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仲野太賀“優三”を思い返すと涙が出てくる…心に響くセリフに込められたものとは? NHK朝ドラ『虎に翼』解説&感想レビュー

  • 2024.6.2
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連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

伊藤沙莉主演のNHK朝ドラ『虎に翼』。本作は、昭和初期の男尊女卑に真っ向から立ち向かい、日本初の女性弁護士になった人物の情熱あふれる姿を描く。第9週では、終戦を迎え、残された者の苦しみと決意が描かれた。そして、日本国憲法公布により物語は第1話冒頭へとつながる…。(文・あまのさき)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:あまのさき】
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。

連続テレビ小説『虎に翼』第9週
連続テレビ小説虎に翼©NHK

第9週は「男は度胸、女は愛嬌?」と題し、戦争を経て、寅子(伊藤沙莉)たちが直道(上川周作)や優三(仲野太賀)の死を乗り越えるまでを描いた。

【写真】仲野太賀“優三ロス”を解消する…素敵な劇中写真はこちら。NHK朝ドラ『虎に翼』劇中カット一覧

月並みだけれど、改めて戦争というものがいかに理不尽に人の命を奪ったかを考えさせられる5日間だった。あんなに思い合っていた直道と花江(森田望智)の、ただ一緒に生きたいという願いすらも打ち砕かれる。子どもたちの「お父さんはお国のために戦ったんだよね」という言葉が辛い。

疎開していた寅子や花江らも東京へ戻り、岡山の学校に通っていた寅子の弟・直明(三山凌輝)も帰ってきた。直言(岡部たかし)は体調を崩しており、いまの猪爪家には男の働き手がいない。直明は大学へ行くのを諦めて、自分が働くと言い出す。それが自分のやりたいことだという直明に、どこか納得のいかない顔をしているものの、寅子はそれを口には出さなかった。

連続テレビ小説『虎に翼』第9週
連続テレビ小説虎に翼©NHK

優三の安否がわかったのは、終戦からしばらく経ってからだった。実は直言が優三の死亡告知書を半年近く隠していたのだ。いま寅子に倒れられたら困るからと、ついつい隠してしまったらしい。直言らしいといえばそうだけれど、事が事なのですんなりとは受け入れにくい。

いよいよ体調が悪くなってきた直言は、寅子の結婚相手はてっきり花岡(岩田剛典)だと思っていたことや、花江がだんだん強くなっていって怖いと感じていたことなど、これまでのことを懺悔とともに話しはじめる。死期を悟ったとはいえ、あまりにも素直すぎる吐露だった。そして、こんなお父さんでごめん、と何度も何度も繰り返す。

たしかに直言は、威厳のある父親像とは違ったかもしれない。でも、本当に愛情深い人だったと思うのだ。寅子の女子部への進学を誰よりも応援し、どんなときも寅子をかわいいと言い続けた直言は、いつだって寅子のことを愛していた。

死の間際にしてなお、いや、だからこそ、それが身体中から溢れ出ているようだった。岡部たかしが作り出す、軽妙な空気を纏った憎めない父親が一層愛おしく感じる。

そして、この直言の家族愛は、しっかり寅子へと受け継がれていく。

連続テレビ小説『虎に翼』第9週
連続テレビ小説虎に翼©NHK

優三の死を知っても、寅子は泣いて取り乱すことはしなかった。ただじっと耐えるみたいに、淡々と生きることを続けた。これに待ったをかけたのははる(石田ゆり子)だ。直言のカメラを売ったお金を渡し、心が折れる前に立ち止まりなさい、と進言する。実は自分も花江も、内緒で贅沢をして乗り越えてきたのだから、と。

もらったお金で屋台へ行き、焼き鳥とお酒を買う寅子だったが、生前「美味しいものは一緒に」と笑い合った優三の顔が浮かんでしまって食べられない。生活のそこここに、まだ優三が生きている。食べ物に手を付けず店を後にした寅子だったが、店主が追いかけてきて、焼き鳥を持たせてくれた。街の中はまだまだ荒廃しているけれど、ここには人の優しさがあるのだと気付かされる。

焼き鳥は、新聞に包まれていた。そこに書かれていた新しい憲法を読み、またも優三を思い出す寅子。そこに書かれていたのは、優三が寅子に伝えた「寅ちゃんが好きに生きること」「後悔せず心から人生をやりきる」という願いに通じるものだった。

連続テレビ小説『虎に翼』第9週
連続テレビ小説虎に翼©NHK

社会は変わりつつある。寅子が目指した男女平等の社会が、優三が願った後悔しない人生を生きられる時代がやってこようとしている。その事実に力が湧いてくると同時に、優三のような素晴らしい人物を欠いてしまった代償の大きさを感じた。

はるの計らいによる息抜きを経て寅子がたどり着いたのは、自分の気持ちを押し殺し、大黒柱になろうとしていた直明を大学へ行かせることだった。二十歳だからもう大人だと言っていた直明が、「勉強してもいいの?」と涙を流す。

これまで家族のために我慢を強いられてきた直明を演じる三山凌輝のまっすぐな瞳が、安堵に揺れたように見えた。短いやりとりではあったが、非常に印象に残るシーンだった。

自らが大黒柱になるという寅子の選択は、自分自身がいま一度法曹の世界でやりきりたいとの思いに支えられているのだろう。と同時に、それは、子どもの頃から勉強が好きで役人になりたいといっていた直明の夢を叶えるためでもある。

寅子は、家族の夢を応援するために、自分のできることをやると決めたのだ。これはそのまま、かつて直言が寅子にしてくれたことでもある。寅子のなかに優三と直言がたしかに生きているという証を感じられる、熱い決断だった。

(文・あまのさき)

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