1. トップ
  2. エンタメ
  3. 永野芽郁と高橋文哉の“かけがえのない表情”を切り取った珠玉の恋愛映画『からかい上手の高木さん』徹底考察&評価レビュー

永野芽郁と高橋文哉の“かけがえのない表情”を切り取った珠玉の恋愛映画『からかい上手の高木さん』徹底考察&評価レビュー

  • 2024.6.7
  • 1731 views
写真:映画チャンネル編集部

『愛がなんだ』『街の上で』などを手掛ける今泉力哉監督がメガホンをとった『からかい上手の高木さん』が5月31日より公開中だ。原作から10年後の未来を描いた本作。今回は、初共演となる永野芽郁と高橋文哉が魅せる甘酸っぱい描写や、オリジナル展開の魅力に迫る。(文・村松健太郎)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
ーーーーーーーーーー
【著者プロフィール:村松健太郎】
脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。

映画『からかい上手の高木さん』
©2024映画からかい上手の高木さん製作委員会 ©山本崇一朗小学館

累計発行部数1200万部山本崇一朗の同題ベストセラーコミックの実写映画化である。

中学のクラスメイトで、座席も隣同士の高木さん(永野芽郁)と西片君(高橋文哉)の微笑ましいやり取りを描く。

西片は何かと高木さんにからかわれ続ける日々を送る。西片はなんとか“からかい返し”を試みるも常に高木さんに一歩先を行かれてしまう。男女のやり取りが実に楽しく、さらにその中にほんの少し隠されている“特別な感情”に甘酸っぱい気持ちになるものだ。

「からかい上手の高木さん」はこれまでアニメシリーズが作られてきたが、今回待望の実写化となった。

原作にあたる部分は、高木さん役に月島琉衣、西片役に黒川想矢を抜擢した、2024年の深夜帯の春ドラマで(TBS系列)描かれた。今回の映画では、原作番外編で素描された未来の話の部分を含む、オリジナル展開となっている。

ドラマ版は原作のテイストを巧く活かした秀作であった。月島琉衣、黒川想矢の2人がちゃんと個性を発揮しながら、映画版の永野芽郁と高橋文哉に繋がるように見えるからお見事だ。

深夜帯の放送であるためにあまり話題にならなかったが拾い物感あふれる逸品となっている。Netflixではドラマもアニメも観ることができるので、映画公開のタイミング見てみるのも良いかもしれない。

永野芽郁
永野芽郁Getty Images

ドラマの演出に関しては映画と同じ今泉力哉監督が手掛けているのでドラマと映画がシームレスに繋がって見える点もポイントだ。

今泉力哉監督は、今年で43歳と映画監督としてはやっと中堅に差しかかったばかり。

映画学校「ニューシネマワークショップ」の受講を経て、ENBUゼミナールのスタッフとなり、2010年に『たまの映画』で長編監督デビューを果たした。

筆者はニューシネマワークショップの映画ビジネス部門を受講していたこともあり、ニューシネマワークショップ関連イベントで映画監督として活動したばかりの今泉監督にご挨拶をさせていただいた経験がある。大した会話はしていないがとても丁寧な物腰が印象的だった。

2010年代半ばからはコンスタントに長編映画を手掛けていて、年に複数本の新作が公開されることもある。

その多くの作品がラブストーリーであることから、今泉力哉監督は“新世代の恋愛映画の旗手”と評されるようになってきている。

アラサー女性の片想いを描いた2019年公開の『愛がなんだ』はロングランヒット。その後、『mellow』(2020)、『窓辺にて』(2022)、『アンダーカレント』(2023)と立て続けに話題作を手がけ、近年では、今泉力哉監督作品であるということが、セールスポイントになってきた感がある。

手がける作品は、原作モノからオリジナルまで様々だが、どの作品でも程よい距離感で登場人物に寄り添う作風は共通していると言えるだろう。

邦画で恋愛モノというとティーンエイジャーの物語が多いが、今泉力哉監督のフィルモグラフィーには実はそういったものは少なく、今回の映画『からかい上手の高木さん』など珍しい部類に入る。次のページからは、今泉力哉監督が手がけた、王道の青春恋愛映画の気になる出来栄えについて見ていこう。

俳優・高橋文哉
高橋文哉Getty Images

前述の通り、本作は4月期に放映された中学生編の連続ドラマの10年後を描いたオリジナルストーリーだ。

中学生以降の高木さんと西片については原作の番外編などで結婚した姿が断片的に描かれて来たが、今回はそこまでの過程を大きく膨らませて一本の映画としている。

とここまで書くと、ドラマを見ていない人たちには入りづらい映画なのかとも思われるだろうが、高木さんと西片二人の関係性について、前提となるヒストリーは映画でも触れられているので、安心して観ることができる。

キャスティングで言えば永野芽郁と高橋文哉という、今が旬の俳優がそろい踏み。二人とも様々なキャラクターを演じてきたが、基本的には“陽性”な気質の持ち主であろうことは見ていれば伝わってくる。この“陽性”な部分と映画が(さらに言えば原作が)持ち合わせている優しい部分とがうまくマッチしている。

かつて中高生だった方々、今まさに中高生である方々共に、女子の方が男子より少し大人びているように感じられるのではないだろうか。もちろん、個人差によるのは言うまでもないが、『からかい上手の高木さん』において、常にからかう高木さんとからかわれる西片という関係性には、思春期の男女における精神面の成長スピードの差異が隠し味になっている。

その点、永野芽郁と高橋文哉というキャスティングが絶妙である。実年齢で言うと2001年生まれの高橋に対して、1999年生まれと永野の方が年上である。永野演じる高木さんは、精神的にお姉さんの立ち位置だが、彼女本来の素朴さによって時折あどけなさが垣間見える。

一方で、高橋演じる西片は、高木さんにからかわれながらも、一足先に社会人になり、時折ハッとするような頼もしさを見せる。

つまるところ、本作では、一見「女子は男子よりも大人びている」というステレオタイプに則っているように見えるが、実は、そうした単純な図式に回収できない、主役二人の繊細な部分を丁寧にすくい取っているのだ。

本作における二人の表情は、もしかすると今、この瞬間を逃したら決して映すことができなかったものではなかろうか。

かけがえのない瞬間を切り取った映画『からかい上手の高木さん』は今このタイミングでしか成立しえなかった作品である。ぜひ、劇場の大スクリーンで堪能してほしい。

(文・村松健太郎)

【作品情報】
映画『からかい上手の高木さん』
原作:山本崇一朗「からかい上手の高木さん」(小学館「ゲッサン少年サンデーコミックス」刊)
監督:今泉力哉
脚本:金沢知樹 萩森淳 今泉力哉
音楽:大間々昂
製作:映画『からかい上手の高木さん』製作委員会
配給:東宝
キャスト:永野芽郁 高橋文哉
鈴木仁 平祐奈 前田旺志郎 志田彩良 白鳥玉季 齋藤潤 / 江口洋介
©2024映画『からかい上手の高木さん』製作委員会 ©山本崇一朗/小学館
2024年5月31日(金)全国東宝系にて公開中

元記事で読む
の記事をもっとみる