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「おめでたい」なら言いふらしても許される? 職場の「妊娠アウティング」経験者が感じたこと

  • 2024.6.6
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たとえ、結婚や妊娠など“めでたいこと”だとしても、秘密にしておきたいのならば誰にも言わないことだ。人は秘密は話す。めでたいことならばなおのことだ。しかも、まったく悪びれずにやってのけるはずだ。
たとえ、結婚や妊娠など“めでたいこと”だとしても、秘密にしておきたいのならば誰にも言わないことだ。人は秘密は話す。めでたいことならばなおのことだ。しかも、まったく悪びれずにやってのけるはずだ。

「口より出せば世間」「口から出れば世間」という諺(ことわざ)がある。

どんなに信頼できる相手であっても、あるいはまったく関わりのない人であっても、大事な秘密をひとたび口から漏らせば、それは世間のすべての人に話したも同じことという意味だ。

秘密を守りたいのなら誰にも話さない。それに尽きる。とはいえ、「まだ内緒にしてね」と言いながら、親しいからついうっかり言ってしまうのもよくあることだ。

30代女性が経験した「妊娠アウティング」

本来、重要なことは自分の口から人に知らせたいもの。それも自分のタイミングで。他人から広まるのは本意ではないと思う人は多いはずだ。

だが、今広まると困るが、親しい人にだけは伝えておきたい、あるいはうっかりその場のノリで言ってしまうということもある。

たとえば妊娠。うれしいけれど、初期はまだ体調が不安定だから広まるのは困る。職場なら今後の段取りもあるから、まずは上司に伝えなければ。

「私のときもそうでした。以前、流産したことがあるので、特に慎重になっていました。だけど職場でいつも私を気遣って仲良くしてくれる5年先輩のヨシエさんだけには、早く伝えたいと思ったんです」

タカミさん(36歳)はそう言う。今から2年前のことだ。29歳で結婚、30歳で妊娠したが初期に流産した。だからこそ、誰にも言うまいと思っていた。だがヨシエさんだけは別だった。

「ヨシエさんとはずっと別の部署で、それでも仲良くしてもらっていたんですが、4年前から同じ商品企画の部署になった。女性だけのチームで、ヨシエさんがチーフです。

私は無謀な企画を結構出すんですが、ヨシエさんはどんなときもダメとは言わない。『どうしたら、それを形にできるか考えようよ』と言ってくれるんです。

それで実際に形になり、当たった商品もあるんです。もちろん、チームで作った商品だけど、ヨシエさんは、私の企画があったからこそと褒めてくれた。

常識の枠におさまらないところがいいんですと、上役にも言ってくれたりして。彼女は自分の手柄にしないんですよ、そこがみんなに愛されているんです」

「おめでたいことなんだから」

そんな大好きなヨシエさんだからこそ、タカミさんはいち早く妊娠を告げた。もちろん、「また流産するかもしれないから、もう少しの間、誰にも言わないでほしい」と頼んだ。

ヨシエさんはしっかり頷いたが、数日後には違う部署の同期に「おめでとう」と言われた。それほど大きくない会社だから、どうやら社内中が知っているようだった。

「体調も含め、自分のタイミングで自分の言葉で伝えるべき人に伝えたかったとヨシエさんに言ったら、『おめでたいことなんだからいいじゃない』とニコニコしてて。私の気持ち、ちっともわかってないんだとがっかりしました」

おめでたいことなら広めてもいい。そんな価値観が通用しない時代になっている。それより当事者の思い、当事者の希望を優先させるべきなのだろう。

「結婚アウティング」をやられた女性も

「私は結婚でやられたんですよ、仲良しの同僚に」

怒りがおさまらないような口調でそう言ったのは、キミコさん(34歳)だ。昨年春、3年付き合っていた彼にプロポーズされ、有頂天になって仲良しの同期であるエリさんに話してしまった。

「だけどまだお互いの両親にも会ってないし、彼にはちょっと確かめたいこともあった。プロポーズされて受けたのは本当だけど、ふたりの間に解決していない問題もあるからまだ誰にも言わないでねとエリには言ったんです」

ところがキミコさんの場合も、数日後には知れ渡り、お世話になった以前の上司からは「すぐに知らせてくれると思ったのに」と言われる始末。

「エリに、言わないでっていったのにと怒ると、『だって自分のことのようにうれしかったのよ、だからつい』って。そう言われると怒るわけにもいかなくなった。

でもやはり自分から言いたかったですよね。社内で会う人会う人に『おめでとう、聞いたよ』と言われ、『仕事は辞めないよね』と上司に心配され、なんだかなと思ったりもしました」

その後、結婚話が破綻してしまう

実は数カ月後、この結婚話は破綻した。実は「解決していない問題」が大きな問題へと発展したのだ。それは彼の「浮気疑惑」だ。

キミコさんはプロポーズ直前、彼の浮気を疑っていた。それを察した彼が求婚に踏み切ったのではないかと思っていたのだ。いったんプロポーズを受けたものの、やはり疑惑は拭えない。

彼を追求したら、やはり彼は浮気していた。それでも水に流して結婚しようと決めたが、実際にはプロポーズ後も浮気相手と継続していると、彼の友人がこっそり教えてくれたのだ。

「そんな不実な男とは結婚できない、したくない。そう思って結婚は辞めました。心のどこかでそんなことになるかもしれないと思っていた可能性が高いんですよね、私。だからこそエリに口止めしたんだと思う」

結婚しないことにしたと、同じ部署の人にはすぐに伝えたが、他部署の全員に触れ回るわけにもいかない。

そのため久々に会った社外の人などは「結婚決まったんですってね、おめでとうございます」と破談後に言われることも多々あった。

「かっこ悪いですよね。だから言わないでっていったのにとエリに恨み言まで言っちゃいました。でも彼女は変わらず、『結婚やめることになるなんて思ってなかった』と強気の姿勢。

同期でいちばん仲のいい、生涯つきあっていける友だちだと信じていたのに、それ以降、距離をとるようになりました」

人生、何があるかわからない。だからこそ、一般的に“おめでたい”とされることであっても他人が本人の了承も得ずに触れ回ってはならないのだ。

口より出れば世間、という諺は真理だ。世知辛いとも思えるが、やはり秘密は自分の胸だけにしまっておくことでしか守れないものなのだろう。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

文:亀山 早苗(フリーライター)

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