1. トップ
  2. レシピ
  3. アイスクリームを食べるだけで環境活動に?茅ヶ崎の農家が始めた『SOYSCREAM!!!』の挑戦

アイスクリームを食べるだけで環境活動に?茅ヶ崎の農家が始めた『SOYSCREAM!!!』の挑戦

  • 2024.6.1
  • 2090 views

畑を耕さない農法「不耕起栽培」とは

写真提供: はちいち農園
写真提供: はちいち農園

– 今回初めて「不耕起栽培」という農法を知ったのですが、どんな栽培方法なのか教えていただけますか?

木綿さん: 不耕起栽培は、よくある土を耕すやり方ではなくて、土を耕さないで、そこに生えてくるお野菜以外の草も一緒に活かしながらお野菜を育てていく方法になります。

– 逆に、「耕す」ということはどういうことなんでしょうか?

木綿さん: 耕す目的は、種まきや苗を植える前に、土の中に栄養分(肥料)を混ぜておいて、土を作ってあげることです。そうすることによって、野菜を大きく早く育てることができます。

– では、はちいち農園さんは、肥料などは使わずに作物を育てている、いわゆる有機栽培を行っているということなんですね。お野菜以外の、草を活かして育てるというのは、除草作業などはせず、生やしっぱなしということですか?

晃さん: 草を放置するのではなく、お野菜の生育に合わせて丁寧に管理するので、除草作業がメインの仕事になってくるんです。草を刈ってお野菜が優先的に育つ環境を整えてお世話していくのですが、その刈った草をその場に敷いていくと、草を分解してくれるミミズなどの小動物が増えていったり、目には見えないですけど土の中の微生物など生物の多様性が回復していくんです。そうやって土壌が再生されて豊かになっていく。つまり、自然の仕組みを活用してお野菜を育てるということですね。わりと、不耕起栽培って草ボーボーになる程ほったらかしにしていると思われることもあるのですが、実は僕たちは草を管理するプロフェッショナルなんです。(笑)

– 無駄がなくて、すごく理想的ですね。不耕起栽培を選んだ理由を教えていただけますか?

晃さん: 実は、不耕起栽培のことは全然知りませんでした。僕が、研修という形で1年間通った有機農家さんがいるんですけど、そちらの農家を卒業された方が不耕起栽培をやっていらして、その方のブログが面白かったんですよ。それで、実際に訪ねに行って、はじめて不耕起栽培の実践の場所に立った時にめちゃくちゃ面白かったので、それを選んだっていう…直感的な感じでしたね。そこには何の理由もなくて、「僕がやりたいのはコレだ」って思っただけなんです。

写真提供: はちいち農園
写真提供: はちいち農園

– 直感で、これをやろうと思えるのってすごいですね。不耕起栽培のメリットって、どんなところなんでしょうか?

木綿さん: 一番は「すごく楽しい」っていうところですね。農業をやると考えると、おそらく色々な機械が必要なものだとイメージすると思うんですけど、私たちがやっている不耕起栽培は手作業なので、トラクターのような大きな動力機械を使いません。なので軽トラックさえも持っていません。普通の軽ワゴン一台で、鍬や鎌などそこに積める少しの道具でやっています。あとは、手作業だと誰でもできるので、「手伝いたい」と人が集まってくれることもメリットかと思います。実際、コミュニティーで一緒に作物を育てている畑などもあって、そこで農業への理解を深めたりなどもしています。

晃さん: 不耕起栽培では生物多様性の回復といった土壌の再生もできますし、草との共生によって植物が土壌に炭素を固定することができる。つまり、CO2排出を抑えることができる農法なんです。

土壌再生SOS!プロジェクト『SOYSCREAM!!!』

写真提供: SOYSCREAM!!!
写真提供: SOYSCREAM!!!

– アイスクリームブランドを立ち上げられたんですよね。

木綿さん: はい。畑をはじめた当初は、お野菜だけを作っていたのですが、数年前から大豆も一緒に作りはじめました。その不耕起栽培で育てた大豆を使ったアイスクリーム『SOYSCREAM!!!』を自社で製造までしています。

– どういった経緯で『SOYSCREAM!!!』は、誕生したのでしょうか?

