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3賢人が考えた、何度でも観たいアニメ映画 Vol.6「大画面で観たい!」

  • 2024.6.8
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アニメ3賢人が考えた、何度でも観たい「大画面で観たい!」をテーマにした新定番

 

テーマ:大画面で観たい!

藤津亮太

ラストは「大画面で観たい!」という作品を選びましょう。

青柳美帆子

私は断然『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』('01)。『カリオストロの城』もですけど、テレビで観たことある人はたくさんいると思うんです。でもこれ、劇場で観ると何倍もいい。何度テレビで観て知っていても、完璧な作品というのは映画館で観るのがいちばん面白いのです!

藤津

どのへんが完璧なの?

青柳

すべてですよ。ミステリーとしての完成度が高いだけでなく、それが長ゼリフじゃなくて“絵”でちゃんとわかるように、めちゃくちゃ丁寧に伏線を張っているんです。

藤津

大画面で何度も観たいっていうと、『鉄コン筋クリート』('06)は映画として本当に魅力的です。『漁港の肉子ちゃん』も描いてる美術監督の木村真二さんがとにかく抜群。松本大洋の原作に描かれた宝町という舞台を尊重しつつ、3DCGによる飛躍もふんだんに盛り込んで、密度の濃いエンターテインメントに仕上げている。

高橋克則

没入感で言うと、吉田秋生がキャラクター原案を手がけた『ボビーに首ったけ』('85)。バイクシーンが鉛筆タッチで描かれ、途中から色がなくなり、ライダーの主観映像になって背景が猛スピードで流れていく。本当にバイクに乗った気分が味わえますよ。

藤津

『イノセンス』('04)は、話はシンプルですが画面の情報量がとても多い。CGを駆使して細かいところまで描き込まれているすごみと、サントラ界の巨匠・川井憲次さんによる、アルファ波が出てくるような音楽。“ほぼ臨死体験”って言ってる人もいたけど、確かに中盤のお祭りシーンは、彼岸を覗き見しちゃったような、スクリーンから飛び出した絵を浴びる感覚です。

青柳

これ、タイトルだけだと『攻殻機動隊』シリーズってわからないでしょう。私、中学の時に『攻殻』を全く知らずに観に行ってしまって、予備知識ゼロだから話が一切わからない。でも何かを全身で浴びたようで、「よくわからないけどすごいものを観た」と言いつつ友達と帰った記憶があります。

敏腕アニメーターたちの悶絶テクニックを堪能したい

青柳

細田守監督だと、東映アニメーション初のフルデジタル劇場作品『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』('00)か、『時をかける少女』('06)か……。

藤津

『竜とそばかすの姫』('21)かな。まずバーチャル世界「U」のシーンが破格に緻密で繊細。ビデオ制作の専門家が、「ブルーレイの画面で観ると絵がつぶれちゃうんじゃない?」と心配したほど細かい。そうやってみっちりと描かれたシーンは、横長の大画面で観るとやっぱり迫力が違うわけです。

高橋

僕も、IMAXデジタルシアターで観るべき作品だと思ったのは『竜そば』が初めてかも。

青柳

中村佳穂の歌も素晴らしいです。

藤津

この作品世界の中ではバーチャルなアバターも肉体に依存しているものだという一風変わった設定があって、それが観客にも共有されている。だから、人間の歌という、絶対的に身体に拠(よ)るものにいっそうの説得力が出る。

青柳

そのねじれた構造には、細田監督独自のインターネット観を感じます。

高橋

作画の迫力で言うと『虹色ほたる ~永遠の夏休み~』('12)。

藤津

1970年代後半の田舎にタイムスリップした男の子が女の子と出会うボーイミーツガールものですね。

高橋

凄腕アニメーターの大平晋也さんによる主人公たちの疾走シーンが、よく話題になる作品です。

藤津

大平さんは、『千と千尋の神隠し』('01)で釜爺と千尋が初めて会う場面が有名。ゆらゆら歩く千尋の、ぐにゃっとした動き。うまいアニメーターさんは、ここぞというシーンだけ、飛び道具のように任されることがあるんです。制作側から言うと、その部分を誰に頼むかの判断いかんで映画の評価が決まったりする。重要な要素です。

高橋

『虹色ほたる』で特徴的なのは、太い輪郭線。しかも線がぶつぶつ途切れてるんですよね。

藤津

油彩ペンで描きなぐったような線が大胆に動くのも、妙に生々しい。

高橋

アニメではキャラクターの絵柄を統一するのが普通ですが、『虹色ほたる』ではキャラの心情を表すように自由に変化していく。そこがほかの作品にはない心地よさに繋がっています。疾走シーンでビジュアルが大胆に変わるものの、人物や物語に寄り添っているので違和感はなく、むしろ快感を覚えるほど。全編通して観てほしいです。

日本アニメ映画の元祖・かわいい王子キャラ

藤津

最後に、日本で初めて作画監督が置かれた『わんぱく王子の大蛇退治』('63)を挙げようかな。

高橋

いいですね。最近また推されていて、配信で観られるようになったし。

藤津

日本神話のスサノオノミコトの活躍を描いた物語で、クライマックスがヤマタノオロチとの戦い。基本的にフォルム重視の平面的な画面作りですが、最後の空中戦だけ、いきなり奥行き感のある立体的な動きになる。アニメ史上必ず語られるバトルシーンです。

高橋

キャラクター造形も、平面的でグラフィカルなデザイン。レミ・シャイエ監督のアニメ映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』('15)が日本でも賞を獲って、多くの観客に受け入れられたのは、『わんぱく王子』を思い出した人が多かったからかも。

青柳

絵柄も雰囲気も、1周して今っぽいというか、めちゃくちゃかわいい。

藤津

そうそう。わんぱく王子が「お母さんに会いたいよー」って悲しくて癇癪(かんしゃく)起こすシーンとかキュンとする。

青柳

どんな時代でも、かわいいには勝てないんですよね……といったところで、50作品決まりました。だいぶ偏った50選になった気もしますが。

藤津

いいじゃないですか。偏愛あってこそのアニメ好き人生ですから!

profile

藤津亮太(アニメ評論家)

ふじつ・りょうた/1968年生まれ。新聞記者、週刊誌編集を経て執筆を始める。『ぼくらがアニメを見る理由』(フィルムアート社)、『アニメと戦争』(日本評論社)、『増補改定版「アニメ評論家」宣言』(ちくま文庫)など著書多数。

Twitter:@fujitsuryota

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高橋克則(アニメライター)

たかはし・かつのり/1986年生まれ。2012年よりアニメ周りの執筆活動をスタート。ウェブサイト「アキバ総研」にてアニメレビューを掲載。思わぬ角度から切り込んでくる目からウロコな解説はもちろん、妄想上等!な考察も楽しい。

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青柳美帆子(ライター)

あおやぎ・みほこ/1990年生まれ。ワセダミステリクラブ出身。書籍、雑誌、ウェブの執筆、トークイベントの司会も行う。得意領域は女性向けオタクカルチャー。第25回(2022年)文化庁メディア芸術祭アニメーション部門選考委員。

Twitter:@ao8l22

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