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トム・ヨーク、トレント・レズナー&アッティカ・ロスらが参加!『チャレンジャーズ』にいたるルカ・グァダニーノ作品の音楽へのこだわり

  • 2024.6.8
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イタリアの映画監督の作品を観てよく思うのは、とにかく音楽にこだわっているということ。名匠フェデリコ・フェリーニはニーノ・ロータ、マカロニウエスタンを代表する鬼才セルジオ・レオーネはエンニオ・モリコーネと、映画音楽界の巨匠とタッグを組んできた。さらに裾野を広げると、リズ・オルトラーニによる美しくも流麗なスコアは、『世界残酷物語』(62)や『アマゾネス』(73)、『食人族』(81)などのジャンル映画に意外性を与えていたし、ホラーの才人ダリオ・アルジェント作品には不気味なシンセサイザーミュージックが欠かせない。

【写真を見る】『サスペリア』のスコアを担当したのは、レディオヘッドのフロントマンとしておなじみのトム・ヨーク

アルジェントの『サスペリア』(77)を2018年にリメイクしたルカ・グァダニーノも、音楽にこだわるイタリア出身のフィルムメーカー。いまや世界的な映画監督として名を馳せる彼の新作『チャレンジャーズ』が公開されたこの機会に、グァダーニ作品の音楽の妙を振り返ってみたい。

男女3人のプロテニスプレーヤーたちの愛憎を描く『チャレンジャーズ』 [c]2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. [c]2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.
男女3人のプロテニスプレーヤーたちの愛憎を描く『チャレンジャーズ』 [c]2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. [c]2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

スフィアン・スティーヴンスの叙情的なメロディがせつない『君の名前で僕を呼んで』の「ミステリー・オブ・ラヴ」

まずは出世作『君の名前で僕を呼んで』(17)。音楽を手掛けたスフィアン・スティーヴンスは米国のシンガーソングライターで、カリスマ的な支持を受けているアーティスト。本作ではアコースティックギターで奏でられる「ミステリー・オブ・ラヴ」で、第90回アカデミー賞歌曲賞にノミネートされた。静かだが叙情的な楽曲は、同性愛ストーリーのせつなさを強く印象づける。ちなみに本作では、グァダニーノ監督の『ミラノ、愛に生きる』(09)で音楽を担当したミニマルミュージックの提唱者ジョン・アダムスの楽曲も使用されている。

宗教音楽風のコーラスを交えた異様な響きが印象深いトム・ヨークの『サスペリア』

続いて取り上げたいのが、『サスペリア』だ。スコア担当はレディオヘッドのフロントマンとしてもおなじみのトム・ヨーク。こちらも反復を多用したミニマルミュージックの要素が多分に含まれている。シンセサイザーを多用しつつ、宗教音楽風のコーラスを交えた異様な響きが印象深い。ヨークは本作で歌も聴かせているが、まるで楽器のように鳴らされるそれは、映画の緊張感を盛り立てるうえで絶大な効果を発揮していた。

坂本龍一の不穏なサウンドが『ベケット』のサスペンスフルな物語を彩る

続くNetflix作品『ベケット』(21)でプロデューサーを務めたグァダニーノは、日本が世界に誇るコンポーザー、坂本龍一に白羽の矢を立てる。坂本とイタリア映画音楽の関連では、第60回アカデミー賞作曲賞を受賞した『ラストエンペラー』(87)をはじめとする、ベルナルド・ベルトルッチ作品が想い浮かぶだろう。『君の名前で僕を呼んで』でも、彼は2曲を提供しており、イタリア映画界からもリスペクトされていたことが十分にうかがえる。ここでの音楽はサスペンスフルな物語にふさわしく、不穏なサウンドが鳴らされている。

『ボーンズ アンド オール』のエグい題材を詩情に中和したトレント・レズナーとアッティカ・ロス

2022年の監督作『ボーンズ アンド オール』でグァダニーノは、トレント・レズナーとアッティカ・ロスを起用。オルタナロックユニット、ナイン・インチ・ネイルズの活動でも知られている彼らは、映画音楽の分野でも『ソーシャル・ネットワーク』(10)をはじめとするデヴィッド・フィンチャー作品で名を成し、『ソウルフル・ワールド』(20)では第93回アカデミー賞作曲賞を受賞している。彼らが本作に提供したのは、シンプルで静謐なスコア。若い吸血鬼カップルによる虐殺と逃避行というエグい題材を、詩情に満ちた音楽で中和しているともいえるだろう。

デジタルビートを大々的に導入して『チャレンジャーズ』に躍動感をもたらす

そして、新作『チャレンジャーズ』では、このレズナーとロスのタッグが再起用されているが、前作とは音楽がガラッと異なる。というのも、ここではデジタルビートが大々的に導入されているのだ。シンセサイザーの音色は華やかで、ビートはダンサブル。すなわち、かなり躍動的なノリと言えるだろう。物語はプロテニスプレーヤーである男女3人の愛憎を描いたもので、合間に宿命的な試合の模様が頻繁に挿入される。この熱戦を刺激的に彩るという点で、レズナーとロスによるスコアは実に効果的だ。

既存のロック&ポップスをセレクトする視点も確か

音楽担当者を主体にして、ここまで紹介してきたが、グァダニーノ作品はスコアだけではなく、既成のロック&ポップスが多数用いられている。『君の名前で僕を呼んで』ではU2の「ワン」やF.R.デイビッドの「ワーズ」、『ボーンズ アンド オール』ではデュラン・デュランの「セイヴ・ア・プレイヤー」やa-haの「ザ・サン・オールウェイズ・シャイン・オンTV」、そして『チャレンジャーズ』ではテヴィッド・ボウイの「タイム・ウィル・クロール」、ファイン・ヤング・カニバルズの「サスピシャス・マインド」など、ヒットチャートを賑わせた曲が印象的にフィーチャーされる。音楽の妙に注目しつつグァダニーノの作品に触れたなら、また違った魅力が見えてくるだろう。

文/相馬学

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