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決して提出はできない「疑似婚姻届」。私達の関係を肯定する唯一の証

  • 2024.6.7
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人々が連想する「お祝いの日」とはなんだろうか。
誕生日?結婚記念日?母の日?父の日……?

お祝いの日はおそらくたくさん存在するけれど、「これが記念日だ!」と認定する日は人それぞれ異なるだろう。推しの誕生日が一番の記念日だと考える人もいるだろうし、毎日が記念日と感じる人もいるかもしれない。
私にも数多くの記念日があるけれど、その中でもとりわけ特別なのが恋人と「疑似婚姻届を書いた日」である。

疑似婚姻届……?と頭の中にハテナが浮かぶ人もいるだろう。婚姻届は愛し合う二人が書くのだから、「疑似」ではないだろうと思うかもしれない。
「疑似」とはよく似ていること、真似したものという意味がある。婚姻届という言葉に「疑似」をつけてしまうと、疑似婚姻届とは「(本物の婚姻届と)よく似ている婚姻届」を指す言葉になってしまう。ますます頭の中にハテナが浮かぶ人が出てきてしまうかもしれない。
でも、これから私が話す内容を聞くことで「疑似婚姻届」が一体何を指すのか分かるようになると思う。

◎ ◎

かがみよかがみのエッセイで複数回取り上げたことがあるが、私の恋人はポリアモリーだ。
ポリアモリーとは合意の上で複数人のパートナーを持つ人のこと。そのため、彼には私の他にもパートナーがいる。
私と他のパートナーは彼が複数人と付き合うことを受け入れたうえで、関係を続けている。
ポリアモリーの人たちのなかには結婚する人もいるし、結婚しない人もいる。モノガミー(一夫一妻)の人たちのなかでも、お互いの判断によって事実婚や法律婚を選択する人がいるだろう。

彼は私と出会う前に、既に婚姻関係を結んだパートナーがいた。私は既婚者に恋をしてしまったのだ。こんなことは倫理的にあってはならない。

私は「もうあの人とは一緒にいられない」と思い、別れを決めた日にずっと秘めていた想いを打ち明けた。彼に「あなたが好きでした」と告白したのだ。すると恋人もまた、自分がポリアモリーであるという秘密を私に打ち明けてくれた。
最初は「私を不倫相手にするつもりなの!?」と彼をコテンパンに責めていたが、ポリアモリーについて調べるうちに私は彼の恋愛観を、彼は私の葛藤を少しずつ理解するようになった。
もちろん今でも喧嘩はするし、他のパートナーには嫉妬心も抱くけれど、別れる気はさらさらない。

◎ ◎

ダラダラと書いてしまったが、簡潔に説明するならば、私は彼と結婚することができない。なぜなら、彼は既婚者で法律上のパートナーがいるから。よって、私は一生彼との婚姻届を提出することができない。
でも、私も彼も互いのことを愛しているし、ずっと一緒にいたいと思っている。この気持ちに偽りはない。婚姻届は提出できないけれど、二人が想い合っていたという証が欲しい。私はそう思い、彼に「疑似婚姻届を書こう」と誘った。

その後の展開は思いの外早かった。私たちはその日のうちに婚姻届をもらってきて、疑似婚姻届を書いた。決して役所には提出することができない婚姻届。
ささやかなお祝いとして、二人でワインを開けて飲んだ。私たちの疑似婚姻届を見て、喜ぶ人は誰もいない。「おめでとう」とか「幸せにね」という言葉を送られることもない。疑似婚姻届を書いたことは、私と彼だけしか知らない。だから、証人欄は空欄で誰にも書いてもらえていない。
彼は手慣れたようにサラサラと婚姻届の枠を埋めていった。私は本籍地を書くことを知らなかったので、内心少し焦りつつ震える手をおさえて空欄を埋めた。彼との婚姻届を書けたことが嬉しくて涙が出てきた。

◎ ◎

今まで私の周りの人たちは散々私たちの関係を否定してきた。「不倫」「すぐ別れる」「パパ活」「遊ばれてるだけ」と何度も言われた。
誰からも祝われない。私たち以外は誰も知らない疑似婚姻届。可哀想な婚姻届に見えるかもしれない。
でも違う。

この疑似婚姻届は私たちが想い合ったことの証明だ。役所に提出できないけれど、自分たちの手元に置いておくことができる。
法律的に決して夫婦にはなれないけれど、それでも私たちにとっての唯一の証。
遊びでも軽い関係でもない。私たちはお互いを尊重し、支え合う関係だ。
疑似婚姻届は私達二人の関係を肯定してくれる証明書なのだ。

私たちが疑似婚姻届を書いたのは十月。今からだとまだ四ヶ月ほど先ではあるが、その日は疑似婚姻届を書いたときに飲んだワインを買って、恋人とささやかなお祝いをしたいと思う。

■すもものプロフィール
文章を書くのは下手だけど、何気ない日常の幸せをTwitterで呟くことが好き。皆さんの素敵な文章を読むのも好き。詩を書くことも好き。この春、大学院生。

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