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“フィラーの時代”は終わりを告げる?

  • 2024.6.4
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#MeToo運動、ゲーム・オブ・スローンズ、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)-この10年を象徴する出来事は数え切れないほどたくさんあって、例を挙げれば切りがない。でも、こと美容に関しては“フィラー”のひと言で表せる。“フィラー”は皮下に注入する目的で作られた物質(充填剤)に与えられたニックネームで、それを用いたフィラー施術は、肌にハリを与えたり、唇をふっくらさせたり、フェイスラインをハッキリさせたりしたい人に人気の施術。

最初はニッチなビジネスだった。でも、目に見える結果が得られることから絶対的な支持者が生まれ、フィラー施術を受けたように見せるフィルターが登場し、何百万人もの女性たちが自ら注射を求めるまでに成長した。2019年に全世界で行われた1360万件の非外科的治療のうち、前年比16%増(2015年からは51%増)の430万件で皮膚充填剤が用いられた。これは、ものすごい数のフィラーである。

しかし、この状況は変わりつつある。おそらく、フィラーの衰退をもっとも明確に告げたのはコートニー・コックスの発言だろう。昨年、彼女は自分がフィラーを使っていた頃の写真を見ながら、この施術への不信感を口にした。過去の自分の選択を後悔しているのはコートニーだけじゃない。恋愛系リアリティ番組『ラブ・アイランド』のフェイ・ウィンターはインスタグラムで120万人のフォロワーにフィラーを溶解したあとの唇を見せ、ユーチューバーのアラナ・アルブッチは「昔の顔が恋しくて…フィラーを除去することにした」というタイトルの動画を投稿している(450万回以上再生されていたけれど、現在は削除されている)。

フィラーは熾烈(しれつ)な競争にも直面している。バッカルファット除去(頬の脂肪を減らして小顔にする施術)はTikTokを席巻しており、このトピックの動画は2億6700万回以上再生されている。また、高強度の経皮的電気刺激で顔の筋肉を引き締めるEmfaceは、針を使わない最新のリフトアップ施術として急速に広まっている。スキンケアブランドもフィラーと同様の効果を追求しており、資生堂のビオパフォーマンス・スキンフィラー美容液は高評価のレビューを大量に獲得している最新の商品だ。社会からの反発が強くなったことに加えて、より安全な施術も出てきているということは、やはりフィラーの時代が終わったということになるのだろうか。イギリス版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。

フィラーの需要

フィラーは40年ほど前から存在しているけれど、世間に浸透したのは2010年になってから。非外科的な“プチ整形”として知られるフィラーは、通常、架橋型ヒアルロン酸(非架橋型ヒアルロン酸よりも分子の密度が高く寿命が長い)から成っている。

数々の美容液に含まれるヒアルロン酸は、真皮構造の中で自然に作られる成分。「ヒアルロン酸は線維芽細胞の生成を促進します。線維芽細胞はコラーゲンとエラスチンの生成を担うため、ヒアルロン酸は皮膚の健康において重要な役割を果たしていると言えます」と説明するのは、英Prima Aestheticsの美容外科医、グリン・エステバネス医師。「でも、この自然なヒアルロン酸は時間と共に分解するので、年を重ねるとシワが目立つようになります。フィラーは失われたヒアルロン酸と水分を失い、肌のハリを取り戻します」。必要に応じて溶解することができ、比較的安価(200~350ポンド)でダウンタイムが短いことを考えれば、シワ取り注射とフィラーが最近の美容施術の9割を占めているのもうなずける。

でも、フィラーの人気が高まるにつれ、悪徳プロバイダの数も増えてきた。フィラーは薬のように国の規制を受けていない。言い換えれば、誰がフィラーを投与できるかを規制する法的な枠組みがないということだ。医療従事者にしか供給されず、同じく医療従事者にしか投与できないシワ取り注射と違って、フィラーは処方薬に分類されていないため、(英国では)誰にでも購入できる。「パーソナルトレーナーや客室乗務員、一般企業の秘書が講習を受け、注入エキスパートと名乗っているという話を聞いたことがあります」と話すのは、英Illuminate Skin Clinicの創業者で美容皮膚科医のソフィー・ショッター医師。「誰かが目の前で針を振りかざしていても、その人に適切な資格や教育、経験があることにはなりません」

