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長年の定説を覆す!サルの祖先は単独生活ではなかったことが判明!

  • 2024.6.1
霊長類の祖先はペア型の生活であった!
霊長類の祖先はペア型の生活であった! / credit: Olivier et al., PNAS (2023)

科学者たちは霊長類(サルの仲間)の社会を調べることで、私たち人間社会の起源を探ってきました。

霊長類の社会について、これまで有力視されていた学説は「祖先種は単独生活をしており、そこから時間が経つにつれて群れで生活をする種が出現した」というものです。

今回、ストラスブール大学(University of Strasbourg)のオリバー氏(CA Olivier)を筆頭とする研究チームは、霊長類215種のデータを解析することで「霊長類の祖先種は、1頭のオスと1頭のメスから成るペア型の生活であること」を明らかとし、従来の学説をひっくり返しました。

本研究成果は2023年12月28日付に科学誌「PNAS」に掲載されました。

目次

  • サルの社会から、人間の社会を知る
  • 定説がひっくり返る!霊長類の祖先種はペア型の生活だった!

サルの社会から、人間の社会を知る

古代ギリシャのアポロン神殿には「汝自身を知れ」と記されています。

この言葉は「私たちは、人間についてよく知らなければならない」という意味であり、私たち人類は人間を知ろうと遥か昔から探究を続けてきました。

では、どのようにしたら、私たちは人間をよく知ることができるのでしょうか?

その答えを求めて教会へと足を運ぶ人もいるでしょう。また、文化や歴史を調べることで答えを探す人もいるでしょう。なかには、芸術を通じて答えをみいだす人もいるでしょう。

そしてまた、「人間は生物である」という前提を出発点として、ヒトの生物学的側面から答えを探す人もいることでしょう。

特に、進化の隣人である霊長類(=サルの仲間)を調べることで、生物学的側面からヒトの起源や進化史を明らかにする試みは日本や欧米で盛んに行われてきました。

いろいろな種類の霊長類
いろいろな種類の霊長類 / credit: Canva、近本賢司

長い歴史のなかで、一部の学者たちは、「言葉をもつ人間だけが社会を形成することができる。そのため、人間と動物を区別する明確な境界線は言葉にある」と考えてきました。

一方、生物系の科学者たちは「言葉よりも先に社会を形成する力が進化したはずである」という考えのもと、ヒト以前の社会のすがたの解明を目指して霊長類の研究を進めてきました。

ヒトに加えて、チンパンジーやゴリラなどの類人猿、ニホンザルやメガネザルなどのいわゆるサルを含むグループである霊長類は、ある共通の祖先から分岐したと考えられています。

そのため、この霊長類の祖先が、どのような社会をしていたのかを特定することが、ヒト以前の社会を知るうえで重要となります。

霊長類の系統樹。現存のサルたちは共通の祖先から進化した。
霊長類の系統樹。現存のサルたちは共通の祖先から進化した。 / credit: 京都大学 理学研究科 理学部HP

 

長年にわたり、科学者たちは「霊長類の祖先は単独生活をしており、そこから時間が経つにつれて群れで生活をする種が出現した」と考えてきました。

このように単純なものから複雑なものが生じるという流れは自然なように思えます。

例えば、単細胞生物を祖先として多細胞生物が進化したり、一つの受精卵から複雑な体が出来あがったりと、だんだんと複雑化していくことは、生物学においてかんたんに想定できることです。

しかし、今回、ストラスブール大学のオリバー氏(CA Olivier)を中心とする研究チームは、従来の学説をひっくり返す発見をしました。

 

定説がひっくり返る!霊長類の祖先種はペア型の生活だった!

「祖先種は単独生活をしている」という当初のアイデアは、現存する種において、比較的古い時代に出現した霊長類に単独生活をする種が多いことから想定されています。

しかし、オリバー氏たちは、「近年、これまで単独生活だと想定されていた種が、じつは群れで生活している」という報告が増えていることに気が付きました。

そこで、これまでに報告された霊長類の研究データを世界中から集めて、そのデータを網羅的に解析することで祖先の社会の姿を解明することを試みました。

オリバー氏たちは集めたデータを解析するうえで、これまでにない非常に洗練された工夫をこらしました。

従来、「サルAは単独生活をしており、サルBは群れ生活をしている」といったように、ある1つの種は、ただひとつの社会を形成すると想定され、解析が実施されてきました。

ここで、ヒトを例として考えみると「ある1つの種は、ただひとつの社会を形成する」と想定することが、現実をうまく反映していないことがよくわかると思います。同じヒトという種でも、アフリカ人とヨーロッパ人、日本人の社会はかなり異なっています。

このように、同一の種内にも異なる社会が形成される例というのは、ヒトだけでなく、サルの世界においても頻繁にみられることがすでにわかっています。

そこで、オリバー氏たちは、「同一種内においても、違う場所に住む集団では異なる社会が形成されることがあるし、もっというと、同じ場所に住む集団内でも異なる社会が形成されることがある」ということを考慮し、現実世界をきちんと反映した解析を実施しました。

一つの種内にもいろいろな社会がある。
一つの種内にもいろいろな社会がある。 / credit: イラストAC、近本賢司

オリバー氏たちは、215種、493集団の霊長類についてのデータを解析しました。

解析の結果、「これまで単独生活をしていると考えられてきたサルの祖先は、実は1頭のオスと1頭のメスから成るペア型の生活であること」が明らかとなりました。

具体的には、「祖先種のうちの10~20%ぐらいは単独生活をしていたが、80~90%はペア生活であった」という推定結果を示しました。

この発見は、長きにわたり支持されてきた定説、つまり「祖先種は単独生活をしている」というアイデアをひっくり返す結果となりました。

では、この発見はなにを意味するのでしょうか?

オリバー氏たちの発見が正しければ、ペアで暮らしていた霊長類の中の一部から、単独生活をする種が出現したというシナリオが想定できます。

では、いったいなぜ、群れで生きることをやめて、独りで生きることをはじめた種が出現したのでしょうか?

独りで生きることには、群れで生きることに比べてどのような利点があったのでしょうか?

このような問いは、「単純な社会から複雑な社会が生まれる」というアイデアを出発点としては生まれなかったでしょう。

無意識のうちに常識となってしまったことを改めて問い直してみると、新たなアイデアの創造につながることがあります。

「人間とはなんだろうか」。この問いに、生物学的側面から答えをさがす試みはまだまだ先が長そうです。

参考文献

進化と人間行動
https://www.utp.or.jp/book/b600572.html

元論文

Primate social organization evolved from a flexible pair-living ancestor
https://doi.org/10.1073/pnas.2215401120

ライター

近本 賢司: 動物行動学,動物生態学の研究をしている博士学生です.動物たちの不思議な行動や生態をわかりやすくお伝えします.

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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