太田 力をもらう人、いっぱいいると思いますよ。シンプルに、めちゃくちゃおもしろかったですもん。コロナ禍を舞台に描くことも含め、時事ネタを盛り込むだけでなく、ユーモアたっぷりに笑わせてくれる。紅白歌合戦のけん玉チャレンジに参加するところなんて、笑ったなあ。現実とフィクションが入り混じっている感じは、読んでいてもワクワクしますね。

宮島 『こち亀』でも、時事ネタが盛り込まれることで、両さんが現実世界に存在するかのような錯覚を味わわせてもらえるじゃないですか。『こち亀』が大好きなので、自然とその感じが出たのかもしれません。

太田 なるほど! 言われてみれば、ニュースの中継映像に毎日映り込もうとする発想も、両さんとか寅さんとかの世界観だよね。俺、橋本治の『桃尻娘』シリーズが大好きなんだけど、キャラクターの一人ひとりに感情移入できる瑞々しさがあるからなんですよ。アーヴィングやヴォネガットもそうだけど、キャラクターが生きていることを実感させてくれる小説は、やっぱり魅力的ですよね。

■市井の声に耳を傾けよ ネットの評判を気にしない人はダメ

宮島 すべての登場人物に敬意をもって書く、って私はよく言うんですけれど、太田さんの小説にも同じものを感じます。物語の根底に、人類そのものに対する大きな愛とあたたかいまなざしがあって……『笑って人類!』にはとほうもない数のキャラクターが登場しますが、一人ひとりに人生があるんだと感じさせてくれるところが好きです。

太田 ありがとう。なんでどの賞にも引っ掛からないのかな⁉(笑) あと成瀬のいいところは、まわりからどう思われないと気にせず、自分を貫くところだよね。俺自身、常に世の中から浮いているのは自覚しているんだけど、どうしても自分のやりたいようにしかできない。すぐに炎上して、そのたび落ち込んでしまうからこそ、成瀬の姿にものすごく勇気づけられた。

宮島 え、落ちこむんですか?

太田 うん。太田光をテレビに出すなってハッシュタグがトレンド入りして、こんなにも世間から嫌われてるのかとがっくりきたり……。ただ思ったことを言っているだけなのに、しょっちゅう逆張りしているって言われるし、そうか、そんなにも世間と俺の間にはズレがあるのか、って愕然とする。

宮島 落ちこまないのかと思っていました。私もけっこう、ネットの評判とか気にしてしまうんですけど……。

太田 でも、俺たちのように大衆に向けて発信する立場で、何も気にしていないって人はむしろだめだと思う。一部の高尚な人たちだけが楽しんでくれればいい、わかる人にだけわかればいい、っていうのではなくて、市井の人たちがおもしろおかしく楽しめるものを提供したいわけだから。傷つくこともたくさんあるけど、その人たちの言葉には、ちゃんと耳を傾けなきゃだめだと思いますよ。自分に嘘をついてまで主張を変える必要はないと思うけどね。

宮島 だからといって、絶賛されすぎるのも疲れてしまいませんか?

太田 そうね。たまに俺がいいことを言ったりすると、ネットの連中は急にちやほやしはじめるのよ。太田よく言った!みたいに絶賛してさ、調子がいいよね。そんなの、次に炎上するまでのつなぎでしかないんだから。そう思うと、まあ、瞬間的な声にいちいち耳を傾けるのもばからしいかなと思っちゃうけど、世間を相手に商売している限り、無視はできないよね。

――太田さんはどうして、落ち込みながらも自分を貫き続けることができるんですか?

太田 人に嫌われることより、自分に嫌われるほうがいやだから、かなあ。かなり前のことなんだけど、「サンデージャポン」である政治家のことが話題にあがったんですよね。俺はその政治家のことがけっこう許せなかったんだけど、世の中の大半は俺と逆の意見だったから、発言するかどうか迷っちゃったの。生放送だったしね。で、悩んでいるうちに時間が過ぎて、けっきょく言葉を呑み込んじゃった。そんな自分がカッコ悪くて、すげえいやだったんです。猛バッシングを受けるのがいやで、日和った自分が許せなかった。だからそれ以降、言いたいことは言うって決めました。

