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「ドラマ好き」より「映画好き」の方が偉いの? 映画の2時間が耐えられない? 入社1年目社員の疑問

  • 2024.6.8
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オールアバウト入社1年目の女性社員さんから、「映画好き」と「ドラマ好き」の違いを感じてしまうとの質問を受け、その理由について対談をしました。「ドラマよりも映画の方がハードルが高い?」「映画の2時間は耐えられない?」について話し合っています。
オールアバウト入社1年目の女性社員さんから、「映画好き」と「ドラマ好き」の違いを感じてしまうとの質問を受け、その理由について対談をしました。「ドラマよりも映画の方がハードルが高い?」「映画の2時間は耐えられない?」について話し合っています。

オールアバウト入社1年目の女性社員さんからの素朴な疑問として、「『ドラマ好き』より、『映画好き』の方が、文化や芸術レベルが高いという印象があるのはなぜか」と質問を受けました。SNSやマッチングアプリのプロフィールで、「趣味」を打ち明け合う場面も多くなった昨今、「映画好き」「ドラマ好き」は似ているようで、その人の印象や人格のようなものまで大きく異なってくるのはなぜなのか、と考えられたそうです。

その本質を考えると、若い人が映画そのものに抵抗を覚える理由がどこにあるのか、その理由の一端が分かったようにも思えたのです。ここでは、映画ファンの筆者と、その1年目の女性社員さんとの対談をお届けします。

違いを感じる理由は予算や制作規模にある?

ーー(ヒナタカ、以下同)「ドラマ好き」は気軽に話題に出したりできるけど、「映画好きです」と自分から言うのはハードルが高い、というのは、なんとなく分かる気もします。

(Mさん、以下同)なぜそう思ったのかといえば、ドラマが映画に比べて、作る時間やコストが抑えられているイメージがあったからなのかもしれません。でも、必ずしもそうではないですよね。2023年夏に放送されていた『VIVANT』というドラマがすごくはやっていて、見てみたらお金も撮影期間もかかった作品だと分かったんです。

ーー本当にそうですよね。最近の海外ドラマでも、映画以上の予算と長い制作期間をかけていることもありますし、ドラマだからこその長い尺でこそ描けるものもあると思います。『ゲーム・オブ・スローンズ』『SHOGUN 将軍』あたりがそうですよね。もちろん作品にもよりますが、全体的な予算や制作規模という評価軸からすれば、映画とドラマの違いは、もうほとんどなくなっているのではないでしょうか。

映画館に足を運ぶ必要性もハードルの高さにつながる?

ーーそれでも、なお「ドラマ好き」よりも「映画好き」の方が偉そうだ、格式高そうだ、という印象を覚えるというのであれば、おそらく予算や制作規模以外にも理由がありそうですね。

例えば、ドラマはテレビ放送で無料で見られたりもしますから、単純に「アクセスのしやすさ」はあります。もちろん映画も家で地上波放送やサブスクで鑑賞できますが、もともとは映画館で集中して見ることを想定した媒体でもありますから、やっぱり映画の方が娯楽としてハードルの高さがあるのかな、と。

最新の映画は、映画館へ移動して、そこでお金を使わないと見れない、ということはあるかもしれません。「映画館まで足を運ぶ」ことから、「映画館で映画を見るほどに好きかどうか」と問われているような気もするんです。

ーーなるほど。自分のような映画ファンは、週に何本も映画館に映画を見に行ったりするのが普通になっていますが、「そこまでじゃないと映画ファンって言えないのかな」と思われるというのも、分かる気がします。家で映画を見る人も堂々と映画好きって言っていいと思いますし、映画館で映画を見るのが好きな自分としては「もうちょっと気軽に、みんなに映画館に映画を見に来てほしいな」とは思うのですけどね。

アイドルやお酒に置き換えても分かること

少し話が変わるのですが、私は乃木坂46や櫻坂46などの女性アイドルがすごく好きで、ライブにもよく行くんです。

女性アイドル好きのMさん、よくコンサートにも参戦しているそう(写真:Mさん撮影)
女性アイドル好きのMさん、よくコンサートにも参戦しているそう(写真:Mさん撮影)

でも、アイドルオタク、鉄道オタクなど、いろんなジャンルが好きでマニアックな人たちがSNSやネットで、自分が好きなものを発信する機会が増えていて、すごく好きな人がすごく熱く語っているところを見ると、「自分がそんなに好きと言っていいのかな」と思う部分があったんです。

ーーなるほど。SNS時代ならではの「熱量」を、自分自身と比較してたじろいでしまうというのは、特に若い人にはあるのかもしれませんね。

実際にその熱量を持って、趣味にお金を投じているかどうかにも理由があるのかもしれません。私は高校生の頃から乃木坂46などの女性アイドルが好きだったんですけど、高校生の頃はお金があまりなかったので、ライブにはそんなに行けなかったりもしました。 堂々とアイドル好きと言えるようになったのは、 それなりに自分で好き勝手にお金を使えるようになった大学生になってからなんです。それでも、私よりもライブにたくさん行っている人たちに比べると、「そこまでファンだと言ってはいけないのかな」っていう気持ちがあって、それは高校生の時から持ち続けているものなのかもしれません。

だから、なんとなく、オタクならではの熱量を持つ人がいるところに、気軽な気持ちで入っていくのが難しいなと感じているんだと思います。さらに、ドラマより映画の方が、オタクっぽい人が多いイメージがあって、より「好き」に対してのハードルの高さもあるんじゃないかと。

