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バンドがアツかった時代のスリリングさ、高揚感を呼び覚ましてくれた!音楽でひも解く「ぼっち・ざ・ろっく!」の魅力

  • 2024.6.11
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2022年秋に放送され、国内外問わず絶大な支持を集めたテレビアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」。本作を再編集した2部作の前編『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』が公開中だ。アニメ放送終了後も劇中バンド「結束バンド」がシングル「光の中へ」をリリースし、キャスト陣登壇のワンマンライブも開催するなど、未だ人気が衰える気配はない。8月に開催される野外音楽フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024」への参加も発表されるなど、アニメ&アニソンの枠を越えて音楽シーンにも影響が波及する「ぼっち・ざ・ろっく!」の魅力とは?

【写真を見る】とっさにボトルネック奏法を披露してしまうなど卓越したギターテクニックを持つ主人公、後藤ひとり

アジカンファン、邦ロックファンからも注目を集める「ぼっち・ざ・ろっく!」

テレビアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」は、芳文社「まんがタイムきららMAX」で連載中のはまじあきによる4コマ漫画が原作。アニメーション制作を「SPY×FAMILY」や「Fate/Grand Order」シリーズで知られるCloverWorksが担当。のちに「葬送のフリーレン」を手掛ける斎藤圭一郎が監督を務め、放送中のNHK連続テレビ小説「虎に翼」を手掛ける吉田恵里香がシリーズ構成・脚本を担当している。さらに、音楽シーンで名の知れたアーティストが数多く参加した、クオリティの高い楽曲群も人気の要因だ。

テレビアニメを再編集した2部作の前編『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』 [c]はまじあき/芳文社・アニプレックス
テレビアニメを再編集した2部作の前編『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』 [c]はまじあき/芳文社・アニプレックス

極度の人見知りで陰キャな高校一年生、後藤ひとり(通称、ぼっち/声:青山吉能)は、バンド活動に憧れてギターの腕を磨くも、性格が災いして未だ夢を叶えられずにいた。そんなある日、とある事情でギタリストを探していた他校の先輩、伊地知虹夏(声:鈴代紗弓)に声をかけられ、彼女がドラムを担当するバンド「結束バンド」に加入することに。腕前は確かなのに、人前だと緊張してしまい、誰かと合わせて演奏する経験も乏しいひとり…。虹夏やベースの山田リョウ(声:水野朔)、ボーカル&ギターの喜多郁代(声:長谷川育美)と共にライブハウスや文化祭のステージを目指していく。

結束バンドはライブハウスを拠点に活動していく [c]はまじあき/芳文社・アニプレックス
結束バンドはライブハウスを拠点に活動していく [c]はまじあき/芳文社・アニプレックス

作者がロックバンド、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのファンであることで知られ、結束バンドのメンバーの名字もアジカンのメンバー名に由来し、4人がアルバイトをするライブハウス「STARRY」もアジカンの活動の原点である東京・下北沢の「SHELTER」をモデルにしている。また、各話タイトルもアジカンの楽曲名をモジっており、最終話である第12話では「転がる岩、君に朝が降る」がエンディングテーマとしてカバーされたことなどから、アニメファンだけでなくアジカンファン、邦ロックファンからも注目を集めた。

人気バンドのアーティストらが手掛けたOP&EDテーマ

テレビアニメのオープニングテーマ「青春コンプレックス」は、シンガーソングライターの樋口愛が作詞、元フォーエイト48のメンバーで音楽クリエイターである音羽-otoha-が作曲、編曲をTHE YOUTHの三井律郎が手掛けた。「青春コンプレックス」は、印象的なギターリフが耳に残るイントロ、疾走感あふれるサビメロ、テクニカルなサウンド、エモーショナルな歌詞とボーカル…と、ロックバンドの魅力をそのままパッケージしたような楽曲で、ストリーム数は5000万を超えている。『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』のオープニングテーマ「月並みに輝け」も同じ座組によって制作されている。

第1話から第3話までのエンディングテーマ「Distortion!!」は、KANA-BOONの谷口鮪が作詞・作曲を手掛けた。「ディストーション」とはギターのエフェクターの種類でもあり、心のざわめきを表現したもの。バンド用語と青春の情景を重ねた歌詞、谷口らしい口ずさみたくなる軽快なメロディなどがファンの心をつかんだ。