フィラーの失敗例として有名なのは、唇のフィラー施術で動脈にフィラーを注入されて危うく失明しそうになった21歳の歯科看護師のケースと、注入したフィラーが細菌に感染し、頭と目に慢性的な痛みが生じた45歳の女性のケース。美容整形トラブル専門の弁護士で、主に豊胸手術などの侵襲的手術が失敗に終わったケースを扱うマイケル・ソール氏によると、最近はフィラーのような非外科的施術に関するケースが急増しており、彼のクライアントの中には、皮膚充填剤を誤って網膜に注入するという医療ミスで片目の視力を失った人もいる。

フィラーの残存期間

でも、フィラーにとって都合が悪いのは規制がないことだけではない。2019年、先駆的な美容放射線科医のモビン・マスター医師は、原因不明の目のクマ・たるみに悩む患者から顔面のMRI検査を依頼されることが多くなった。実際に検査してみると、この目のクマ・たるみを引き起こしているのは、2年以上前に眼窩下縁内側のくぼみ(ティアトラフ)に注入された大量のフィラーであることが分かった。患者たちが嘘をついていたわけじゃない。彼らのフィラーは2年以上の時を経ても溶解していなかった。これは、施術者やインフルエンサーによって支えられてきた、「フィラーは18カ月で溶解する(よって顔も元に戻る)」という長年の仮説を覆す新事実。

今年の初め、著書に『The Tweakments Guide』を持つビューティージャーナリストのアリス・ハート=デイヴィス氏は、自分のMRIスキャン画像を公開した。その画像は、最後のフィラー施術が4年前であるにも関わらず、彼女の顔に計35mlのフィラーが残っていることを示していた。この結果はフィラーが必ず溶解するという通説に疑問を抱かせるものであり、「フィラーは6カ月ごとに1mlずつ注入するべき」という一般的なガイドラインが甚だしい計算ミスであることを示唆している。

フィラーが溶解しないことによる長期的な影響を知る人は誰もいない。マスター医師は、美容業界の専門誌『Aesthetics Journal』に寄稿した論文の中で、寿命に悪影響が及ぶ可能性はあるものの、充填剤の注射は20年以上にわたって行われており、健康上の問題に関する報告はほとんどないと述べている。ショッター医師は、フィラーの耐久性が深刻な被害をもたらす可能性は低く、それが問題となるのはエステティシャンや医師以外の人が施術を行う場合だけとしている。「医学的な訓練を受けていない人が注入を行うと、決まって問題が生じます」とショッター医師。「彼らは基礎疾患を確認し、例えば、自己免疫疾患の患者に特段の注意を払うことの重要性を理解していません。密な血管網や耳下腺の構造、真の感染対策も分かっていません」

ショッター医師によると、医学的な訓練を受けていない人は、医師などの有資格者と同じように最高品質のフィラーを入手することもできない。「少なくとも正しいサプライチェーンを経由していないので、彼らが何を使っているかは知る由もありません。このようなケースでは、将来、利用者の健康に問題が生じてもおかしくないと思います」

フィラーの罠

フィラーの衰退を示すもっとも明かなサインはおそらく、世の中の“美の基準”が少しずつ変わってきていることだろう。最近は美容商品の広告でも、目尻のシワ、シミ、ほうれい線を目にすることが多くなった。今年4月には106歳のアポ・ワン・オドがフィリピン版『VOGUE』の表紙を飾り、『VOGUE』最高齢のカバーモデルになった。コスメブランドのシアテ(Ciate)は昨年の秋、当時100歳だったインフルエンサー、アイリス・アプフェルとコラボして化粧品の開発を行った。女優のヘレン・ミレンは、78歳になったいまでもロレアル(L'ORÉAL)の顔。米国美学会の最新トレンドレポートによると、米国では2020~2021年の1年間でフィラーの溶解件数が57%増加した。フィラーに関する規制のない英国では正確なデータが出せないけれど、スキンクリニックSelf Londonの創業者で顧問皮膚科医のアンジャリ・マフト医師は英国も米国と似たような状況にあると考えている。