晃さん: 楽しいからという理由で農業を始めましたが、僕は14歳からサーフィンを始めたので自然環境のことは昔から普通に大切に考えていました。そんな僕が農業を始めるときに環境問題を考えるのはとても自然なことでした。僕たちが農業者として環境問題にどうアプローチできるか?ということを考えた時、端的に不耕起栽培をやる人が増えた方がいいなと思いました。次世代へ繋いでいく豊かな土壌の再生面積を増やすためにも、そういう人たちが社会に増えていく必要がある。しかし、農業に参入するには精神的にも物質的にもハードルが下がらないといけないなと考えています。

– 精神的、物資的なハードルとは?

晃さん: 正直、手作業の不耕起栽培は「たくさん採って、たくさん売るぞ」っていうモデルには向いていないと思います。非効率ですし、経済的な合理性という観点から見ると真逆に振り切っているようなところもありますし。なので収入という経済的な理由から「不耕起栽培を選びたいけど、選べない」というところも結構ネックになっているのかなと。

– 手作業では大量生産もできませんしね。

晃さん: そういった方々の営農をサポートする仕組みを作るために生まれたのが、『SOYSCREAM!!!』です。不耕起栽培で育てられた大豆を僕らが買い取って、アイスクリームにします。そのアイスクリームを作ることによって、農家さんの大豆を高価で買取ができるっていうのと、僕らがこれからチャレンジしようとしているのは、そこからくる利益を可能な限り還元していって、その農家さんの経営の部分を補填するということです。そうすることでその農家さんたちが「大豆を作ってアイスクリームにすると、これだけの利益があがるから、もう少し来年は大豆を増やそうかな」と思ってくれるんじゃないかと。この循環をもって、土壌の再生面積と炭素貯留量を増やし地球温暖化の緩和へアプローチしたいと考えています。

– 大豆のアイスクリームにこだわったのは何か理由があったんですか?

晃さん: 大豆は不耕起栽培でも比較的育てやすい作物なので、新規就農者の即戦力になってくれます。それはマメ科である大豆の根っこに共生する根粒菌が空気中にある窒素を固定してくれるからです。更に大豆は保存がきくので、腐りません。その都度出荷ができるというメリットもあります。また、環境的な視点で言うと、工業畜産や動物倫理の問題とかもある中で、大豆は代替品としても重宝されている。アイスクリームにこだわったのは、納豆とか豆腐だとそんなに高くは売れないということ。それだと農家さんのサポートにならないので高付加価値のものでなければなりません。更に需要の高い食品でなければ継続的な支援が不可能になってしまう。そういった制約条件の中で辿り着いたのが大豆のアイスクリームでした。アイスクリームなら、小さいお子さんからお年寄りまで楽しめるものですし、腐らないのでフードロスもない。それに環境問題への取り組みって結構ヘビーな課題ですが、アイスクリームならとてもポップなのでみんなが参加しやすいなと思ったんです。

– そうかもしれないですね。ちなみに、お味はどうなんでしょうか?豆乳アイスクリームって、結構豆乳の味が前面に押し出されている商品が多いと思うんですが。

晃さん: 実はこれだけ言っておいて、僕は豆乳が嫌いなんです(笑) 納豆とか、豆腐とかお味噌汁とかは好きなんですけど、豆乳の美味しさは全く分からないんですよね。でもこの豆乳嫌いの僕でも美味しいと思えるくらい、味についてはこだわって作りました。なので僕と同じように豆乳が苦手な方でも美味しく食べられるアイスクリームに仕上がっています。

– フレーバーはあるんですか?

晃さん: 今は、塩キャラメルナッツというフレーバー1種類でやっています。あえて、フレーバーを増やさないことも個性かなと思っていて。ただ、この塩キャラメルナッツの味がとても好評だからというのもあります。僕たちはただのアイスクリーム屋さんではなく、あくまでも不耕起栽培農家さんを支えるための手段としてアイスクリームの味を追求しています。

木綿さん: あとは、 私たちは不耕起で大豆だけじゃなくて、野菜も育てているので、例えばアイスクリームのフレーバーに向くような落花生とかさつまいもとかが取れる時期はフレーバーを増やしたりもします。

– 季節限定っていうのは良いですね。今は、どちらで『SOYSCREAM!!!』は、食べられるんですか?

