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「パパね、ママのことぶった」ママ友はなぜ子どもを置いて消えたのか…誰もが抱える心の闇を丁寧に描いた話題作

  • 2024.6.9
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毎日の生活の中でふとした瞬間に「逃げ出したい」と感じたことがある人もいるのではないだろうか。平凡な生活から抜け出したいと思いながらも、ありきたりな毎日をすごしていく人の方が多いのが現実だ。だからこそ、自分と周りを比較して、隣の芝が青く見えるのかもしれない。

『消えたママ友』(野原広子/KADOKAWA)は、平凡な日々を送る主婦が主人公の物語だ。代り映えしない毎日の中に突然訪れた「ママ友が失踪した」という知らせにより、じわじわと自分たちの抱えるほの暗い感情に気づいていく。そんな失踪したママ友を巡るミステリー展開に惹き込まれ、思わずページをめくる手が止まらなくなるだろう。仲の良いママ友がいる人や子育てに家事、仕事を毎日こなしている女性におすすめしたい作品だ。

主人公の春香は、活発な息子のコー君と夫の3人で暮らす平凡な主婦。仲良しのママ友、有紀・ヨリコ・友子の3人と集まって、いつも子育ての悩みや愚痴を語り合っていた。そんな平穏だった日々に、ママ友の有紀が息子のツバサ君を置いていなくなったという知らせが舞い込んで来て――。

優しい旦那さんと姑さん、そしてかわいい息子のツバサ君に囲まれた有紀は、春香たちにとってキラキラしていていつも幸せそうに見えていた。そんな恵まれた環境にいた有紀がどうして突然いなくなってしまったのか。保育園ではツバサ君のママが「男を作って逃げた」という噂で持ち切りだった。

仲良しだったはずの有紀が何も言わずに消えてしまった事実は、じわじわと春香たちの心を暗くしていく。確かに、自分の友だちがひと言の相談もなく失踪すれば、仲が良いと思っていたのは自分だけだったのかと思うかもしれない。しかし、春香たちにはそれぞれ有紀がいなくなった理由に心当たりがあって…。

有紀が失踪してからも、息子のツバサ君は保育園に登園し続けていた。そんなツバサ君の言動も、物語に暗い影を落としていく。保育園で春香に対し「パパねーママのことばんってぶった」というツバサ君。突然母親が消えてしまったことできっと一番傷ついているのは子どもなのだろう。だからこそ、過激な発言で大人に構ってもらおうとしているのかもしれない。だが、子どもが素直な生き物であることも真実なのだ。果たしてこれはただの子どもの嘘なのか、それともーー。

読者の想像力をかき立てるミステリー展開に、思わず目が離せなくなっていく。

有紀が生きているのかどうかすら分からない事実により、物語の不穏さが加速する。春香は嫌な想像を拭うように有紀に連絡するのだが、有紀の夫のノボルがその携帯を持っている姿を目撃してしまう。かつて有紀が春香にこぼした「死にたい」という言葉にDVをほのめかすツバサ君、そして失踪した有紀の携帯を持っているノボルの姿。

まるで最悪の事態を裏付けるかのような事実に、春香たちは有紀の家族に対する疑惑を膨らませていく。

ここから先では有紀の失踪の真実を追い求めていくストーリーを軸に、春香やヨリコ、友子たちママ友のほの暗い感情が描かれていく。キラキラしていた有紀への嫉妬や憧れに、子育ての孤独さ。そして、子どもたちのいじめ問題により、仲の良かったママ友同士の関係に亀裂が入ってしまい…。

本作は、きっと誰もが抱える心の闇が丁寧に描かれていることが魅力の物語だ。明日自分にも同じことが起こるかもしれない。そんなリアルさを感じながら、消えたママ友の真実を見届けてもらいたい。

文=ネゴト/ 押入れの人

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