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入院中にハマったドクターペッパー。精神科の課題と自販機の関係とは

  • 2024.6.10
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数年前、私は精神科病院に入院していた。精神科での入院と聞くと、あまりいいイメージはないだろう。ベッドに拘束されている印象を持つ人もいるかもしれない。私もスマホを没収されて、部屋から出られなくなると思っていた。

入院したら、全くそんなことはなかった。門限はあるものの散歩や買い物などの外出はできたし、スマホも使えた。むしろ運動不足解消のため、適度な散歩は推奨された。

しかし、これは私の場合であり、鍵付きの個室に入る人もいれば、他の患者との接触を禁じられる人もいる。入院中の自由度は患者の病状と病院の状況や方針によるのである。私が入院した病院は比較的自由度の高い病院だったらしく「この病院は緩いからここを選んでいるんだ」という人もいた。

そんなことを知らずに入院した私はというと、病棟への出入りが緩すぎて一方的に面会を希望している家族とかが侵入できるのではないかと怯えていた。実際、患者の脱走もたまに起こっていた。

◎ ◎

そんな入院生活を謳歌していたある日、病棟が閉鎖された。つまり入院しているフロアの外に出られなくなった。世はまさにコロナ禍、他の病棟でクラスターが発生したのだ。感染拡大を防ぐべく、十把一絡げに全病棟が閉鎖された。

最初は状況説明と同意書のサインに奔走する看護師さんを見つつ、大変ですねと他の患者と話していた。しかし、自由に外に出られていたのが、予告もなくフロアの外にすら出られなくなるストレスは大きい。

退院できる患者は次々に退院していった。不自由に耐えられない、コロナが怖いと理由は様々。私のように帰る場所がない人、退院できる病状ではない人は入院を続けざるを得なかった。

運動不足を防ぐべく、病棟の端から端を散歩していた時、1台の自販機が目に入った。元からあったのだが、私は現金を使うことに抵抗があり、使ったことはなかった。閉鎖中だしと思い、普段は買わないジュースを買った。それから私は1日1本、今日は何にしようかなと自販機で飲み物を買って飲むことが楽しみになった。

病棟の自販機はラインナップに癖があるように感じた。エナジードリンクやコーヒーが多く、ジュースはカフェインが入っている類のものが多かった。何かとカフェインや甘味料が入っている中毒性のある飲料が多い気がして、精神科ならではなのだろうかと思っていた。今、思えば、服薬に影響が出ないようにとフルーツ系の飲料が置けず、上記のようなラインナップだったのかもしれない。

そんな中、私はドクターペッパーにどハマりした。強い炭酸と杏仁豆腐のような独特の風味がたまらない。閉鎖が解除されても、退院しても、ストレスを感じるとドクターペッパーが飲みたくなる。幸か不幸か近所で調達できるので、今でもたまに飲んでいる。

◎ ◎

退院してしばらく経ってから、実は昔、病棟にもっと自販機が置いてあったという話を聞いた。病状等で食欲のコントロールができない患者も多い中、自販機がたくさんあればどうなるか。パンパンにお腹が太った糖尿病まっしぐらの患者が量産される。それを憂慮した関係者が撤去運動を起こし、1台だけとなったのだ。

あのラインナップを見ていると、なぜ健康になるために入院する場所で不健康を増進するような状態になっているのかという考えになるのもわからなくない。でも入院と閉鎖病棟を経験した身からすれば、どうか数少ない楽しみを奪わないでくれと思う。

私は閉鎖中でなければ外出できたし、退院もできたが、1人では外出もできず、年単位で入院している人もいる。患者にとって自販機は数少ない娯楽なのだ。

自販機と肥満の問題は表面的なもので、その陰には精神科での長期入院や作業療法の拡充などの課題が隠れているのではないだろうか。とはいえ、入院を機にドクターペッパーにどハマりした私には、何か言える資格はないのかもしれない。

■馬須川馬子のプロフィール
毒親育ち。今は親から離れ、自分を育て直しています。ノンフィクションの作文が好きで、社会復帰のための活動の一環として投稿活動しています。

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