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映画『ひなぎく』のマリエ姉妹に見る、チェコの街。

  • 2024.6.10
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写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はチェコの旅。

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20世紀初頭の芸術におけるキュビズムは、チェコでは建築にも影響を及ぼした。プラハに残るキュビズム建築の代表作、ゴチャールによる「黒い聖母の家」の2階にあるグランド・カフェ・オリエントは、至極居心地が良く、軽食もお茶もおいしい。

それぞれの時代に人々が求めた自由。

vol.16 @チェコ

料理人のワインあけびさんとチェコを巡った。彼女の著書『ワイン家のオーブン料理』の撮影でワイン家の人々のいきざまに触れたのをきっかけに、その背景にあるチェコの文化や歴史、風土、料理が大いに気になっていた。あけびさんと先々代の足跡を辿る旅の中でしばしば感じたのは、私たち人間が生きる上で求める「自由」についてだった。

チェコは数世紀に渡り常に周辺国に狙われ、戦争とファシズムに翻弄され続けたのだから惨い。そうは言ってもいまのプラハの街の様子からは、30年ちょっと前まで社会がまったく違う状況であったなど知る由もないほど。街は華やかで、通りを行く人々も店も、余所者の私が気後れするくらいスタイリッシュなのだ。

一方で、彼の地で接したあらゆる世代の人たちと交わした会話からは、己の不運を嗤わらう自虐的なブラックジョークが飛び出し、こちらの予想を軽々と超えた大胆な発言が返ってくることが度々あった。そんな肝の据わった精神性がいまを生きるこの国の人々の最大のチャームポイントなのではないか。

映画『ひなぎく』のマリエ姉妹のキュートさと毒、破壊力は制作された1966年当時の彼の地の若者たちの空気そのものに違いない。活動した時代は違えど、作家のチャペック兄弟やクンデラも作品を創作し発表することで自由のために闘ったことも忘れずにいたい。「自由」がある社会は当たり前と思ってはいけない、それを維持できるよう意識的に生きねば。

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プラハの思い出深い部屋の一角、写真の美しい女性は知人のお姉さま、ドイツに渡り写真家として活躍されたという。この部屋で、ナチズがヨーロッパを席捲した時代に自由と平和、そして民主主義のために、独自のユーモラスなタッチで風刺画を描いた『独裁者のブーツ イラストは抵抗する』や、プラハの春を背景に描かれた恋愛小説『存在の耐えられない軽さ』に触れた。
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あけびさんの友人が住まう古城にも逗留させていただいた。

『ひなぎく』
監督・脚本/ヴェラ・ヒティロヴァ
1966年、チェコ映画75 分
ダゲレオ出版 DVD ¥3,539

『ワイン家のオーブン料理』
ワインあけび著
リトルモア刊 ¥2,530

『独裁者のブーツイラストは抵抗する』
ヨゼフ・チャペック著
共和国刊 ¥2,750

『存在の耐えられない軽さ』
ミラン・クンデラ著
集英社刊 ¥902

*「フィガロジャポン」2024年6月号より抜粋

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