1. トップ
  2. エンタメ
  3. 一瞬たりとも見逃せない…未回収の伏線は? 次に裏切りそうな人物は? 日曜劇場『アンチヒーロー』第9話考察レビュー

一瞬たりとも見逃せない…未回収の伏線は? 次に裏切りそうな人物は? 日曜劇場『アンチヒーロー』第9話考察レビュー

  • 2024.6.11
  • 39523 views
『アンチヒーロー』第8話より ©TBS
『アンチヒーロー』第9話より ©TBS
『アンチヒーロー』第9話より ©TBS

元同僚の桃瀬(吹石一恵)の遺志を継ぎ、12年前に起きた「糸井一家殺害事件」の冤罪を証明し、死刑囚・志水(緒形直人)を救おうとする明墨(長谷川博己)。その唯一の証拠である動画が伊達原(野村萬斎)によって潰され、真実を明らかにすることは、もはや不可能ともいえる状況に陥る。

【写真】長谷川博己&北村匠海の切羽詰まった表情が見応え抜群…劇中カット。ドラマ『アンチヒーロー』劇中カット一覧

しかし、赤峰(北村匠海)と紫ノ宮(堀田真由)も、それぞれの方法で12年前に起きた同事件を調べ直す。それまでは互いに損得勘定で繋がっていたような印象だった明墨法律事務所の弁護士たちが、ついに同じ方向を向いて突き進む。

明墨にとっては、検事時代に志水に自白を強要した自身への贖罪の意味もあった。

3人の目的は、志水の再審、そして冤罪の証明なのだが、最終的にはその奥にいる検事正の伊達原(野村萬斎)を潰すことだ。しかし、伊達原も重要な証拠となる映像を自らHDDごと破棄するなど、検事として“暴挙”といっていいほどの行動に出る。伊達原としても、検事正としての自分を守ることに必死であり、それが伊達原にとっての“正義”なのだろう。

その狂気に満ちた表情を、伊達原の部下である検察官の緑川(木村佳乃)が、冷ややかな目で見つめていたのが印象的だった。

『アンチヒーロー』第9話より ©TBS
『アンチヒーロー』第9話より ©TBS

「糸井一家殺害事件」は、“犯人”の志水が、同僚だった糸井ととある横領事件で共謀した後、仲間割れを起こしたことを理由に、志水が糸井宅に招かれた際に一家を毒物(タリウム)で皆殺しした、とされている。

物証は既に消され、あるのは状況証拠と裏付けのない証言、そして警察・検察によるストーリーに沿ったと思われる強要された自白のみ。

志水が無実であるならば、誰が糸井一家を殺害したのか。志水を逮捕し、取り調べを担当した千葉県警の元刑事課長で紫ノ宮の父でもある倉田(藤木直人)らは、なぜ他の可能性を疑わなかったのか。しかも、証拠を隠蔽してまで志水を死刑判決に追いやった理由とは何か。

そして、“犯人”とされてしまった志水が収監中に生きることへの意志を失い、死刑を受け入れる心境に変化したのは一体なぜなのか。全ては、背後にある強大な権力によって志水を消そうとする力が働いたのではないかという疑念が沸き立つ。

『アンチヒーロー』第9話より ©TBS
『アンチヒーロー』第9話より ©TBS

第9話は、伊達原が大勢の検事の前で、“人質司法”の過ちを訴え、「検察こそ正義」とぶち上げる場面から始まる。

明墨は、証拠を失ったことを志水に詫びるが、志水は娘の紗耶(近藤華)に会えたことで「もうこれで十分です」と、感謝の意を伝える。明墨は「あなたには、これ以上の幸せを受け取る当然の権利がある。どうかあと少し時間をください」と頭を下げる。

動画があれば、同時刻に志水が娘が失くしたぬいぐるみを探しに公園にいたことを証明できる。しかし、もう動画は、伊達原の手によってこの世から失われた。

赤峰は桃瀬の実家を訪ね、母(麻生祐未)から、桃瀬の日記を受け取る。そこには、検事時代、伊達原の不正を匂わせる記述が書かれていた。

その件を、当時の明墨に相談するが、けんもほろろに一蹴されていた。その後、桃瀬は1人で調査を続け、盗撮動画について、事件当時、取り締まりに関わった刑事の深澤(音尾琢真)に接触したことで、志水の無罪を確信していた。

その後、不自然な時期に異動の辞令を受け、さらに桃瀬を病魔が襲う。死期を察した桃瀬は、これまでの調査結果を明墨に託す。

桃瀬は「明墨君には、志水さんに自白させた責任がある」と告げ、その直後に亡くなるのだった。
遺された手紙には、尽きる直前にやっと書いたような筆跡で、司法の横暴さを批判しながら、「どうか私達が司法の信頼と誇りを取り戻せますように」と将来への希望が記してあった。そして、日記には「私もこの目で見たかった、明墨君と」と締めくくられており、文字が涙で滲んでいた。それを読んだ明墨の涙によって文字がさらに滲む。

明墨は、事務所で「似てる?」と書かれた付箋が落ちているのを発見する。この付箋は何を意味するのか…。

『アンチヒーロー』第9話より ©TBS
『アンチヒーロー』第9話より ©TBS

明墨は、弾劾裁判に掛けられている元判事の瀬古(神野三鈴)の前に現れる。瀬古は、生前の桃瀬から志水の無罪を伝えられており、罪滅ぼしの念から児童養護施設に寄付やボランティアをしていた。

