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想像を超える展開に興奮も…上映後の拍手が“まばら”だったワケ。映画『マッドマックス:フュリオサ』徹底考察&評価レビュー

  • 2024.6.4
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© 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories.
『マッドマックス:フュリオサ』
© 2024 Warner Bros Entertainment Inc All Rights ReservedIMAX® is a registered trademark of IMAX CorporationDolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

まさに待望の1作だ。子供の頃にテレビで何度も放映していた『マッドマックス』(1979~1985)三部作に心を震わせ、27年ぶりの続編『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)のパワフルさに熱狂した世代にとって、シリーズを受け継ぐ新作がスクリーンで観られるというだけで奇跡的。

【写真】アニャ・テイラー・ジョイの美しい勇姿が堪能できる劇中写真はこちら。映画『マッドマックス:フュリオサ』劇中カット一覧

自分も年を取ったが、ジョージ・ミラー監督は御年79歳である。いろんな意味で、生きててよかった…。そのくらいの期待度マックス状態で、初日のIMAX上映に駆けつけた。

客席は9割の入りでほぼ満員。翌日は映画ファーストデーであるため、どの映画館でも安く観れるはずだが、ちゃんと封切り日に集まった“ロードショー・ウォリアーズ”たちの熱気が高まるなか、スクリーンにはあの荒涼とした砂漠が映し出された。

『マッドマックス:フュリオサ』は、2015年に公開された『マッドマックス 怒りのデスロード』の前日譚となる。孤高の女戦士フュリオサが断片的に語っていた「幼い頃にさらわれ、イモータン・ジョーの元にたどり着き、大隊長にまで登りつめた」という半生を、バイオレンス全開な世界観でジックリと描いていく。

『マッドマックス:フュリオサ』
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「緑の大地』で生まれ育った幼いフュリオサは、侵入してきたバイカーに見つかり、拉致されてしまう。拘束されて荷物のように後部座席に積まれたフュリオサが、熱くうなるエンジンを目の前にしてもまったくビビらず、パイプを齧みちぎって足止めさせようという執念を見せる部分で、もうキャラ紹介は十分。

名前の通り、激情と根性を併せ持った最強ヒロインである。

さらわれたフュリオサは、バイカーたちを牛耳るディメンタスの元へ行き着く。クリス・ヘムズワースが尊大なムードたっぷりに演じるディメンタスは今作のヴィランといえる存在で、知恵も働くが、どちらかといえばパワーで物事を運ぶ脳筋タイプ。

薄汚れたテディベアを肌身放さず持ち歩き、バイク3台をローマ時代の戦車のように連ねた「チャリオット」でつっぱしる姿は、バカがつくほどカッコいい。

フュリオサは助けに来た母親となんとか脱出。しかし、追ってきたディメンタスに捕まってしまい、母親はフュリオサの目の前で殺されてしまう。フュリオサは母親の仇であるディメンタスの元で育てられ、言葉を失って喋らなくなる。

やがてディメンタス一味は、イモータン・ジョーが取り仕切るシタデルにたどり着き、闘いを仕掛けることになるのだが、ここで前作『怒りのデスロード』で登場したキャラクターたちが顔を見せる。

カリスマ感が半端ないイモータン・ジョー、その息子で凶暴なリクタス、白塗りのウォーボーイズたち。武器将軍も、常に自分の乳首をイジってる人喰い男爵もいる。見るからにヤバい面々なのだが、前作を何度も観ているせいか、同窓会のようでホッコリする。

そして、荒れ狂うディメンタスは、ガソリンを精製する「ガスタウン」を掌握。その交渉の流れで、フュリオサはイモータン・ジョー預かりとなり、シタデルで暮らすこととなる。

故郷へ帰る機会を狙い、力を蓄えるフュリオサ。傍若無人に暴れるディメンタス軍団と、圧倒的な政治力を発揮するイモータン・ジョー帝国による、シタデル、ガスタウン、バレットファームという3拠点を巡る抗争劇へと発展していく。

『マッドマックス:フュリオサ』
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物語の軸となるのは、フュリオサの孤独な復讐劇だ。とはいえ、前日譚なので、“その後”は決まっているというか、少なくともフュリオサが死ぬことはない。それでも危機が訪れるたびにハラハラするし、それぞれの思惑が交差する予想外な展開が続くので、なんともいえない緊張感が続く。