ーーそれは分かる気がします。少しズレるかもしれませんが、自分も映画以外の分野で経験があるんですよ。「お酒好きですか?」と聞かれて、深く考えないまま「好きですよ」と答えたのですが、よくよく話を聞いてみると、相手はさまざまな種類の日本酒やご当地のビールを飲み比べたり、もはや研究をしているような方で、特にこだわりなくコンビニで買ったチューハイや発泡酒を、週に1回くらい飲むような自分とはぜんぜん違っていたんです。「日本酒どれが好きですか?」と聞かれて「日本酒のことぜんぜん分からないです……」と返すしかなくて、なんだか申し訳なくなったんですよ。

そういう何かの「好き」についてのギャップやズレを感じてしまう、というのは、趣味全般にあることなのかもしれませんね。

「映画ファンの態度」を改めた方がいいかも

ーーとはいえ、そうした趣味についてのギャップやズレを感じたとしても、結論としては「好きなら好きでいいじゃん」「他の人と比べなくていい、全然気にしなくていい」だとは思います。好きの程度の差は、確かに人それぞれあるのかもしれませんが、趣味にそんな優劣つけるもんじゃないですから。

それはそうですよね。

ーーそれでも、よくないのは一部の映画ファンの態度なのかもしれませんね。映画をこれから見ようとしている、または見た人へ「分かっていない」「その程度で映画が好きって言えるの?」「その映画が好きだなんてベタすぎない?」とか、見下したような態度を取るのであれば、それはその人がはっきりと間違っています。

せっかく、自分たちが好きな映画の世界に来てくれようとしているんだから……これから映画が好きになってくれる人に対して、排他的なことを言ってはいけないと思うんです。そうならないためには、同じ趣味に興味を持ってくれそうな相手に、ある意味でドライに接するくらいでちょうどいいというか、「期待しすぎない」感じの方がいいかもしれないですね。

『花束みたいな恋をした』から学べること

ーーオタクや趣味への向き合い方の例をあげるのであれば……『花束みたいな恋をした』という映画ってご覧になっていますか。

見ました!

ーーあの映画で「けっこうマニアックって言われるけどね、『ショーシャンクの空に』っていうのがめっちゃ泣ける」などと言う人に対して、菅田将暉が露骨にうんざりとするんですよね。また、彼はサブカルチャーのオタクだからこそ、有村架純と恋人になれたんですけど、その後には書店で自己啓発本を手に取っていて……この映画を見ているオタクである自分も、すごく悲しい気持ちになったんです。

分かります。

ーー「同じ趣味の本棚を見て意気投合してたじゃん! あの頃の君はどこ行ったの!」って。それはともかく、やはり個人の趣味や作品に対しての認識について嫌悪感を抱きすぎるのはよくないしですし、自分の趣味や好きなことへの思い入れについても過剰な考えになりすぎない方がいいと、学べる作品でもあると思うんです。

「2時間座って見るほどの映画ってなんだろう」という話題も

ーーあとは、映画の上映時間の2時間が耐えられないという人が、最近は増えてると聞きますね。

私もけっこうそのタイプで、この前友達と「休みの日に映画でも見るか」と話していると、「2時間座って見るほどの映画ってなんだろう」という話題に発展したんです。「2時間見た結果、あんまり話が面白くなかったとしたら、もったいなく感じてしまうよね」「ドラマだったら、1話だけ見て、もう来週は見なくていいという選択もできるよね」と。

ーーそれはやはり「タイパ」を気にする若者ならではですね。でも、その気持ちも分からなくもないんです。単純な時間の長さももちろんですが、映画は演出や音響が映画館のスクリーンで鑑賞することを想定している一方、ドラマは(作品にもよりますが)集中力が切れないようにテンポ良く編集したり、キャッチーな演出をしていることもあります。映画館でならともかく、「家で映画を2時間も見られない」というのは、むしろ当たり前というか、「そういうふうに作っているものなんだから」とも思いますね。

家で見る、映画館で見る、という選択に関係なく、やっぱり自分も友達も、「2時間も座ったままで耐えられない」「2時間座って見るほどのものなのかな」という気持ちが先立ってしまうようで……。

ーーなるほど。個人的には、単純に時間の面を考えても、映画よりもドラマの方が見るハードルが高く感じたりするのですけどね。映画は2時間で終わるけれど、ドラマは十何話もかけていて、作品によっては何シーズンもあったりして、「全てを味わう」には映画の何倍も時間がかかるのですから。

また、映画は2時間でひとまず作品が完結するので、つまらなかったらつまらなかったで、その作品の評価や自分自身の中での咀嚼(そしゃく)ができますが、ドラマを途中でやめてしまうとそれもできません。それもまた人それぞれですし、やっぱり、そもそも映画とドラマで比べるものでもないのかもしれないですけどね。

それでも「2時間をかけて見た映画がつまらなかったらどうしよう」といった話は聞きますし、同意できるんです。

ーーうーん……では、漫画作品を持ち出して恐縮なのですが、『チェンソーマン』の5巻(第39話)では、マキマさんというキャラクターが「夜の十二時まで映画館で映画をハシゴして見まくることに付き合わせる」エピソードがあります。主人公のデンジはそれぞれの映画を微妙に感じて、「映画とかわかんないのかも」とこぼしたりもしますが、最後に見た、しかも世間では難解と評されている映画で大いに感動して「あのラスト絶対死ぬまで忘れないと思います」と口にしたりもするんです。
そして、マキマさんが「私も十本に一本くらいしか面白い映画には出会えないよ、でもその一本に人生を変えられた事があるんだ」と言っていたのが、映画ファンとしてすごくうれしかったです。

そこまで極端な割合ではなくていいのはもちろんですが、映画で2時間の時間をかけることも、つまらなく思ってしまうことも、それくらいは「普通」のことなんだと、ハードルを上げすぎなくていい、その上で一生大切にするほどの映画を見つけるくらいでいいと思うのですけどね。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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