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自己批判ばかりしてきた人も自分を愛せるの?「セルフラブ」の習得について

  • 2024.6.5
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ミレニアル世代とZ世代の女性たちは小さい頃から「自分を愛しなさい」と言われて育ってきた。でも、このセルフラブのムーブメントは、それ以前の世代の女性たちを冷たい人間にしてしまう。現に50代ライターのシェニア・タリオティスは、自分を強く批判しながら半世紀を生きてきた。彼女にも、自分という人生でもっとも大事な人間との関係を修復することはできるのだろうか? 今回はこの内容をイギリス版ウィメンズヘルスからご紹介。

「そのメガネ、誰に踏まれたの?」と同僚が聞いてきたとき、私は壊れたフレームを絆創膏で直したメガネをかけていた。不意を突かれるとはこのことだ。「たったいま壊しちゃって」と言おうにも、このメガネはもう何カ月もこの状態。実を言うと、私は自分の外見に長らく気を使っておらず、自分を見ずに毎日を過ごしている。自分の存在は他の人にも見えていないと思っていたので、その同僚のコメントは心に残った。こんな基本的なことですら長い間放置していた自分に対する驚きを伝えたときの彼の表情も消えなかった。ここまで来たら、自分で認めざるを得ない。フレームを取り替えていないのは自己愛が足りないからだ。もっと言うと、自分が自己嫌悪の塊だからだ。

半世紀にわたって私は、自分の中のいじめっ子と共に生きてきた。彼女は私の小さな成果を軽く扱い、私の失敗を誇張して、私がポジティブな変化を起こそうとするたびに嘲笑した。彼女から受けた精神的なダメージは、学業でも恋愛でも仕事でも私を抑制した。私が大事な試験を受けなかったのも、昇進の申請もしなかったのも、彼女にそそのかされたから。私は彼女の目を通してしか自分を見ることができない。そして、彼女が見ている人間(自分)は一度目をやる価値があるかも怪しいところ。

でも、57歳になったいま、私はこの自傷行為にウンザリしている。何か大きなきっかけがあったわけではないけれど、小さな出来事が積み重なって、私はようやくこの段階に到達した。具体的には、私のクローゼットがボロボロの服でいっぱいなのを知る友人から“オシャレ嫌い”に関する記事が送られてきたり、パンデミックが3倍長く続いても自分のヘアケアは一切変わらなかったであろう事実に気付いたり、最新の化粧品がギッシリ詰まった友達のメイクポーチと30年前にザ・ボディーショップで買ったパレットしか入っていない自分のポーチを見比べたりしているうちに変化が生じた。

私は何の前触れもなく、深いうつ状態に入ることがある。自尊心の欠如がうつ病につながることを証明するのは、その逆のケースに比べて難しいけれど、多数の心理学者にインタビューをする中で、自尊心の高さが良好なメンタルヘルス、自尊心の低さが不安や気分の落ち込みに関係していることは十分わかった。でも、希望がないわけじゃない。私がずっと傍観してきた“自分を愛する”というコンセプト、単なるオシャレなトレンドから強大な社会現象に発展した“セルフラブ”は、人を変える可能性を秘めている。私は、この言葉と共に成長してこなかった。でも、60代を目前にして思うのだ。いまからでもセルフラブを習得することはできるのだろうか?

世界的な危機

約150年前、「自分にとって最大の敵はいつも自分。洞窟や森の中で自分のことを待ち伏せている」と言ったのは、哲学者のフリードリヒ・ニーチェである。この言葉の意味なんて分からないほうがいい。自分を大切にしている人は、自分で自分を待ち伏せるという考え方と縁もゆかりもないはずだ。

でも、2020年、ザ・ボディーショップの依頼を受けて市場調査会社のイプソスが行ったグローバル・セルフラブ・インデックスによると、自己破壊と自己嫌悪、自尊心の欠如は多くの人の行く手を阻む問題になっている。21カ国から2万2000人が参加して、自分の自尊心、レジリエンス、自信、他者承認に対するニーズを評価した同調査では、私たちが「世界的なセルフラブ危機」に直面していることが判明した。英国からの参加者の自己評価は下から数えたほうが早い。

このレポートの統計は憂慮すべきものである。回答者の約60%は「自分をもっと尊重したい」と思っており、半数以上は「人を喜ばせるためにハッピーなフリ」をしていて、半数近くは「自己愛よりも自己不信のほうが強い」と感じていた。

最高の時代に生まれて成人できる可能性が低いことは、みな身をもって知っている。中でも特にZ世代(1997~2012年生まれ)の回答者は自分を愛することに苦労していた。だからこそ、この世代は集団的な信任危機に対抗する手段として、セルフラブのムーブメントを積極的に受け入れてきたのかもしれない。

セルフラブは昔からあるコンセプト(詳細は後ほど)。でも、そのコンセプトが本格的に普及したのは、インターネットとSNSが進化してから。グーグルトレンドのデータによると、“セルフラブ”の検索件数は2006年から着実に増加している。2006年は、フェイスブックが大学生のみというユーザー制限を解除して、13歳以上の人全員に開放された年である。

