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わが子に感覚過敏や感覚鈍麻の可能性を感じたら?【前編】 それぞれの特徴と、上手に向き合うコツとは

  • 2024.6.4
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出典:あんふぁんWeb

園生活や小学校生活が始まり、日々わが子の性格や行動に向き合う中で、「ささいなことなのに、反応が過敏すぎるのでは…?」あるいは「痛みなどの刺激に鈍すぎるのでは…?」と感じたことはありませんか?

今回は日常生活の中で、たいていの人なら無視できるような状況や刺激に過敏に反応する「感覚過敏」と、光や音など特定の刺激に対する反応が低い「感覚鈍麻」について紹介します。その背景には発達障がいがある可能性も。

「感覚過敏」や「感覚鈍麻」のサインを出した子どもたちとの向き合い方や、わが子が安心して輝ける環境を整えるコツなどについて、特別支援教育学が専門の摂南大学全学教育機構准教授、松浦正典先生にアドバイスをうかがいました。

「感覚過敏」の具体的な特徴は?

聴覚や視覚などの感覚が過敏で、多くの人が何気なく過ごせる環境でも、居心地が悪いと感じることの多い「感覚過敏」。松浦先生によると、具体的には下記のような特徴があるといいます。

聴覚
視覚
触覚
嗅覚
味覚
目の前で話しても言葉が伝わりにくい

上記の特徴に加え、「聴覚過敏の子どもは特に、言い聞かせようと目の前で話をしたとしても、こちらの思った通りに伝わるとは限らないということを知ってほしい」と松浦先生は言います。

「聴覚過敏の子どもは、話している人の声を優先して聞くということが難しいんです。というのも話をしている目の前の人の声と、周りの音が同じように耳に届くからです。だから目の前に立って話せば伝わりやすいか、というとそういうことではないんです」。

特に小学校の授業では、30人前後の子どもが集まる教室で、周囲の音はもちろん、時計の音や校庭で行われている体育の音などが同じように耳に入ってきます。そのため、聴覚過敏の子どもが先生の話を集中して聞くというのは至難の技であることが想像できます。

「感覚鈍麻」の具体的な特徴は?

まだ研究があまり進んでおらず、わからないことも多いという「感覚鈍麻」。松浦先生に今わかっている特徴をうかがうと、下記のような特徴を教えてくれました。

聴覚
視覚
触覚
嗅覚
味覚
時には病院に行くなどの対応が遅れることも

感覚鈍麻の場合、痛みを感じにくいので年中傷やあざだらけでいるケースが多いそう。大ケガをしていても本人では気付きにくいため、病院に行くなどの処置が遅れることも少なくありません。

「痛みを感じにくいから無理をすることも多いですし、家に帰って保護者がお風呂に入れるために服を脱がせたら体中が傷だらけだったということもよく聞きます。暑さや寒さも感じにくいので、冬でも短パンにTシャツなどの格好を平気でしていて、周りの人が風邪をひかないか心配することも多いですね」と松浦先生。

そこで毎日の服装は20℃だったらこの服、25℃だったらこの服というように、気温を基準にした絵を用意すると、スムーズに決められるのだそう。

幼稚園や小学校で困る具体例は?

制服や上履きが苦手
出典:あんふぁんWeb

「感覚過敏の子ども達は、着るものの質感や縫い目などによっても身につけるのが苦痛な場合が多いです。快適に感じる服を見つけたら、同じ型・同じ素材の服ばかりを着続けることも珍しくありません。そのため、制服のある幼稚園や小学校だと、どうしても着られなくて困るというケースや、指定の上履きの着用感が苦手で、ブカブカのサイズをあえて履いているというケースもあるようです」。

一方で感覚鈍麻の場合は、制服や上履きなどに合わせるのが苦手という話はほとんど聞きません。「夏服や冬服など決まっていると合わせやすいかもしれないですね」と松浦先生は言います。

小学校でプリントを上手に後ろに回せない

「小学校でプリントを後ろに回す際、プリントの束に合わせて上手につまめれば問題ないんですが、感覚鈍麻の場合、指先の感覚が鈍いので、やさしくつまむという作業が苦手。だからグシャっとプリントを握ってしまうんですね。つかみ方が粗くて破けてしまうこともあります」と松浦先生。

ちなみに感覚過敏にもプリントを持つ(触れる)感覚が苦手で、つまむように持つなど、うまく触れない人もいるそう。

感覚鈍麻は気付かれにくい?

