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高圧的だが依頼人を絶対に見捨てない! 『元彼の遺言状』名物女性弁護士の魅力が爆発する『剣持麗子のワンナイト推理』が文庫化

  • 2024.6.5
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ダ・ヴィンチWeb
『剣持麗子のワンナイト推理』(新川帆立/宝島社)

「お金がないなら、内臓でも何でも売って、お金を作ってちょうだい」

度肝を抜かれるセリフとともに、ミステリー業界に颯爽と現れた女性弁護士・剣持麗子。彼女は新川帆立氏がデビュー作で生み出した、他に類を見ないほど高圧的で、だけど義理人情にも厚い魅力的なキャラクターだ。その強烈さは多くの読者にインパクトを残し、結果、麗子は厚い支持を集めることとなった。以降、シリーズは3作目まで発表されたが、このたびその3作目にあたる『剣持麗子のワンナイト推理』(新川帆立/宝島社)が文庫化された。あらためて彼女の活躍ぶりを楽しめるのだ。

1作目、2作目とは異なり、この『剣持麗子のワンナイト推理』は全5話が収録された短編集。時系列でいうと、1作目で描かれた、元彼が残した奇妙な遺言状事件を解決した後。同事件で亡くなった弁護士が営んでいた「暮らしの法律事務所」を引き継ぐことになってしまい、まったく儲からない法律相談にイライラする麗子の奮闘が活写されていく。

第一話で麗子が巻き込まれるのは、不動産屋の主人が何者かに殺害された事件。容疑者は第一発見者の「武田信玄」である。彼のこの名はいわゆる源氏名。そう、本名は黒丑益也といい、歌舞伎町で売れないホストをしている若者だ。この事件を解決したことで、麗子と黒丑はなかばバディのような関係を築いていく。……というと聞こえがいいのだが、実際には、弁護士報酬を支払えない黒丑に対して、麗子が「だったら働いて返せ」と迫ったという顛末だ。なんとも麗子らしい展開に、シリーズファンならばニヤリとするだろう。

以降も小さな事件が積み重なっていく。黒丑の働くホストクラブで起きた殺人事件、弁護士たちの運動会会場で起きた変死、認知症を患うおばあさんの自宅で見つかった首吊り死体……。いずれも不可解で、麗子は頭を悩ませていく。

それらの事件をどのように解決していくのか、どんな真相が明らかになるのかはミステリーとして当然の読みどころではあるのだが、他にぜひ注目してもらいたいポイントがある。それは麗子の人となりだ。冒頭にあるようなセリフから、どうしても麗子は高飛車で冷たい女性という印象が強くなりがちだが、実際にはとても真っ直ぐで、やさしいところもあるのだ。

麗子は依頼人の“言葉”を信じる。「殺していない」と主張されれば、ひとまずはそれを信じ、立証するために動く。これは弁護士として当然なのかもしれないけれど、それを差し引いても、麗子がとても実直で、頼りがいのある人物であることが伝わってくる。儲けも出ないのに、目の前で困っている人がいたら放ってはおけない。それが剣持麗子という人物だ。なんだかんだ文句を言いながらも困っている人たちを助けるべく、真相を明らかにする姿を見ていると胸が熱くなってくる。やはり彼女は大勢に支持される“主人公”だ。

もちろん、「報酬は絶対もらうんだから。ただ働きは嫌よ」「サービス券だなんて、ふざけたもの寄こさないで。私が欲しいのは日本銀行券だけよ」といった麗子らしい名言(?)も随所で炸裂する。

自信家だけど情に厚い。すぐに怒るけど相手を見捨てない。文句ばかり言うものの仕事はきっちり終わらせる。本作ではそういった麗子の多面的な魅力が思い切り堪能できるだろう。

また、新川氏の作品は伏線が鏤められているのも特徴だ。それは本作でも同様。各話で感じた小さな違和感のようなものが、最終話ですべて回収されるさまは脱帽の一言。そこでひとりのキーキャラクターの本当の姿が明らかになるのだが、欲を言うならば、今後のシリーズで“その後”も描いてもらいたい。

ミステリー史に残る豪快で型破りな主人公の活躍を、本作でぜひ堪能してほしい。

文=イガラシダイ

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