瀬古は「あなたも伊達原に潰される」と脅す。しかし明墨は「失うものなどない」と堪える様子も見せない。

後日、週刊誌が突然、明墨の過去を一斉に報じ始めた。瀬古の言葉の通り、伊達原側が手を回したことは明らかだ。明墨が動けなくなる代わりに赤峰と紫ノ宮が、その穴を埋めるべく奔走する。

赤峰が志水から預かった被疑者ノートを、紫ノ宮が読み始めると、そこには壮絶過ぎる取り調べの様子が記されていた。52日間にわたり、ロクに飲食物も与えられずに自白を強要され、娘・紗耶との接触も断たれる。その間に紗耶が児童養護施設に入ったことを明墨から知らされ、志水は絶望したのだ。

しかし、紫ノ宮はノートの記述から、使われた毒物に関し、警察と検察の取り調べ内容に齟齬があることに気付く。犠牲者に、犯行に使われたとされるタリウムでは生じない症状があったことが分かったのだ。明墨は伊達原が科捜研と組み、証拠を捏造したのだと考える。

そこで明墨は、「似てる?」と記された付箋の存在を思い出し、タリウムに似た毒物が使われたという仮説を立てる。

『アンチヒーロー』第9話より ©TBS
『アンチヒーロー』第9話より ©TBS

赤峰は当時の科捜研の担当者にあたり、紫ノ宮は父である倉田から証言を得るため、明墨とともに面会に向かう。

明墨から、伊達原に娘の将来を人質に取られて、これまで口を閉ざしてきたのだろうと指摘された倉木。それを聞いた紫ノ宮は、「ふざけないで! 人の命よりも大事な将来って何!?」と問いかけ、志水のノートを突きつける。

ついに真実を明かし始める倉田。倉田と伊達原は「同じ十字架を背負う」と共謀し、証拠を捏造したのだ。明墨は倉田に「人殺し!」と痛烈な言葉を投げつけ、今まさに人を見殺しにしようとしている現実を突きつける。

真実に近付いたと思った矢先、突然、警察が事務所にやってきて、羽木社長殺害事件に関する証拠隠滅罪で、明墨を逮捕する。緑川からその報告を受けた伊達原は破顔一笑だ。

明墨を“売った”のは、なんとパラリーガルの白木(大島優子)だった。緋山が持っていた血の付いたジャンパーを手に告発したのだ。「明墨には恩もあったんでしょ?」と伊達原から問われるが、白木は「別に…優秀な弁護士が来て、用済みみたいだから」と顔色ひとつ変えずに言いのけてみせる。

さらに、明墨の裁判について、緑川が立候補するが、その声を制して伊達原は自分でやると宣言する。「明墨君のために、もう終わらせてあげよう」と告げるのだった。その言葉を聞いて、何故か笑顔を見せる緑川。この2人の関係性も本物なのかどうか、最後まで分からない。

連行される明墨を追う赤峰と紫ノ宮に、「後は任せる」と言い残す明墨。次回、最終回の予告で、各シーンの映像と合わせて発せられる言葉は「共に地獄に堕ちましょう」のひと言だけだ。

『アンチヒーロー』第9話より ©TBS
『アンチヒーロー』第9話より ©TBS

パラリーガルという全く予想外のところから裏切り者が現れ、明墨逮捕という衝撃の展開で終わった第9話。「正しいことが正義か」「間違ったことが悪か」という予告映像で示される意味深なタイトルとともに、明墨や志水の運命はどうなるのか…。最終回は怒涛の展開となることだろう。

しかしながら、本作を第1話から振り返れば、“アンチ”と呼ばれながらも、明墨は何一つ、法律違反は犯していなかった。明確な違法行為を犯しているのは、志水の無罪を裏付ける証拠となり得る映像を破棄した伊達原。それに追従した倉田。

賄賂を受け取った上で、証人買収を知らないフリをし、恣意的な判決をしていた元判事の瀬古。緋山を罰するために証拠を捏造した検事の姫野(馬場徹)。さらには息子・正一郎(田島亮)の傷害事件で証人買収を行い、松永(細田善彦)に罪をなすりつけた衆議院議員の富田(山崎銀之丞)…。

揃いも揃って、国家権力をバックにした人物ばかりだ。さらに言えば、この中で唯一、伊達原だけが、まだその罪の報いから免れ続けている。

明墨は、その調査の過程で、事務所のメンバーを学生と装って大学内の研究室に潜入させたり、自らが相手方代理人であることを隠し、証言を得ようと証人に近付くなどの手法を用いている。“モラルに反する”という見方もあろうが、あくまで“グレー”といえる手法で、証拠集めをしている。この事実を並べると、どちらが“アンチ”なのか、分からなくなってくる。

主演の長谷川博己自ら「問題作」と語ったポイントは、ここにあるのだろう。

最終回で描かれる明墨の裁判は、いわば“死刑囚の命vs国家権力”の代理戦争の様相を呈している。そして、全ての謎が明らかにされる。「アンチヒーロー」はヒーローになれるのか、それとも検察の絶対的権力の前に屈するのか…。一瞬たりとも見逃せない最終回となりそうだ。

(文・寺島武志)

元記事で読む
の記事をもっとみる