第4話から第7話のエンディングテーマ「カラカラ」は、tricotの中嶋イッキュウによる作詞・作曲。トリッキーなイントロから一転、浮遊感あふれるボーカルとせつなさを孕んだマイナー調のサビが、胸をキュッと締め付ける。テクニカルな演奏によるバンドアンサンブルと、ガールズバンド特有のキラキラとしたものを含んだせつなさが絶妙に融合した楽曲だ。

第8話から第11話のエンディングテーマ「なにが悪い」は、活動休止中のthe peggiesの北澤ゆうほが作詞・作曲を担当。北澤は「from ARGONAVIS」から派生したArgonavisの「リスタート」をはじめ、「彼女、お借りします」第3期オープニングテーマ「恋愛ミリフィルム」を手掛けるなど、アニソン界隈ではおなじみ。「なにが悪い」は跳ねたリズムとサビメロの転調が心地よい、ガレージロックのナンバー。青春のきらめきがあふれ出したような楽曲で、掛け合いのコーラスや畳みかけるようなドラムなど、ライブ感満載の楽曲だ。

エモーショナルな演奏シーンと劇中曲との親和性

リアルな演奏シーンも見どころの本作。第6話と第8話で登場し、放送後話題になった「あのバンド」は、グルービーでスリリングなビート、疾走感あふれるサビ、ネガティブな感情をぶちまけるようなボーカルが特徴的で、くすぶっていた炎が一気に燃え上がるような楽曲だ。

【写真を見る】とっさにボトルネック奏法を披露してしまうなど卓越したギターテクニックを持つ主人公、後藤ひとり [c]はまじあき/芳文社・アニプレックス
【写真を見る】とっさにボトルネック奏法を披露してしまうなど卓越したギターテクニックを持つ主人公、後藤ひとり [c]はまじあき/芳文社・アニプレックス

第6話では、劇中のカリスマバンド、SICK HACKのベース&ボーカルである廣井きくり(声:千本木彩花)とぼっちによるギターとベースだけのインストゥルメンタル演奏が放送。第8話では結束バンドのライブで演奏され、イントロの前にぼっちのテクニカルなギターソロが加えられた。物語の展開に沿って、同一楽曲の様々なバージョンがあることも魅力の一因となっている。

バンドものアニメの定番である文化祭ライブはテレビアニメのクライマックスだ。文化祭でのステージが描かれた第12話では、「忘れてやらない」と「星座になれたら」の2曲が使用された。ポップで清涼感あふれる「忘れてやらない」。一方の「星座になれたら」はキメのイントロ、跳ねたビート、シティポップ調の爽やかなメロディが秀逸。劇中では、演奏中にギターの1弦が切れ、続けて2弦のペグも狂ってしまったぼっちが機転を利かせ、きくりが飲んでいた酒のカップを使ったボトルネック奏法を披露する。スリリングでダイナミックな演奏が強い印象を残した。

これら楽曲はアルバム「結束バンド」に収録。オープニングテーマ、エンディングテーマ、劇中歌に加え、「ひみつ基地」「ラブソングが歌えない」などの新曲も収録されている。このアルバムは、轟音、キメ、ギターリフ、ループ、変速リズム、ダンスビートなど、2000年代初頭のライブシーンを盛り上げた邦ロックバンドたちの様々な要素が凝縮された1枚。オリコンやBillboardなどの音楽チャートでは1位を獲得した。

また、人気ロックフェスをモチーフにしたライブイベント「BOCCHI IN JAPAN」「NUMBER BOCCHI」なども行い、昨年はZepp Hanedaで初のワンマンライブ「結束バンドLIVE-恒星-」が実施された。今年5月に開催された野外音楽フェス「JAPAN JAM 2024」にも出演し、アジカンや10-FEETらと同じステージに立っている。

「ぼっち・ざ・ろっく!」は、高校の先輩や後輩、大学生や大人が混在するライブハウスという縦社会で、決してなれ合うのではなく、揉まれながら成長する姿が描かれたところにリアリティを感じる。2000年代初頭の邦ロックとライブハウスシーンに精通した作者であればこそのストーリー展開は絶妙だ。また、ロックバンドとライブを熟知した作詞・作曲陣による楽曲は、バンドがアツかった時代の、ライブのスリリングさや高揚感、楽しさを呼び覚ましてくれた。コロナで打撃を受けたライブシーンに、希望の光を与えたとも言っていい。その熱は冷めることなく、ますます熱く燃え上がっていきそうだ。

文/榑林史章

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