それからの20年でセルフラブのムーブメントは爆発的に拡大し、現在インスタグラムにはセルフラブのハッシュタグが付いた投稿が1億件近くあり、そこにはボディポジティブから基本的なセルフケアに至るまで、あらゆるものが含まれている。

さらにはセルフラブデー(2月13日)まで制定されているけれど、私の世代でこの革命を知る人は少ない。たぶん私の世代は、それほどセルフラブを必要としていない。年を取ると、欠点、ぜい肉、失敗を含めて自分を受け入れるのが楽になる。グローバル・セルフラブ・インデックスでも、私と同じX世代(1965~1980年生まれ)でセルフラブ度が低いと回答した人は18%だけだった。

私の世代がセルフラブを追求しない理由は他にもある。セルフラブのムーブメントに役に立たない側面があると感じているのは、私だけではないだろう。その側面とは、このムーブメントが「自分を愛せない人に人は愛せない」と言い切っている点だ。優先順位や価値観が(欧米とは)異なる社会で育った人や、自分を愛さずに何十年も生きてきた人にとって、このような考え方は時に有害であり苛立たしくもある。

自分を愛せない理由

もちろん、セルフラブのコンセプトは新しいものじゃない。愛することは昔から人間性に欠くことのできない要素。ギリシャの哲学者アリストテレス(紀元前384~322年)によると、自分は自分にとっての最良の友であるべき。しかも彼は、定期的に自分の様子をチェックして、セルフラブが自分の成長だけでなく、社会のためにもなっていることを確かめる必要があると言っていた。

この考え方はよいけれど、このトピックに関するガイド付きジャーナルを出版した心理療法士、シャロン・マーティン氏の言葉も好きだ。「セルフラブとは、自分を完全に受け入れて、やさしさと敬意を持って自分に接し、自分の成長とウェルビーイングを育むということです。これには、あなたが自分をどのように扱って、自分に対してどのような気持ちを抱き、どのように話しかけるかが含まれます」

マーティン氏によると、自分自身との関係は、他者との健全な関係にある特徴(敬意、思いやり、寛容、励ましなど)を全て備えていなければならない。彼女いわく、人を愛せる人には自分も愛せる。これは私に希望を与えた。私には心から愛している人がたくさんいるので、自分というもう1人の人間を愛することもできるはずだ。

私が自分を嫌うようになった理由を特定するため、私は自己啓発系ポッドキャスト『Dot To Dot』のホストで著書に『Mirror Thinking: How Role Models Make Us Human and Defining You』を持つフィオナ・マーデン氏に連絡し、自分の子どもの頃のこと、両親が不仲であること、母が愛を求めて私と兄を頼っていたことを伝えた。母からは「あなたたちだけが幸せの源」と何度も言われた。でも、彼女が得られなかったものを私たちに全部補えるわけがない。

小学校の初日も痛烈だった。私は幼少期をキプロスで過ごし、5歳でロンドン北部に引っ越した。でも、友達を作りたいと思って登校すると、ギリシャ語を話すどころか、私の名前を発音できる人さえいなかった。英語は数週間で話せるようになったけれど、この出来事で「自分はよそ者」という感覚が魂に埋め込まれたのは間違いない。

こういう幼少期の体験が自分に対するいまの見方(自分は周囲に馴染めない失敗作であるという見方)を形成したのか尋ねると、マーデン氏は「あなたは自分が仲間はずれにされていて、自分の母親が逃したものを全て与えてあげられなかったという認識を内面化したのかもしれません。でも、それは決してあなたの役割ではありませんでした」と言った。マーデン氏によると、この有害な内面化は“認知的フュージョン”によるものである可能性が高い。「認知的フュージョンとは、自分を思考や負の感情とフュージョン(融合・同一視)して、それを現実にしてしまうことを言います」

私の場合は、「私は失敗作のはみ出し者」という思い込みとフュージョンし、それを一時的な出来事として見るのではなく、一生消えない自分の側面にしてしまったというわけだ。マーデン氏によると、私の自分を愛する能力はこのフュージョンと密接に関連しているので、それを解く(脱フュージョンする)ことが自分を救うカギになる。

アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、脱フュージョンをする方法の1つ。自分のコントロールが及ばないことを受け入れて、自分の人生を改善し、豊かにするための行動にコミットするものであることから、このように呼ばれている。ACTの目的は、自分の思考や感情との関係を変えることで、自分が柔軟かつ有意義で楽しい人生を送るのを妨げる支配やパターンから自分自身を解放すること。

ACTの効果は十分証明されている。マーデン氏によると、アプリを使って自分でACTを試みるのは勧められない一方で、ラス・ハリス博士の著書『The Happiness Trap』は素晴らしい入門書。私も一度受けてみたいと思っている。パートナーが亡くなったときや自分ががんになったときにセラピーを受けたことはあるけれど、自分にやさしくなれないことについて話したことは一度もない。

でも、このようなトークセラピーは感情的にもロジスティクス的にも大変。高齢の母の介護をしながら仕事をしている私には、このような込み入ったプロセスにコミットする余裕がない。

