1. トップ
  2. 『青春18×2 君へと続く道』がアジア全域で大ヒットを記録!キャスト、主題歌、カルチャー…国境を越えた3つのポイント

『青春18×2 君へと続く道』がアジア全域で大ヒットを記録!キャスト、主題歌、カルチャー…国境を越えた3つのポイント

  • 2024.6.11
  • 40 views

『新聞記者』(19)や『余命10年』(22)の藤井道人監督が、自身初の国際プロジェクトに挑んだ日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』(公開中)。日本では公開から1か月以上が経った現在もリピーターが相次ぎ、満席の劇場が続出している本作だが、台湾をはじめとしたアジア各地ではそれ以上の大きな盛り上がりを見せている。18年前と現在、日本と台湾を舞台にしたせつない初恋の物語である本作が、なぜアジア各地で記録的なヒットとなっているのか。その要因となったポイントを探っていこう。

【写真を見る】「SLAM DUNK」にモー娘。や「桃鉄」!当時流行りのカルチャーがリアリティを与える

アジアの次世代スターと日本の実力派キャストが集結!

台湾で話題を呼んだジミー・ライの紀行エッセイを原作に、名優チャン・チェンがエグゼクティブ・プロデューサーを務めたことでも話題を集めている本作。18年前、日本人バックパッカーのアミ(清原果耶)と出会い、淡い恋心を抱いたジミー(シュー・グァンハン)。しかしアミが突然帰国することになり、2人はある約束をして別れることに。そして歳月が流れ、失意のなかで故郷に戻ってきたジミーはアミとの思い出をたどるために日本への旅に出発する。

『青春18×2 君へと続く道』は現在公開中 [c]2024「青春18×2」Film Partners
『青春18×2 君へと続く道』は現在公開中 [c]2024「青春18×2」Film Partners

3月に公開された台湾を皮切りに、香港やマカオ、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、カンボジアと、アジアの各国・各地域で続々と公開されてきた本作。なかでもベトナムでは日本(日本と台湾の合作ではあるが)の実写映画としては歴代1位の大ヒットを記録。また5月19日からは中国、5月22日からは韓国でも公開を迎え、すでにアジア全域で観客動員数270万人以上、興行収入では25億円を突破している(6月9日時点)。また、ニューヨークで毎年開催されている北米最大のアジア映画祭、第23回 ニューヨーク・アジアン映画祭に出品することが決定。

国境を越えたヒットの要因として、まず挙げられるのはキャスティングだろう。主人公のジミーを演じているのは『ひとつの太陽』(19)やドラマ「時をかける愛」で注目を集めた台湾のスター俳優シュー・グァンハン。18歳と36歳、2つの世代のジミーを演じ分ける好演が話題沸騰となり、これまでその名があまり知られていなかった日本でもファンが急増。新たなアジアン・スターの誕生が、リピーターの増加にたしかに貢献しているようだ。

日本でもシュー・グァンハンの魅力にハマる観客が続出! [c]2024「青春18×2」Film Partners
日本でもシュー・グァンハンの魅力にハマる観客が続出! [c]2024「青春18×2」Film Partners

また、ヒロインのアミを演じるのは日本を代表する若手実力派の1人であり、海外の映画祭で受賞歴もある清原果耶。さらに日本の作品でも活躍する台湾の人気俳優ジョセフ・チャンや、アジア圏でも高い人気を誇る「なにわ男子」のメンバーである道枝駿佑、ベルリン国際映画祭で女優賞を受賞した経験のある黒木華に、「孤独のグルメ」シリーズがアジア圏で好評を博している松重豊らが集結。彼らの卓越したアンサンブルが物語に深みを与え、さらなる感動を引きだしてくれる。

桜井和寿が脚本を読んで書き下ろした「記憶の旅人」が、映画の“ブレない芯”に

2つ目は主題歌だ。手掛けたのは、世代を超えて愛され続ける日本の国民的バンドMr.Children。日本での人気は誰もが知るとおりであり、台湾でも1990年代後半ごろに巻き起こったJ-POPブームを牽引したアーティストとしていまなお支持されている。そんな彼らの楽曲を10代から愛聴していた藤井監督が、ダメ元でオファーを出し、脚本を読んだ桜井和寿がすぐさま書き下ろしたというのが「記憶の旅人」という楽曲だ。

