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PG12指定のワケは? “究極の反戦アニメーション”を深掘り解説。映画『ユニコーン・ウォーズ』徹底考察&評価レビュー

  • 2024.6.6
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©︎2022 Unicorn Wars
©︎2022 Unicorn Wars

本作は、イラストレーターやバンド活動を経て、大人向け長編アニメーション作品を手掛けるようになったアルベルト・バスケスが脚本・監督を務めた戦争映画だ。

『サイコノータス 忘れられたこどもたち』(2015)に次ぐ、長編2作目となる本作でバスケスは、スペイン版アカデミー賞ともいえる、2023年の第37回ゴヤ賞で最優秀アニメーション映画賞を受賞している。

このプロットは、テディベアとユニコーンとの間の紛争を軸に、かつてはテディベアが暮らしていたものの、凶暴なユニコーンが乗っ取り、そこに生息する魔法の森の奪還のために派遣された2匹のテディベアの双子、ゴルディとアスリンが主人公だ。

テディベアのアスリンは双子の兄のゴルディと軍の新兵訓練所で、暴君的な軍曹の下で、屈辱にまみれた特訓の日々を過ごしていた。憎きユニコーンを絶滅に追い込むためだ。

ある日、森から帰ってこない部隊を捜すため、捜索に参加したアスリンたちはその森で危険な生物や無残な姿となった隊員たちを目にする。

彼らの聖書に記された「最後のユニコーンの血を飲む者は、美しく永遠の存在になる」という言葉を信じ、野生のユニコーンが生息する深い森へと進軍していくのだが、森の中で起こる残酷な出来事の行く末には、悲惨で結末が待ち受けていた…。

©︎2022 Unicorn Wars
©︎2022 Unicorn Wars

企画・制作期間に6年を要し 250人以上の精鋭スタッフが、 50体ものキャラクターと 1500もの背景によって作り上げた、2Dと3Dアニメーションが融合。音楽も巧みに駆使して、シチュエーションやキャラクターともシンクロさせながら、その残虐なストーリーとともに、芸術性に溢れる作品に仕上げている。

本作のキャラクターのかわいい見た目からは、子ども向けアニメと思われがちだが、家族関係、宗教、環境、悪の起源、そして権力を支配する意味を語りながら、“分断がもたらす争い”を露悪的に見せていく大人のためのダークファンタジー作品だ。

バスケスは、「地獄の黙示録」×「バンビ」×「聖書」という3本柱のコンセプトに、テディベアとユニコーンの最後の聖戦を、血しぶき、内臓、ドラッグ、BL、テディベアの下半身なども交えて描き出しており、「PG12指定」を受けている“究極の反戦アニメーション”だ。

しかしながら、バスケスが訴えたいのは、家族、宗教、環境、悪の起源、そして権力を支配する意味であり、分断がもたらす争いがいかに無意味であるかを説いているのだ。

バスケスが「狂信的な考えがどのように戦争拡大に影響するかを描きたかった」と語っている通り、テディベアは見た目のかわいらしさに反して、次々と残虐行為に走っていく。テディベアは、己の信念と欲望、そして支配欲の果てに、道徳心を見失っていく。

©︎2022 Unicorn Wars
©︎2022 Unicorn Wars

また本作では、テディベアとユニコーンとの闘いで描かれる分断だけでなく、テディベアたちの生い立ちも描くことで家族内での不和や不寛容という身近な分断も細やかに描いている。

“平和な神の楽園”を巡って戦争が起こるというストーリーは、現在進行形で起きているガザ紛争を想起させ、擬人化したかわいいテディベアが、殺戮を繰り返していくその様は、否が応でも、人間である我々の心を突き刺していく。

バスケスは、「製作するにあたり、『地獄の黙示録』や『プラトーン』などの戦争の悲惨さを描いた映画を観賞し、キャラクターは『バンビ』を意識した。そして聖書については何度も言及している。

異なる要素が混じり合い、素晴らしい化学反応が作り出されている。テディベアにとって自分たちの宗教と道徳的な葛藤があり、狂信的な考えがどのように戦争拡大に影響するかがリアルに描かれている。

アスリンはその後、ユニコーンとの戦いで、顔面の半分を失うが、その勇気が称えられ、中尉に昇進し、兵士たちを鼓舞する英雄となる。彼は、顔を覆うマスクを着けて生きていくことになる。

力を持ったアスリンは、クーデターを起こし、軍指導者らを殺害した上で、ユニコーンとの最終決戦のための軍隊を組み、森へと向かう。

テディベアとユニコーンとの苛烈な聖戦が終わる。死んだはずのユニコーンが変異し、黒く巨大な生物と化し、そこに、テディベアとユニコーンの対立には関わらず、森で平和に暮らしていたサルたちが、それについていくというラストシーンで、物語は終わる。

ユニコーンが変異した動物とは何か…。思わず、全身に戦慄が走る。

数多くの戦争映画を研究したと語るバスケスだが、それらを凌ぐ、残酷かつ現実味を帯びる結末だ。

92分という、比較的短尺の作品だが、アニメーションであることを生かしたバイオレンス描写やテンポの良さで、思わず引き込まれる。そして、予想だにしない結末に、しばし呆然とさせられる作品だ。

【作品概要】
原題:Unicorn Wars
翻訳:堀江真理
監督:アルベルト・バスケス
提供:リスキット、チームジョイ、トムス・エンタテインメント
配給:リスキット
宣伝:プリマステラ
協力:インスティトゥト・セルバンテス東京
2022年/スペイン・フランス/92分/カラー/2K/ビスタ/5.1ch/スペイン語/日本語字幕/PG12
©2022 Unicorn Wars

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