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たとえ0.01%のチャンスでも掴み取る強さ/レスリング須崎優衣

  • 2024.6.6
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いよいよ今年開幕となるフランス・パリ開催の「オリンピック」。32競技329種目、世界各国のアスリートがしのぎを削る。4年に一度の祭典を前に、ウィメンズへルスが特に注目する選手にインタビュー。

世界的にも最高峰と言われる、日本女子レスリング。その中で一段と強さを見せているのが、50キロ級の須崎優衣選手だ。撮影現場に晴れやかなあいさつで登場した彼女は、スイーツが大好きでオフの日はカフェで友人と、他愛もない会話を繰り広げるのが何よりもの息抜きだという。

2020年の東京オリンピックでは、初出場で金メダル獲得という輝かしい成果を収めた。2度目となるパリオリンピックでは、どんな姿を見せてくれるだろうか? 彼女の強さの秘訣と普段の顔に迫った。

勝利する喜びが、背中を押し続けた学生時代

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須崎選手がレスリングを始めたのは、小学1年生の時。もともと、父がコーチを務めるレスリングクラブに行ったのがきっかけだという(「」内、須崎選手)。

「私から『やってみたい!』と父にお願いして連れて行ってもらったのがレスリングとの出会い。当時、水泳やピアノ、陸上などの習いごとをやっていたけど、レスリングが一番楽しかったですね。試合で勝てると嬉しくて、『もっとうまくなりたい』『もっと勝ちたい』と練習のたびにワクワクしていました。周りの人から素質があると褒めてもらったのもあって、のめり込んでいきましたね」

その頭角はすぐに現れ、中学時代は日本オリンピック委員会が若手の英才教育をするエリートアカデミーで実力を磨き、選手権大会で3連覇を達成、高校3年生の時には世界選手権で初優勝。負けなしの強さを誇っていた。

絶望の淵から掴んだ、初の金メダル

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そんな順風満帆に見えるレスリング人生で大きな逆風が吹いたのが、2019年の世界選手権。勝てば、翌年2020年の東京オリンピック代表内定が決まる大事な一戦だが、須崎選手の姿はそこにはなかった。

「世界選手権の前の大会で敗れてしまい、出場が叶いませんでした。この時、東京オリンピックへの出場の可能性はたった0.01%、絶望的でしたね」。

しかし、世界選手権に出場した別の選手が内定の条件を満たせず、須崎選手に再び代表争いのチャンスが巡ってくる。そして見事勝利し、代表内定を獲得した。

「夢にまで見た舞台に、もしかしたら立てないかもという不安が過りました。今まで頑張ってきた自分を100%信じてあげられていなかったんですよね。でも戦うのは私しかいないし、私自身が私にとって一番の味方でいてあげようって強く思って、臨みました」

そして迎えた「東京オリンピック」での活躍は、周知の通り。

それから3年後、2024年の「パリオリンピック」の代表内定がかかった「世界選手権」は特別な想いで挑んだ。しかし、大会前に右ひざを痛めてほぼ練習ができていない厳しい状況の中での出場だった。

「2019年の『世界選手権』に出場できなかった悔しい思いを必ず果たしたい一心で、挑みました。練習ができていないなかでの出場という今までにない厳しい状況だったけど、絶対に一発でオリンピック出場を決めたいという気持ちが私を強くさせてくれました」。

そして、見事決勝で勝利を収め、パリへの切符を手にした。

強さの理由は“徹底的に不安と向き合う”こと

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どんな時でもポジティブで前向きな彼女は、数々の正念場を乗り越えてきた。その分、重圧も大きかったと思うが、「プレッシャーはあまり感じないんです(笑)」と話す。

大舞台でも揺るがないメンタルを保ち続ける秘訣は、学生時代から変わらない。

「思い返してみてば、まだレスリングを始めて間もないころから、プレッシャーを感じることはなかったですね。オリンピックのような大きな大会でもワクワクするんです。不安になることもあるけど、ただ不安に対してどうしようって思わずに、『何が原因で不安なのか?』を一つ一つ細かく分析してノートに書きだすようにしています。例えば、上手く試合でタックルが決まらなかったときは、『足を踏み出すタイミングはどうだっただろう?』『手の位置はここでよかったんだろうか?』って原因を洗い出して、一個一個潰していく。どうしたら克服できるのかを考えます。ここが足りなかったから、もっとそれを練習しようって、頭と心の整理になるんです」

徹底的な問題分析と並々ならぬ努力で、一個一個着実に改善していったのだろう。

もちろん、日々の練習や気持ちの強さが勝利の土台だが、“運を味方にする力”もまた彼女の強さ。

「“1日3善”を心がけています。小さなことなんですけど、練習の時は相手がわかりやすいようにアドバイスしたり、バスで荷物をたくさん持ったおばあちゃんがいたら手伝ってあげるとか……。人から『ありがとう』って言ってもらえるような行動を一日最低3回はしたいなって思ってます」。

2度目のオリンピック。でもプレッシャーはない

前回大会で掴んだ“最高位”の金メダル。一度、王者の座を手にした彼女は、今大会何を目標にして、何をモチベーションにしているのか?

「2020は初のオリンピック出場だったので何もかも新鮮で。まさに未知の世界でした。

でも今回のパリも、まだ体験したことがないことに挑戦する新鮮さは、1回目と変わりません。目標はもちろん『2連覇』ですが、プレッシャーはなくて、ただただ楽しみでしかたない。オリンピックって本当にすごいんですよ(笑)。あの舞台にもう一度立てる喜びが闘志を燃やしてくれます。

それに、前回は無観客試合だったけど、今回は色んな人が見に来てくれるので、それがとても嬉しい。私は応援をされればされるほど力に変えられるので、頑張ってきた自分自身にも応援してくれる人たちにも恩返しできる最高の舞台だと思っています」。

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攻め姿勢、スピード感、迫力のあるタックルを見逃すな!

そんな須崎選手にレスリングの見どころや自身の強みを聞いた。

「レスリングは、豪快なタックルでポイントを取ったり、ゲームの展開が早くて面白いところが見どころなので、スピード感を楽しんでほしいですね。私のレスリングの強みである強気でガツガツ攻める姿勢を、ぜひ見ていて欲しいです!」

真っ直ぐ前だけを見る彼女の目は、すでにパリよりも先を見ているのだろう。

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須崎優衣(すさき・ゆい)

レスリング女子50キロ級選手。小学2年生からレスリングを始め、ジュニア時代から数々の大会で優勝。2021年「東京オリンピック」レスリング女子フリースタイル50kg級金メダリスト。スピードに乗ったタックルを中心に多彩な技による攻撃が最大の持ち味。株式会社キッツ所属。

Photo: TAROH OKABE(SIGNO)Hair &Make: KIKKU Text: YUMI KOBAYASHI

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