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松下洸平登場に恋の予感…“越前編”でサスペンス色が増した理由とは? NHK大河ドラマ『光る君へ』第22話考察レビュー

  • 2024.6.7
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『光る君へ』第21話より ©NHK

吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。まひろは父・為時と共に越前の地へと到着するが、為時は多忙にあけくれて倒れてしまう。父の治療のために現れた薬師は、敦賀で出会った周明だった…。今回は、第22話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『光る君へ』第22話より ©NHK
『光る君へ』第22話より ©NHK

越前国府に行く前に、敦賀の松原客館に立ち寄ったまひろ(吉高由里子)と為時(岸谷五朗)。2人は宗から来た商人・朱仁聡(浩歌)と、通詞の三国若麻呂(安井順平)らに迎えられる。為時は当初、彼らが本当に商人なのかを疑っていたが、交流を深めていくうちに好感を抱くのだった。

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翌日、まひろと為時は越前国府に到着。役人の大野(徳井優)や源光雅(玉置孝匡)に、朱が修理に出しているという船はどうなったかを尋ねる。しかし、「宋人のことはこちらでよしなにやっておきますので」とはぐらかすばかり。

さらに、源光雅は為時に「どうぞ越前のことは我々越前の者にお任せくださいませ。国守さまはただそれをお認めいただければ懐を肥やしになって都に戻られましょう」と賄賂をちらつかせる。だが、真面目な為時は毅然とした態度でこれを拒否した。

すると役人たちの嫌がらせか、翌日から民の陳情が殺到し、為時は多忙で体調を崩す。そんな為時を診てもらおうと、朱が連れてきたのは、敦賀でまひろが少しばかり言葉を交わした薬師の周明(松下洸平)。周明が施した鍼治療で為時はすっかり元気を取り戻した。

しかし、突如として通詞の三国が何者かに殺害される。越前の役人たちは朱を犯人として拘束。まひろは左大臣の道長(柄本佑)に手紙で判断を仰いだが、道長は道長で、それどころじゃない状況に直面していた。というのも、貴子(板谷由夏)の死後、定子(高畑充希)が一条天皇(塩野瑛久)の子を妊娠していることが発覚。その対処に追われていたのだ。

よって、道長からは「越前のことは越前でなんとかせよ」という頼りない言葉を綴った手紙が返ってくる。まひろたちが途方に暮れていると、やってきたのは周明。とある下人を連れてきた彼は、流暢な日本語で「朱様は通詞を殺していない。証人だ」と訴えるのだった。

『光る君へ』第21話より ©NHK
『光る君へ』第21話より ©NHK

まひろは生まれて初めて都を離れ、父である為時と越前国へ。『光る君へ』“越前編”がスタートし、宗人たちとの華やかな交流が描かれる一方で、通詞・三国の死によりサスペンス色が増した。

その一端を担っているのが、今回から登場となった松下洸平演じる周明だ。主演を務める吉高由里子とは、2021年のドラマ『最愛』(TBS系)以来約2年ぶりの共演となる。

周明は物静かで、物憂げな眼差しが何だか気になる人物。まひろも敦賀の海でふと目が止まり、「私の名前はまひろ」と語りかける。すると、落ちている木の枝で砂に自分の名前を書く周明。これは、まだ三郎と呼ばれていた頃の道長との出会いと同じシチュエーションである。何やら恋が始まりそうな予感を漂わせた。

だが、作中で吉高由里子と松下洸平が出会うと何かが起きる。三国は果たして誰に殺されたのだろうか。役人に拘束された時の反応を見る限り、おそらく犯人は朱ではなく、何者かに嵌められたのだろう。まひろに話しかけられた時は日本語が分からないそぶりを見せていたにも関わらず、周明は突然流暢な日本語で朱の無実を訴える。謎めいた人物だ。

松下は現在放送中のドラマ『9ボーダー』(2024、TBS系)で記憶喪失の男性を演じており、ミステリアスな役柄が続いている。同作で松下が演じるコウタロウは優しく微笑む癒し系の男子で、周明とはまた違ったタイプだが、掴もうとしても手のひらをすり抜けていきそうな雰囲気がニクい。

周明もあっさり消えてしまいそうなくらい儚げで、何だか直秀(毎熊克哉)の面影を感じてしまう。淡々と器用に鍼治療を施す様も、卒なく何でもこなす直秀と被った。死別した忘れがたい人と、どこか似ている人に出会い、恋に落ちる…。異国情緒溢れるセットも相まって、王道の韓国ドラマを彷彿とさせた。

『光る君へ』第22話より ©NHK
『光る君へ』第22話より ©NHK

周明ともう一人、女性視聴者の心を鷲掴みにしているのが町田啓太演じる藤原公任だ。実資(秋山竜次)から検非違使別当を引き継いだ公任は、貴子危篤の報せを受け、都に舞い戻ってきた伊周(三浦翔平)を大宰府に追い返そうとする。

道長に「とっとと高階明信の屋敷を改めればよいのだが、俺って優しいからな」と言っていた時はただの軽口だと思っていたが、実際に伊周に泣いてせがまれると無下にもできず、貴子に一目会わせてやろうとする公任。結局、貴子の死に目に間に合わず、ふらふらとその亡骸に近づく伊周を検非違使たちは止めようとしたが、公任はそれを制した。意外な優しさに驚く。

というのも、公任は少々いけ好かないやつだった。容姿端麗で色好みだが、女性に対するナチュラルな差別意識がある。彼が「女こそ家柄が大事」と話しているのを聞いたまひろが傷ついたこともあった。権力欲も強く、兼家(段田安則)の死後、兄弟間で跡目争いが起こった時は道兼(玉置玲央)についた。

けれど、よくよく考えれば、自暴自棄に陥った道兼を屋敷に何日も泊めていただけあって、本当は面倒見がいいのかもしれない。町田啓太が演じる公任からは、冷徹になり切れない人情味が溢れている。だから、道長は彼に信頼を置いているのだろう。

周明と公任という2人の男性の魅力が溢れる一方で、すっかり落ちぶれた伊周。当初の貴公子ぶりは完全に失われている。だが、母親にすがるその姿は幼子のようで、哀れにも思えてきた。生まれた時から両親に何もかも与えられてきたがゆえに、世間知らずで未だ自立できていない。

ある意味、彼は間違った子育ての被害者なのだ。同じく父親からの愛情を十分に受け取れず歪んでしまった道兼のように、視聴者の評価を取り戻すことはできるだろうか。

(文・苫とり子)

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