そんな復讐も報復も、反乱も革命も、すべてカーチェイスでカタをつけるというのが『マッドマックス』スタイル。奇想天外な外観のビーグルたちが、荒れ果てた砂漠を疾走しては、無惨に散っていく。ビジュアル、サウンド、臨場感。どれもが圧倒的で、興奮して息を飲むとはこのことだ。

特に中盤で展開する、爆走するウォータンクに様々なマシンが群がっていく追走劇は、シリーズ伝統のお家芸がさらに進化した、究極のカーチェイスとなっている。

圧倒的なスピードと、唐突に訪れる死。カメラは縦横無尽に動きまくり、クルマの前後左右から、運転席、ボンネット、さらに上空からシャーシの裏まで、あらゆる場所でバトルとチェイスが同時多発し、限界突破の興奮に導いてくれる。

ここでようやく活躍を見せるのが、フュリオサの師匠となる警備隊長のジャックだ。見た目はほぼジェネリックなマックス・ロカタンスキーといったキャラクターで、今作で随一のヒーロー的な戦いぶりを見せる。

やがてパートナーとなったジャックとフュリオサの逃走劇が展開するなか、暴れすぎて自己崩壊しそうなディメンタスとイモータン・ジョーの40日戦争、そしてあらゆる「復讐」の行く末が描かれていく。

『マッドマックス:フュリオサ』
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フュリオサを演じるアニャ・テイラー・ジョイは目ヂカラ強めで予想以上のハマりっぷり。ジョージ・ミラー監督は『ウィッチ』(2017)で注目し、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)で起用を決めたというが、むしろ『スプリット』(2017)で垣間見せたプリミティブさを発展させたような佇まいだ。

ただ、役柄的にフュリオサは“復讐の女神”なので、その言動は悲しみを常に讃えており、重い。

『マッドマックス2』(1982)や、『怒りのデス・ロード』における主人公マックスは、どこにも属さないアウトローだった。それでいて、自分には全く得がないのに人助けをするからこそヒーロー性が醸し出されていた。

『フュリオサ』には、そんな英雄がほぼ存在しない(強いて言えば、フュリオサの母親くらい)。

最終章では、フュリオサとディメンタスが復讐と生存本能について情念をぶつけあう。ここにジョージ・ミラー監督の伝えたいことが詰まっているのはわかるが、バカマッチョだったディメンタスが急に哲学的なことを語りだすのでちょっと戸惑う。

『怒りのデス・ロード』の爆音上映のように、深く考えずに「ヒャッハー!」したかったタイプの観客にとっては、ちょっと飲み込みづらい展開かもしれない。

ただ、今作はあくまでもスピンオフで、マッドマックスシリーズの「5」ではない。原題に「A MADMAX SAGA」と付いているとおり、あの世界で起こった歴史を綴る叙事詩なのだ。バイオレンスとカーチェイスの果てに普遍的な英雄譚を宿すのではなく、最初からフュリオサという神話を語ろうとしているので、ジャンルが違うともいえる。

とはいえ、「マッドマックス」の看板とジョージ・ミラー監督でしか辿り着けない世界観に達しており、さらに想像を超えてくる底力には心が震える。

砂、炎、マシンの躍動を活かした、目に焼き付いて離れないキメ絵のパワフルさ。フュリオサを下から見上げたカットの神々しさ。物語のテーマだけでなく、設定の奥深さ、キャラクターの掘り下げ、メカのディテール、五臓六腑に染み渡るエンジン音など、すべてにおいて濃密で、情報量過多である。

筆者が観た回の上映終了後には、一部で拍手が巻き起こったが、全員ではなかった。たぶん、手を叩かなかった観客は、圧倒的な映像に対する疲労感で身動き取れなかったのではないか。

とにかく、1回観ただけでは理解が追いつかない。なるべくデカいスクリーンで何度も観るべき作品であることは間違いない。

(文・灸怜太)

【作品概要】
■タイトル:『マッドマックス:フュリオサ』
■公開日:5月31日(金)全国ロードショー!日本語吹替版同時上映 IMAX/4D/Dolby Cinema/SCREENX
© 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
監督:ジョージ・ミラー
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:MADMAX-FURIOSA.jp #マッドマックス #フュリオサ

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