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心に沁みる名言連発…『虎に翼』の魅力の一端を担う男性キャラクターたちの言葉の力とは? NHK朝ドラ解説&感想レビュー

  • 2024.6.9
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連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

伊藤沙莉主演のNHK朝ドラ『虎に翼』。本作は、昭和初期の男尊女卑に真っ向から立ち向かい、日本初の女性弁護士になった人物の情熱あふれる姿を描く。第10週では、新憲法、優三が遺してくれた言葉によって民事局民放調査室で働く姿が描かれた。(文・あまのさき)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:あまのさき】
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。

連続テレビ小説『虎に翼』第10週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

新憲法、そして優三(仲野太賀)が遺してくれた言葉に力を得て、男性だからという理由だけで弟を大黒柱にはしないぞと一念発起した寅子(伊藤沙莉)。第10週は、「女の知恵は鼻の先?」と題し、寅子が民事局で働く様子を描いた。

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職を求めて司法省の人事課を尋ねた寅子だったが、裁判官として採用することに首を縦に振らない桂場(松山ケンイチ)。桂場とのやり取りを見て、寅子のことを気に入ったのが工藤頼安(沢村一樹)、通称・ライアンだ。裁判官としての採用こそ叶わなかったが、ライアンの計らいで、寅子は民事局民放調査室で働くこととなる。

このライアンがなかなかの曲者だ。すれ違うほかの職員が髪を切ったことにすぐ気づきさらっと褒めたり、目が合えばウィンクをしたり、寅子の母・はる(石田ゆり子)を「姉かと思った」と、さも本当っぽく言ったりする。嘘みたいに人当たりがよくて、それがどうにも胡散臭い。

でも、人のことを上手に持ち上げられるということは、人のことをよくわかってもいるということでもある。ライアンは初見から寅子の実力を買ったわけだが、民放の草案を読んで謙虚な物言いばかりであることに物足りなさを感じている。そして、ここから寅子がどう化けるのかを見極めようとしていた。それは、GHQのホーナー(ブレイク・クロフォード)に「見定めている」と言っていたことからも明らかだ。

連続テレビ小説『虎に翼』第10週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

かつて何かにつけて「はて?」を連呼していた寅子はすっかり鳴りを潜めていた。寅ちゃんというよりは、寅子さんとか佐田さんと呼ばなければならないような空気を醸し出す。結婚して子を持ったことで寅子が丸くなったのかと、一瞬、思った。

女性代議士たちの民法への意見交換会に参加し、「この人たちがいれば社会を変えてくれそう」とライアンに感想を伝える寅子。変えてくれそう、とは、やけに他力本願だ。自分こそが日本初の女性弁護士になって世の中を変えるのだと奮闘していたころの寅子からはとても考えられない。

寅子にとって法曹界は、すでに1度逃げ出した道。もう失敗は許されないというプレッシャーから、そして逃げてしまったという負い目から、あんなに疑問を抱いていたはずの“スン”を、自身も多発させてしまうようになっていたのだった。それゆえの、謙虚。

だが、寅子に求められているのは、独自の視点から発せられる「はて?」だ。ライアンは「君だって社会を変えられる場所にいるのに?」と、笑顔で問いかける。これは、ここが正念場だよ、と伝える笑顔。甘えてはいけない。寅子は自分と向き合い、そして、優三の言葉を思い出す。「何かに夢中になっている、あの顔」という言葉。そのときの寅子の顔は眉間にシワがより、まったく楽しそうではなかった。まさに、世の中のしがらみに絡め取られてしまった人の顔のようだった。

連続テレビ小説『虎に翼』第10週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

そんな折、寅子は花岡(岩田剛典)と再会する。闇商売を取り締まる仕事をしているという花岡からは覇気が感じられず、お弁当は正規のものしか購入できずにいるからか、闇市で購入したお米が詰まった寅子のお弁当よりずいぶんと質素だった。

でも、花岡はどこまでも花岡だ。自分のお弁当をすっと隠した寅子に「変わらないね」と言い、「前も今も、全部君だよ。どうなりたいかは自分で選ぶしかない」と優しく声をかける。梅子(平岩紙)からの受け売りだったが、寅子の心にはじんわりと沁みたはずだ。

その夜、ホーナーが寅子の家にチョコレートを届けに来てくれる。喜ぶ子どもたちを見て、涙を流すホーナー。日本人にとっては仇であるアメリカ人のホーナーだが、彼もまた戦争で家族を失った経験があった。「戦争で傷ついてない人なんていない」。だから、いつまでも憎しみ合っているわけにはいかないのだ。チョコレートを美味しそうにほおばる子どもたちの未来のためにも。

連続テレビ小説『虎に翼』第10週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

寅子が決意を新たにした矢先、民法改正審議会の委員として民事局にやって来ていた穂高(小林薫)が、寅子に就職先を世話したいと申し出る。家族を養うために1度逃げ出した場所に戻ってくるなんて、とか、自分が寅子を不幸にしてしまった、とか、わけのわからないことを言い重ねる。

もちろん、穂高の気持ちもわからないではない。かわいい教え子だから、いらぬ苦労はさせたくないのだろう。だが、それはあまりにも独りよがりで、寅子のことが見えていなかった。

そして、弁護士を辞めて以来となる寅子の「はて?」が復活する。そのときの、桂場の表情。驚きと喜びに満ちていた。穂高に「わたしは好きでここにいるんです」と宣言した寅子は、その後の民法改正審議会でも自身の考えを堂々と発言。ライアンも、そして桂場も、わたしたち視聴者だって、寅子のこれを待ち望んでいたのだ。おかえり、寅ちゃん。

いくら男女の平等が謳われようとも、環境はそんなにすぐには変わらない。でも、この国は変わろうとしているし、生まれ変わった憲法や民法がある。そして寅子には、優三がくれた言葉と、優三の気配がいつもそばにある。寅子のなかで、法曹界でいま1度生きていく覚悟が、本当の意味で決まったのではないだろうか。

公布された新民法において、結婚後の名字を夫のものにも妻のものにもできることが明記された。その条項を読んで、もしかしたら花江の名字だったかもしれないし、はるの名字だったかもしれない、と楽しげに話す猪爪家の人々。いろんな想像ができるということは、いろんな可能性が広がっているということ。そんなことを、優しく示唆しているようだった。

(文・あまのさき)

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