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吉永小百合の“恋するおばあちゃん”がキュート 山田洋次監督が描く“令和の人情物語”「こんにちは、母さん」の見どころ

  • 2024.6.3
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「こんにちは、母さん」 (C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会
「こんにちは、母さん」 (C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

【写真】恋する福江(吉永小百合)。表情がかわいい

CS放送「衛星劇場」で6月6日(木)朝8:30からテレビ初放送される映画「こんにちは、母さん」(再放送あり)。今作が90本目の監督作となる山田洋次監督が手掛け、123本目の映画出演作となる吉永小百合が主演を務める令和の親子の人情物語だ。令和の世も変わらず人々に勇気と安らぎを与える山田洋次作品、そして、日本映画界をけん引する女優・吉永小百合の魅力とは。「衛星劇場」で同時展開される<吉永小百合出演作特集>ラインナップも合わせて紹介する。

吉永小百合“福江”に異変が…「こんにちは、母さん」あらすじ

昨年9月に公開され、興行収入11億円のヒットとなった映画「こんにちは、母さん」が、公開から1年経たずテレビ初放送を迎える。描かれているのは、下町を舞台にした山田洋次監督らしい人情ストーリーだ。

大会社の人事部長として日々神経をすり減らす神崎昭夫(大泉洋)。家では妻との離婚問題、大学生になった娘・舞(永野芽郁)との関係にも頭を悩ませている。何もかもがうまくいかない日々の中、久しぶりに母・福江(吉永小百合)が暮らす東京下町の実家を訪れるのだが、どうも様子がおかしい。少し前まで割烹着を着ていた母は艶やかなファッションに身を包み、下町の人々とボランティア活動に精を出し、どうやら恋もしているらしい。戸惑う昭夫だが、いきいきとした母と下町の住人たちに感化されるうち、見失っていたものに気づいていく。

眼差しひとつで少女にも、母にも

劇作家・永井愛による戯曲に基づく本作。映画「母べえ」(2008年)、「母と暮せば」(2015年)に続く山田監督“母3部作”の集大成であり、先の2作品に続いて吉永が、“日本の母”を演じている。

吉永と山田監督のタッグは、吉永がマドンナを演じた1972年公開の映画「男はつらいよ 柴又慕情」から数えて足掛け50年を超える。1940年の東京を舞台に幼い子を抱え懸命に生きる母の姿を描いた「母べえ」、笑福亭鶴瓶演じる弟との切っても切れない絆を描いた「おとうと」(2010年)、原爆で亡くした息子・浩二(二宮和也)との奇跡の時間を描いた「母と暮せば」と、郷愁を感じさせる優しく温かい女性像を体現してきた。

今作で演じるのは、東京の下町で小さな店を営む女性・福江。「若い頃はミス隅田川だった」というセリフも出てくるほど上品な面立ちだが、久しぶりに息子の顔を見たときの嬉しそうな笑顔や、息子に「少しやせたんじゃない?」と声を掛ける時の表情は、“いくつになってもわが子がかわいい母”そのもの。何気ない表情の一つ一つが山田監督の描く下町の風景に溶け込んで、何とも言えないなつかしさを醸し出す。

一方で、恋心にときめく表情も吉永の真骨頂。福江は、ボランティア活動で知り合った教会の牧師・荻生(寺尾聰)といい雰囲気なのだ。教会のベンチを直す荻生を、あこがれ半分、はじらい半分で見つめる眼差しは少女のように清らかで、荻生に「すみません、ちょっとここ、押さえていてくれませんか?」と頼まれ、「はいはい」といそいそ応じる姿もかわいらしい。表情ひとつ、眼差しひとつで少女にもなれるし“実家の母さん”にもなれる、それが、日本をけん引してきた女優・吉永小百合なのだ。

「こんにちは、母さん」 (C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会
「こんにちは、母さん」 (C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

日本アカデミー賞11部門で優秀賞

疲れ切った日々を送る息子・昭夫を演じるのは、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2022年、NHK総合ほか)での好演も記憶に新しい大泉洋。山田監督作品への出演も、吉永との共演も今回が初めてだが、わびしくお掃除ロボットに話しかけたり、下町のせんべいをかじって「腹の足しは心の足し」とちょっといい一言を吐いてみたり、素直さと人の良さを漂わせる彼ならではのおかしみあるキャラクターを好演している。

昭夫の娘で父親になかなか素直になれない舞を演じるのは、連続テレビ小説「半分、青い。」(2018年、NHK総合ほか)のヒロインも務めた永野芽郁。この3人を中心に繰り広げられる等身大の家族の物語は、第47回日本アカデミー賞で優秀主演女優賞(吉永小百合)、優秀助演男優賞(大泉洋)、優秀助演女優賞(永野芽郁)を含む11部門で優秀賞を受賞。日本映画界でも高い評価を受けた。

母と息子、父と娘、そして祖母と孫。それぞれの関係性が下町を舞台に溶け合い、そして生まれる人生賛歌。それが映画「こんにちは、母さん」の見どころだ。

「こんにちは、母さん」 (C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会
「こんにちは、母さん」 (C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

「キューポラのある街」も…吉永小百合特集ラインナップ

「キューポラのある街」 (C)日活
「キューポラのある街」 (C)日活

「衛星劇場」では「こんにちは、母さん」のテレビ初放送を記念し、<吉永小百合出演作特集>を展開する。

6月7日(金)朝8:30からは、坂東玉三郎監督作品「夢の女」(1993年5月)を。永井荷風の同名の初期小説を久保田万太郎が新派のために脚色した舞台用の台本をもとに、侍の娘ながら娼婦に身を落とした女・お浪の儚い半生を描く。

6月12日(水)夜7:30からは、女優吉永小百合の原点ともいえる映画「キューポラのある街」(1962年4月)を送る。貧しさにもめげず強く生きる子供たちをテーマに描いた感動作で、主演の吉永は当時、最年少でブルー・リボン主演女優賞を受賞した。

6月13日(木)夜7:30からは、映画「真白き富士の嶺」(1963年11月)を放送する。重い病を患う梓(吉永)は、退院し逗子の浜辺を解放されたようにはしゃぎまわっていたある日、高校生の富田(浜田光夫)に一目惚れする――。太宰治の小説を原作に描く、明るく清らかなロマンス作品だ。

6月14日(金)夜7:30からは、吉永が2人の男性の間で揺れる女心を見せる青春映画「青春大全集」(1970年12月)を放送する。ピアノ調律師の律子(吉永)は、同い年のピアニスト・黒木保(松橋登)と恋人同士。だが、結婚適齢期にさしかかったある日、律子は教師の阿部吾郎(竹脇無我)との見合いを勧められる。

60年代、70年代、90年代と、それぞれの年齢で輝く吉永の名作がそろった。最新作「こんにちは、母さん」と合わせ、見る者の視線を惹きつける吉永小百合の魅力を存分に堪能したい。

「青春大全集」 (C)1970 松竹株式会社
「青春大全集」 (C)1970 松竹株式会社

◆文=酒寄美智子

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