主題歌はMr.Childrenの書き下ろし!作品の本質をとらえた魅力的な楽曲に [c]2024「青春18×2」Film Partners
主題歌はMr.Childrenの書き下ろし!作品の本質をとらえた魅力的な楽曲に [c]2024「青春18×2」Film Partners

この楽曲について桜井は「「かつて自分のなかに『確かにあったもの』、そしていまも自分のなかに『あってほしいと強く願うもの』が、この映画の冒頭から終わりまで、ずっと流れていて、その懐かしさ奥ゆかしさ温かさは、すぐ近くにあるのに、もう手が届かないようで、もどかしくてもどかしくてたまらなく人恋しくなる。この映画に関わる上で、不純なものは極力取り除いて音楽として抽出したつもりです。それだけが私たちに出来ることでした」と強い想いを語っている。

まだ脚本の段階で作品の本質を捉えた楽曲が生まれたことによって、本作の撮影中にはこの楽曲が一つの“ブレない芯”となったという。そのため映画の世界観との一体感は、これまでMr.Childrenが手掛けてきたさまざまな映画主題歌のなかでもずば抜けて高いものがある。まさに“主題歌までが映画”と言い切れる、理想的なコラボレーションといえよう。

時代に合うカルチャー要素が満載!思わず感情移入してしまう

「記憶の旅人」を聴くと、もう一度2人の初恋の記憶をたどりたくなるはず [c]2024「青春18×2」Film Partners
「記憶の旅人」を聴くと、もう一度2人の初恋の記憶をたどりたくなるはず [c]2024「青春18×2」Film Partners

そして3つ目は、時代設定に合わせて劇中に散りばめられた様々なカルチャーの存在だ。この要素が作品のリアリティを高め、物語や劇中で起こる出来事に説得力を与え、そして観客が登場人物たちに感情移入するための入り口にもなる。2006年という時代設定を描くため、藤井監督は当時の台湾で流行っていたものを現地のスタッフに教えてもらい、そこから劇中で使用するものを選んでいったのだとか。

ジミーが愛読している漫画はアジア圏でいまなお絶大な人気を集める井上雄彦の「SLAM DUNK」。遊ぶゲームは「Devil May Cry」や「桃太郎電鉄」で、ジミーとアミが一緒に観にいく映画は1999年にアジア圏で公開され大流行となった岩井俊二監督の『Love Letter』(95)。カラオケではモーニング娘。が歌われ、ジミーはアミに台湾の国民的バンドであるMaydayの初期の名曲「ピーター&マリー」を勧める。

【写真を見る】「SLAM DUNK」にモー娘。や「桃鉄」!当時流行りのカルチャーがリアリティを与える [c]2024「青春18×2」Film Partners
【写真を見る】「SLAM DUNK」にモー娘。や「桃鉄」!当時流行りのカルチャーがリアリティを与える [c]2024「青春18×2」Film Partners

藤井監督をはじめとした30代のクリエイターがリアルタイムで経験したこれらは、日本や台湾に限らずほかのアジア各地域でもブームを巻き起こしたものが多数。主人公たちと同時代を過ごした観客にダイレクトに刺さるだけでなく、その影響を受けた次の代のカルチャーを享受している若い世代の観客にとっても届くものとなっているはず。こうしたディテールへの抜かりないアプローチが本作の世界をより強固なものにし、国境を超えて多くの人々の心を掴む作品へと昇華させたのだ。

「宝物のような映画になった」「映画館でこんなに泣いたのは久しぶり」、「結末に近づくと感情のコントロールができなくなる」など、日本のみならずアジア中から絶賛の声が鳴りやまない本作。現在本作の公式サイトの特設ページでは、映画の大ヒットを記念して全18種のスマートフォン用壁紙が配布されている。劇場で本作を観て切なくも儚い恋模様に魅せられたら、心に残ったシーンの壁紙を入手して、またもう一度ジミーとアミの初恋の記憶をたどってみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬

元記事で読む
の記事をもっとみる