マフト医師によると、フィラーの溶解の流行には“不注意盲”(非注意性盲目)として知られる現象が関係している。心理学専門誌『Psychonomic Bulletin & Review』掲載の論文によると、人工的に細くしたり太らせたりした顔に慣れると、普通の顔が歪んで見えるようになってしまう。「いつもフィルターを使っていて、人工的に鼻を小さくした自分の写真ばかり見ていると、“普通”の写真を見たときに脳が自分の鼻は大きすぎると考えます」とマフト医師。コートニー・コックスなどの有名人は、この罠に引っかかったと思われる。

コートニーはポッドキャスト『Gloss Angeles』の中で「自分がいい感じだと思っていた頃の写真を見ては唖然とする」ことを明かした。「自分の顔が少し変なことに気付かない。自分にはそれが普通に見えるから続けてしまう。鏡に映る自分を見て『おっ、いい感じ』と思ってしまう」。マフト医師いわく、施術者は施術を受ける人と同じくらいこの状態に陥りやすいというから恐ろしい。「あまり話題になりませんが、この業界では非常によくあることです。医師も自分を振り返り、実は自分が大きなプレッシャーを感じている可能性があることに気付く責任があります」

フィラーの価値

後悔からフィラーを溶解しようとする人がいる一方で、フィラーよりも新しく、侵襲性の低い施術を選ぶことで、この問題を最初から回避している人もいる。「少し前まで医師たちは、顔のしぼんだ部分を膨らませることだけを考えていました」とエステバネス医師。

「でも、いまは効果的な施術がたくさんあります。ハーモニカ(HArmonyCa)はコラーゲンの生成を促す画期的な最新のフィラーですし、コラーゲン合成を促進する臨床治療もあります」

モフィウス8(Morpheus8)はマイクロニードルと高周波RF(ラジオ波)を用いてコラーゲンの生成を促進し、肌を引き締め、シワを伸ばす施術で、多くのファンを獲得している。ソフウェーブ(Sofwave)は肌の引き上げ&引き締めによる小顔効果が非常に高く、長続きするとのことで施術者の注目を浴びている。つまり、リフトアップの方法は、もはやフィラーだけではないということ。

それでも今回話を聞いた専門家の面々は、フィラーがすぐに消えることはないと言う。ショッター医師によると、それはフィラーの「インパクトが控えめであると同時に劇的でもある」からだ。ゆえに彼女はフィラーに対する規制が強化され、悪質で危険な施術が過去のものになることを望んでいる。英国で非外科的な美容医療に携わる人の会員組織Joint Council for Cosmetic Practitionersは昨年、規制の枠組みの設定を求めた。現在は公的な協議プロセスに入っている。

目標の2025年7月までに実現する可能性は低いけれど、この枠組みでは、フィラーの注入に必要な教育レベルが引き上げられる予定。自分の顔に何をするかは最終的に個人の判断。でも、誰に針を握らせるのか、その人物に針を握る権利(資格や経験)があるのかは、よく考えたほうがいい。そして、どんなにフィラーを注入しても自尊心は向上しない。自尊心を向上させるのは自分自身。

フィラーの原則

フィラーに興味がある人は、次の原則に従って自分を守ろう。

自分なりのリサーチをする

信頼できる人からアドバイスをもらったとしても、ビフォー&アフターの写真に見たとしても、自分なりのリサーチをすることが重要。「また、施術は必ず審美眼を失っていない人に依頼しましょう」とマフト医師。「施術者自身が不注意盲(非注意性盲目)のように思える場合は、別の施術者を探してください」

フィラーの量に注意する

一部の施術者はフィラーをミリリットル単位で販売しているけれど、マフト医師いわく、このような施術者は避けるべき。「フィラーは儲かるビジネスです。予約1件あたりではなくフィラーの販売単位で商売をしている非情な施術者は、過剰充填を気にしない可能性が高いです」

施術者の経歴を調べる

マッチングサイトで知り合った人と会うときは、グーグルで入念なバックグラウンドチェックをしてから行くはず。自分に合った施術者を探すときにも同じルールが当てはまる。「まずは、その施術者がSave Face(saveface.co.uk)に登録されていることを確認しましょう」とショッター医師。「Save Faceは政府の認可を受けた唯一のレジストリで、医師、看護師、歯科医、薬剤師のみが登録できます」

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Perdita Nouril Translation: Ai Igamoto

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