「折り紙や工作など、いわゆる器用さが求められる作業も感覚鈍麻の人にとっては難しいのですが、感覚過敏に比べて障がい自体が分かりにくい傾向にあります。単なる“雑”な人に見られて気付いてもらえない場合も珍しくありません」。

真っ白い紙が苦手

「多くの場合、紙は純白に近い方が書かれた文字や絵が見やすいと感じますよね。ところが視覚過敏の人からすると、真っ白な紙というのは反射がきつく、文字が見えにくいのだそう。そこで薄く地色のついたノートなどを好んで使います」。一方で感覚鈍麻の人も真っ白い紙は苦手。色を見分けにくいそうで、そこに書かれた文字は読みにくいのだそう。

触りたくないものに触らざるを得ない

「小学生になると、生活科の授業で土を使って植物を育てるのですが、土を触るのが苦手な感覚過敏の子どもは多い。今まで触らずに過ごせてきた苦手なものに、授業だからどうしても触らなければならないということが往々にして起こります。幼稚園のころは紙粘土や小麦粉粘土ですんでいたのに、小学生になったら油粘土を使わざるを得ず、特有のベタベタとした感触や油の臭いが苦手という感覚過敏の子どもは多いです」。

周りに合わせようと我慢するケースも

「感覚過敏の子どもの場合、例えば食べ物なら、表面に種がたくさんついているイチゴが見た目も食感も苦手という話はよく聞きます。肉の塊を飲み込む感触やグミの食感が苦手という子どもや、フライの衣がチクチクと痛くて食べられないという感覚過敏の人も多いですね」と松浦先生。

味の濃いソースなどは例えば揚げ物に少しつけただけでも、揚げ物全体をソース漬けにしたような濃い味に感じるそう。また混ぜご飯やカレーライスなどたくさんの食材が混ざっているメニューも苦手な人が多いようです。

一方で「周りの子たちができているのを見て、自分だけできないというのを引け目に感じることも多く、それを隠すケースも珍しくない」といいます。

「よく感覚過敏の人から聞くのは、自分だけが苦しいのではなくて、周りの子も本当は苦しいのに我慢してやっているんじゃないかと思っていたって言うんですね。だからみんなができていることができない自分を隠すために、給食で飲み込めなかった食材を家に帰るまでずっと口の中に入れっぱなしにして帰ってきたという話を聞いたことがあります。先生からも早く飲み込みなさい、なんて指示もあったりするので、うまく口の中に隠して、なんとか家までごまかすっていう子もいるようですね」。

食べられないと先生に言える子も中にはいるものの、みんなが食べているからそうしなければならないと思い、無理をして口に入れる子も多いと松浦先生は話します。

感覚過敏や感覚鈍麻を見極めるには?

「感覚過敏の中でも聴覚が過敏の子どもは耳をギュッとふさぐような動作が出るなど、見た目にも表出しやすいので、その可能性が高ければ早めに疑いを持ってあげると良いですね」と松浦先生。

「とはいえ苦手なことが一目でわかるほど表出できない場合もありますし、感覚鈍麻の場合は本人が全く気付いていない場合が多いです。保護者や先生たちに感覚鈍麻という選択肢がなければ、ケガに強い子なんだね、という風に見過ごされてしまうことも。保護者や先生は“ワガママ”や“怠けている”などという発想だけではなく、この行動は何か困っているサインなのではないかという見方をするようになれば、日常生活の中で見えてくるものがいろいろあるのではないかと思います」。

感じ方や表出の仕方は一人ひとり違う

私たちに十人十色の好みがあるように、感覚過敏や感覚鈍麻の人たちも感じ方は一人ひとり違うと松浦先生はいいます。

「聴覚だけ、触覚だけが過敏とは限りません。いわゆる五感の全てが過敏な方もいらっしゃいますし、逆に一つの感覚のみが過敏なパターンもあります。最近では聴覚過敏が有名になってきているので、指導者がすぐにそのケースに当てはめてしまうケースがありますが、一人ひとり感じ方が違うということはおさえておくべきことかなと思います」。

