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「女性らしさ」の呪縛から解き放たれ、共に過ごす食事の時間。ふたりの幸せな日常を描く『作りたい女と食べたい女』

  • 2024.6.1
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だからずっと探してたんだ 一緒におなべをからっぽにしてくれるひとをダ・ヴィンチWeb

これは『作りたい女と食べたい女』(ゆざきさかおみ/KADOKAWA)で綴られた、主人公のモノローグだ。なんて幸せに満ちあふれた言葉だろう。

「つくたべ」の愛称で親しまれる本作は、TVドラマがNHK総合にて第2シーズンまで制作され累計発行部数も80万部を超えるなど、まさに人気沸騰中。マンションの「お隣のお隣さん」である野本さんと春日さんが食事を通して親睦を深めつつ、お互いがかけがえのない存在になっていく様子を描いてゆく。

デカ盛りや大量といった豪快なメニューを作りたいと常々考えている、料理が趣味の野本さん。しかし小食ゆえに自分で料理を消化できないことから「誰かに食べてもらいたい」と悩み続けていた。

そんなとき「お隣のお隣さん」である春日さんが、ひとりで複数人前のファストフードをたいらげてしまうほどの食べっぷりの持ち主であることが判明する。

思わず大盛りごはんをつくってしまった日、野本さんは勇気をだして春日さんを夕飯に誘ってみることに…。こうして、「思いっきり好きな料理を作りたい女」野本さんと「おいしいご飯をたくさん食べたい女」春日さんの交流が始まった。

学生と呼ばれる時代を終えると、交友関係を新たに広げることがいかに困難なことか、わたしたちは知っている。学生時代は画一的に感じられたライフスタイルやお金の価値観、趣味嗜好がだんだんと細分化されてくるからだ。仕事のために所在地を選ぶ生活であれば、地元の顔見知りたちとも会えなくなってしまう。

だからこそ、ご近所さんである野本さんと春日さんが交流を重ねる様子はほほえましくもあり、羨ましい。「作りたい」「食べたい」のピースがかっちりとハマり、気を許せる関係を続けられることの尊さ。理解しあえる存在を得たふたりからは多幸感があふれている。

料理は生きていくためのスキル・やらなくてはいけない毎日のタスク、と思うことも少なくない中、誰かといっしょだからもっと楽しくなる側面もあるんだ、とこの作品を読んで実感させられた。

彼女たちの「作りたい」「食べたい」の裏には、お仕着せの女性らしさに悩む姿が隠れている。野本さんは料理が趣味だといえば「いいお嫁さんになれそう」と異性からジャッジの対象にされ、春日さんは「女の食事は少なくあるべき、質素であるべき」という実家の慣習に毒されていた。そういった外部の抑圧から解放されて、共にすごす食事の時間を愛おしむ姿はとても穏やかだ。

のちに広がる交友関係の中でも、食べることにプレッシャーを抱く女性や、料理を作る行程にはまったく興味がないと豪語する女性たちが登場する。食や料理にそれぞれの苦悩を抱えつつも、たしかな絆で結ばれた彼女たちが連帯する姿は晴れ晴れしい。

料理を通して育まれた野本さんと春日さんの信頼関係は、やがて恋愛感情へと変化していく。「つくたべ」は女性同士の恋愛を描いた作品としても知られ、ファンはふたりの恋の行方を固唾をのんで見守っている。

本作ではチャリティー活動や新聞広告など、本編以外でも同性同士の恋愛や結婚の難しさを訴える運動を続けている。作ることも食べることも、大切な人のために。社会が生み出したこうあるべきという押しつけの道ではなく、自分らしい生き方を模索する彼女たちの毎日を、これからも見守っていきたい。

文=ネゴト/ あまみん

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