宮島 わかります。自分の意に沿わないことを口にしたり、言うべきことを言えなかったりすると、のちのちまで引きずりますよね。未来の自分のためにも、しこりを残さないようにしなくちゃいけない、って私も思います。

太田 まわりにあわせて言葉を呑み込んだほうが、その場はうまくいくけどさ。最終的にはどうなんだろうと思いますよね。

■書き続けていくこと 漫才も小説もまだまだうまくいってない

――自分を曲げない成瀬がこれほど多くの読者に愛されているということは、本当は誰もが、そうありたいと願っているのかもしれませんね。

宮島 だと嬉しいですね。でも、さすがにデビュー作で本屋大賞をとって、これだけ売れるのは出来過ぎなんじゃないかと自分でも思っています。同時に、私自身も、ちょっと満足してしまっているところがあって……。私、これまでの自分の人生が全然、気に入っていなかったんですよ。はたから見れば、京大を出て結婚をして子どももいて、順風満帆じゃないのって言われるかもしれないけれど、自分のなかでは欠けた何かがずっと埋まらない感覚があった。でもこうして、ずっと客席から見上げるだけだった太田さんが、今、私がステージに立つところを見てくださっているということも含めて、感無量すぎて。この先どうしたらいいんだろう、って気持ちでいっぱいなんです。すべてはこの日のためにあった!というと、過去の苦しいこともつらいことも全部美談にしてごまかすようで、違うなあと思うんですけど。

太田 俺は、ちっとも満足しないからなあ。小説を出してもどうともならないし、映画はつくれていない。漫才もまだまだ上手くいってるとは言えない。どうしてこんなにうまくいかないんだろう、って毎日、思ってる。

宮島 一度も満足したことがないんですか?

太田 今思えば、NHKの新人演芸大賞をとったときとか、ボキャブラでチャンピオンになったときとか、ある程度の評価をされたときは嬉しかったんですよ。やっと芸で仕事できるようになった、と思えたから。談志師匠に、おまえら天下とっちゃえよ、と言われたときも「ようやくここまで来られた」って感無量だった。でもそのときは、まだまだこれからだって思っていたし、あのころ思い描いていた場所に、今の自分がまるで辿りついていないことに忸怩たる思いというか。

宮島 自分に厳しい、というか、もっとやれる、って思ってしまうんですね。

太田 過大評価しているんだろうね、自分のこと(笑)。そうして35年くらい、ウケない日もあるなかで漫才を続けてきたのは、やり続けるしかない、とにかく舞台からは降りちゃいけないと、それだけを思ってきたからかな。そうすることでしか、どんな結果も残せないからね。

宮島 ああ……本当にそうですね。成瀬の今後もふくめて、具体的な展望が今は見えていないんですけど、デビューしたからには書き続けなくてはいけないんだ、という肚はこの一年で決まりました。どうしたって「前のほうがおもしろかった」って言う人は出てくるだろうけど、それでも自分にできる限りのものを、生み出していくしかないんだろうな、って。

太田 次はミステリー小説とか読んでみたいですね。俺、黒川博行さんの小説も好きなんだけど、ヤクザと建設コンサルタントの男がバディを組む「疫病神」シリーズなんか、会話がけっこうコミカルで笑えるでしょ。繰り返しになるけど、宮島さんの漫才ネタが笑えるのは、成瀬と島崎という二人のキャラクターが、読者の脳裏にはっきりとしたかたちで浮かび上がっているからなんですよ。現実の漫才も、大事なのはどのネタをやるかより、誰がやるかだったりするでしょう。だから、宮島さんの生み出すキャラクターなら、どんな業界を舞台に描いてもおもしろくなると思う。なんなら、成瀬がゆくゆく刑事になってもおもしろそう(笑)。

宮島 たしかに(笑)。ミステリーってシリアスなイメージが強いですけど、明るいテイストで描いてみるのなら、ありかもしれません。

太田 本屋大賞の候補作のなかでも『成瀬~』がダントツだと思ったのは、その軽妙さで、小説に新しい風を吹かせてくれたと感じたから。その勢いで、この先も読ませていただけるのを楽しみにしています。

宮島 ありがとうございます。お目にかかれて、本当に光栄でした!

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