感覚過敏=発達障がいではない

「発達障がいのある方の中でも、自閉スペクトラム症のような障がいをお持ちの方は感覚過敏が出ることが多いですが、発達障がいがある方が全員、感覚過敏を持っているとうわけではありません。ただしあまりにも感覚過敏の症状が激しい場合は、その背景として発達障がいを持っているのではないかということを考えてあげると、その子の理解につながるのではないかと思います」。

感覚過敏や感覚鈍麻の子どもとの上手な向き合い方は?

出典:あんふぁんWeb
子どもに教えてもらうという発想を持つ

「やはり子どもに教えてもらう発想を持つことが大切」という松浦先生。「子どもがそういう反応をしているということは、SOSを出しているということ。だから保護者や周りの大人たちが自分の感覚だけで判断しないで、子どもたちが『こういう状況は辛いんだよ』と教えてくれているんだと感じとることから始めるべきだと思います」。

本や健診で保護者が客観的な視点を持つ

感覚過敏や感覚鈍麻に該当する行動をとる子どもたちを理解して、より過ごしやすい環境を整えるためには、保護者がある程度の知識をもって子どもたちを観察することも大切だと松浦先生は話します。

「例えば発達障がいを理解するための本というのが世の中にはたくさん出ています。もし自分のお子さんが発達障がいでなくても、感覚過敏などの疑いがある場合、意外とこういう本が役に立ったりするので上手に活用してほしい」と松浦先生。

また1歳児健診・3歳児健診など乳幼児のうちに行われる健診を活用することも大切なのだそう。「医師・保健師・臨床心理士などたくさんの子どもを見ている方と話すチャンスでもあるので、有益なアドバイスがもらえる可能性があります。普段のお子さんの行動をメモしておいて相談してみると良いですね」。

もちろん幼稚園の先生や学校の先生に心配事を相談してみるのも良いと松浦先生。先生たちはたくさんの子どもたちを日々見ている経験から気付きを得られる可能性があるといいます。できる・できない、劣っている・優れていると子どもたち同士の能力を比べるのではなく、気付きのチャンスとして活用するのがポイントです。

感覚過敏や感覚鈍麻を本人にどう伝える?

あえてラベリングする必要はない

「伝えたほうが良いのか、そもそも伝えないほうが良いのか、子どもによってそれぞれだと思いますが、『あなたは感覚過敏だね』とラベリングする必要は全然ない。誰しも苦手な音や臭いもありますよね。だから『ここの場所のあの音が苦手なら、耳栓を使うこともできるよ』というような言葉かけの方が大切だと思います」。

本人がものすごく悩んでいて「私は感覚過敏なのでは…?」というような相談があった場合は別として、保護者がわざわざ言わなければいけないというものでもないと松浦先生。

「幼稚園生や小学校に上がるくらいの年齢なら『これが苦手ならどうすれば楽かな?』というふうに聞いてあげて、対策を一緒に考えて実践していくという形が正解に近いのではないかと私は思っています」。

後編では、「感覚過敏」や「感覚鈍麻」の可能性がある子どもたちの、小学校入学時の注意点について紹介します。

「わが子に感覚過敏や感覚鈍麻の可能性を感じたら?【後編】小学校入学時の注意点とは」はこちら。

出典:あんふぁんWeb

PROFILE●

松浦正典(まつうら・まさのり)さん

特別支援教育学専門の摂南大学全学教育機構准教授。長年養護学校の教諭や小学校の教諭を務め、2020年から2年間校長を務めた千葉県野田市立宮崎小学校ではSDGs「だれ一人取り残さない学校・学級を」を学校経営方針に、現実的なインクルーシブ教育を実現させる授業のユニバーサルデザインを実践。発達障がいのある児童に関する論文や特別支援教育の現場を伝える著書も複数発表している。

取材・文/山田朋子

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