木綿さん: 今は自社で販売する時は、キッチンカーで色々なところに出ていっています。それ以外は、カフェやレストランだったり、量り売りのエシカルショップなどへのバルク卸です。場所は、今は東京と神奈川を中心に販売を開始したところです。

– 色々な場所で『SOYSCREAM!!!』を口にできるチャンスが広がってきているわけですね。これまでにどういったお客さまに反響があると手応えを感じていますか?

木綿さん: コンセプトありきで私たちも作っていて、そのコンセプトに興味を持ってくださった方々から声をかけて頂いてお話する機会も増えています。去年はアースデーのイベントに呼んで頂いたんですが、そういうイベントに来場されるお客様は、環境問題のことを普段から考えられている方ですよね。けれど、そういった環境イベント以外にも、例えば、茅ヶ崎市内の街イベントなどに参加することもあって、ただふらっと立ち寄ってくださった方もたくさんいらっしゃいます。不耕起栽培っていう言葉を知らない方々が、私たちのアイスクリームを通して「不耕起栽培ってなんだろう?」って思ってもらうきっかけになることもすごく嬉しいことだと思っています。

– そういった環境イベント以外の場所でお会いする方々からは、どんな反応がありますか?

木綿さん: アイスクリームを食べている時って、すごくみんないい気分じゃないですか。だから、そういう時に、ちょっと難しい話をしても、いい感じに聞いてくれるなっていうのはあります。私たちのアイスクリームは、それを食べるだけで環境のことを応援してくださることになるから、別に難しいことを必ず聞いてもらわなくても良いんですけど、例えば、パンフレットを見てくださっている方に声をかけてみると、「気になってはいたけれど、何をしたらいいのかな」と思っていたり、身近にできることがないと考えている方がわりとたくさんいらっしゃることが分かります。

– 『SOYSCREAM!!!』が消費者の方々にとって、どんな商品になればいいと考えていますか?

晃さん: あと数年もしたら、全ての人が環境の為に何かをしないといけないというフェーズになるかと思うんです。けど、例えば子育てをしながら、仕事をしながら、時間的にも金銭的にもこれ以上何をしたらいいの?っていう消費者側の課題に対して『SOYSCREAM!!!』は「食べるだけで環境のために良いことができる」っていう仕組みにしてあります。現在、EC(オンライン販売)も準備しているので、農家と消費者の相互の支え合いみたいな関係のアイスクリームになっていくと思っています。そういうところを表現して、手にとってもらえる機会をもっと増やしていきたいですね。

木綿さん: 今を楽しくすることだけを考えて生きていると、未来の人たちの環境まで使って、無責任な未来を残すことになってしまうと私たちは考えています。今の子供たちや、その先の未来の人たちのことを、大人はよく考えて今を生きるべきだなと思っていて。私たちのアイスクリームは、決して値段を安くしていません。それは、先程も言った通り、不耕起の農家を支えるソリューションとして、その方々にお金を還元できるようにするためには、その値段をつけなければ意味がないと思っているから。なので、他のものに比べたら少し高いと思う方もいると思いますが、「それを選ぶことにどういった理由があるのか」を考えてもらえたらいいなと思います。もちろん、アイスクリームは『SOYSCREAM!!!』だけを食べなくちゃいけないわけじゃなくて、自分たちがいろんなものを選べる時代に、その選択肢の一つとして在りたいと思っています。生活は一つにつながっているので、それを一回選ぶことで、色々な行動が変わってきたりとか、今までスルーしていた情報が入ってきたり、色々な変化があると思うから。『SOYSCREAM!!!』が、そんなことのきっかけになれればいいなと思っています。

【プロフィール】茅ヶ崎 はちいち農園

写真提供: はちいち農園
写真提供: はちいち農園

2018年に湘南 茅ヶ崎にて新規就農し、「耕さない畑」不耕起栽培で、多品目栽培に取り組んでいる。 新たに立ち上げたアイスクリームブランド『SOYSCREAM!!!』では、不耕起栽培農家を支援して、地球温暖化の緩和を目指すという目標を掲げ、不耕起栽培の大豆を原料にしたアイスクリームを自社製造し、神奈川・東京を中心に販売中。今後はEC販売で全国展開を予定。

茅ヶ崎 はちいち農園: HP

SOYSCREAM!!!: HP

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。

元記事で読む
の記事をもっとみる