幸せを築く

自分のスケジュールに合う療法を探していたら、友達がラピッド・トランスメーション・セラピー(RTT)というものを教えてくれた。彼は、この方法で失恋で失った自信を取り戻すことができたらしい。RTTは、自分が感じる根本的な理由を明らかにする上で役立つハイブリッドセラピーだ。

問題に焦点を当てる他のセラピーと違い、RTTは、その問題を引き起こしている思い込みや行動の起源を特定するのに役立つ。その効果を証明するデータは(多数の体験談以外に)ないけれど、医科学専門誌『Biology, Engineering, Medicine And Science Reports』に掲載された2021年の論文を読む限り、RTTはホリスティックな療法として、恐怖症や睡眠障害を含む幅広い問題の解決に役立つ可能性がある。

2時間のZoomセッションでRTT療法士のケイト・ホイル氏は、私の子ども時代の話に耳を傾け、マーデン氏と同じように、両親の幸せは子どもの責任ではないと言って私を安心させた。大人になったいいまの自分は、もう仲間はずれの子どもじゃないというホイル氏の言葉にも救われた。セッションのあとにはパーソナライズされた音声ファイルが送られてきて、1日1回、少なくとも3週間は聞くように指示された。

その音声ファイルでは「私は十分」というマントラが繰り返された。私は、このマントラをノートと付箋に書いてアパート中に貼ることになっている。聞く回数は守ったけれど、マントラは「私はもっと良い人生を生きていい」というものに書き換えた(「私は十分」だと変わる必要がないように思えてしまう)。音声ファイルとマントラのコンビネーションで、私の自分に対する見方が上書きされることを願う。

いずれにせよ当面は基本的なステップを踏むしかない。まずは、メガネを買い替えることから。私は子どもの頃からメガネをかけているけれど、いつも見えれば十分と思っていたので、自分に似合うメガネを探したことがない。だから、今回はオーダーメイドのメガネブランドTom Daviesで作ってもらった。こんな風に自分を思いやるのは生まれて初めて。

次に私は、セントラルロンドンの小洒落た高級ヘアサロンJo Hansfordで髪を切った。メガネに関してもヘアスタイルに関しても、私は自分で決めるという責任から自分自身を解放し、店員さんに全部任せた。そうすると、鏡の中の自分の姿にビックリできる。

外見を整えた私は仕事に手をつけ、編集者が自分の仕事を褒めてくれたときのメールを保管するフォルダを作成し、そのフォルダに“フィードバック”という名前をつけた。でも、この名前はいつか“称賛”に変えたいと思っている。このフォルダにメールを振り分けるのが毎晩の私の楽しみ。この数年間は、寝る直前に自分が感謝していることも唱えてきた。今日の私は、どんなに小さな成果も軽視しない。自分がしたくないことに「NO」と言うのも、健康診断の予約を入れるのも、友達にも電話するのも立派な成果。私はこれを直感的に始めたけれど、マーデン氏いわく、ポジティブなフィードバックを読み返し、自分の成果を認めるのは、自尊心の醸成に役立つ。

同僚のメガネ発言は、私が何年も検討していたプロセスを実際に始めるための最後のひと押しだった。あれから12週間。もうすっかり改心し、友達に話す感じで自分にも話せるようになったと言いたいところではあるけれど、古い習慣はなかなか消えないのが現実で、アパート中に貼られた言葉を信じられるようになるのにも、まだ時間がかかりそう。ホイル氏によると、私はネガティブな思い込みを捨てるのに長い時間を要するタイプの可能性があるそうだ。私の自己批判癖は徐々に消えていくしかないのかもしれない。でも、この努力が私の中にいるいじめっ子を黙らせて、もう私を傷つけられないことに彼女が気付く日はやってくる。そのときは、彼女が永遠に去ってくれることを願わずにいられない。

自分に愛を示す方法

次の3つの方法でセルフラブを実感しよう。

見方を変える

自分を傷つけた過去の出来事に対する見方を変えるリフレーミングで、自己破壊的な思考や感情を追い出そう。まずは自分を被害者ではなく生存者として見てみるといいかもしれない。マーデン氏によると、自分のコントロールが及ぶ結果になるよう物事を組み立てるのは、ポジティブな変化を起こす上で強力なツールになることが分かっている。

自尊心を育てる

自分の才能と人からもらったポジティブなフィードバックをリストアップしてみよう。そこに自分の目標と、それを達成したときの気分を付け足す。達成感と自尊心は関連しているので、自分を追い込みつつも挫折させない現実的な目標を立てるといい。食生活を改善したいなら、週に一度は自炊すると自分に誓うことから始めてみて。

友達と同じように自分を扱う

友達にサポートを求められたら、どのように応じるにせよ、その人を批判することはないだろう。自分がミスをしたときも同様で、自分の責任は認めても自分を批判したりせず、「うん、ミスをしちゃったね。事態を修復するために何ができるか考えてみよう」と自分に語りかけてみよう。人間にミスは付き物。大事なのは、その経験から学ぶこと。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Xenia Taliotis Translation: Ai Igamoto

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