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世界一ハマるランニングイベント! 米国ディズニーの「runDisney」とは?

  • 2024.6.1
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時刻は午前3時25分。こんな時間に起きているだけでも不思議なのに、ライターの私はレギンスを履き、76歳の母親と暗闇の中でEPCOT行きのバスに乗ろうとしていた(EPCOT/エプコットはウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにあるディズニーパークのうちの1つで、実験的未来都市の頭文字を取った略語)。

今朝の5kmは4日間で4つのパークを走るレースの1つ目で、2つ目は10km、3つ目はハーフマラソン、そして最後はフルマラソンだ。私は人生初のディズニーレースに参加して、runDisneyの熱狂的なファンの世界に浸るべく、真夜中のパークに立っていた。

レース前にパークを囲む駐車場の中にいると、招待者しか参加できない深夜の秘密の音楽祭を偶然見つけたような気分になる。レースがある週末のディズニーワールドの駐車場は、何千人ものランナーが押し寄せて大混雑。ここではみんながやさしく、ちょっとカフェインを摂りすぎていて、懐かしい友人と再会したり、衣装を比べたり、お互いの士気を高め合ったりする興奮に空気がざわめく。

私は、眠い目をこすりながら世界一魅力的な社会的実験を見守る社会学者のような気分で、とんでもなく騒がしい周囲を観察していた。会場の外からもランナーの声が聞こえてくる。群衆の叫び声と声援が空気を満たし、どこからともなく現れた巨大なスクリーンに全員が笑顔で目を向けた。大型の投光照明が早朝の暗闇を切り裂く中で、上品なイベント司会者が完璧なオヤジギャグを連発しながら興奮したランナーにインタビューをする。まだ夜明け前だというのに、不機嫌な顔をしている人は1人もいない。私は大音量のスピーカー、花火、ディズニーをテーマにした衣装、そして喜色満面のランナーたちに四方八方を囲まれていた。

フィニッシュラインを切る頃には、私はすっかりrunDisneyの魔法にかかっていた。見上げる空はまだ暗く、コーヒーも飲んでいない。なのに私は、このワイルドな経験を母と共有できた幸せと幸運に満たされていた。フィニッシャーメダルを外したくなくて、いつまで付けていていいものか(冗談っぽく)係員に聞いたくらいだ。しかし気になる。大金と情熱をかけ、このレースに繰り返し参加するのは一体どういう人たちなのか。今回はその内容をアメリカ版ウィメンズヘルスからご紹介。

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runDisneyにしかない魅力

1994年に始まったrunDisneyは、毎シーズン17万人ものランナーが参加する世界最大のランニングイベントの1つ。runDisneyはバーチャルレースも行っている(参加者は指定された時間枠で近所を走り、自己申告のタイムをアップロードして、レースのゼッケン・電子証明書・重たいメダルを郵送で受け取る)けれど、参加費はレースの種類によって100~405ドル(約1万5000円~6万円)と非常に高額(ボストンマラソンでさえ約230ドル)。にも関わらず、参加枠は数分で完売するからすごい。runDisneyの熱心なリピーターは、交通費、宿泊費、参加費に年間数千ドルを支払っている。

毎年約1万ドル(約156万円)を費やして平均3回はrunDisneyに参加するジェイミー・マルセラ(42歳)によると、ディズニーのレースは一般的なレースと全然違う。ディズニーに関する物理的な要素が人を惹き付けるのは間違いない。でも、他のレースと違ってrunDisneyは、人を懐かしい気分にさせる。このイベントに参加するランナーは子どもの頃からディズニーの映画やキャラクターを通してパークの風景とつながっていて、いまも配偶者や友人と一緒に、あるいは自分の子どもを通してディズニーの魔法にかかっているのだ。

runDisneyのランナーは、日の出と共にシンデレラ城を走り抜けるという、このレースでしか不可能な体験をする。ジェイミーいわく、その景色は「この世で一番美しい」そう。

「あれを見たら泣かずにはいられません。ティッシュを配る人がいるくらい素晴らしい体験です」

これは決して誇張じゃない。この話をするだけで息が詰まると言うジェイミーいわく、その瞬間に泣く人があまりにも多いため、シンデレラ城のあちこちにティッシュ箱を持ったキャストが立っていて、ジェイミー自身も毎回わんわん泣いているそう。

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runDisneyは居場所をくれる

この世には大勢のランナーがいて、その中にディズニーのランナーがいる。各地方のレースに出場するランナーは友情とチームワークで結ばれているけれど、runDisneyのランナーの結束感はレベルが違う。そもそも、このレースはライブエンターテイメント。この場限りの特別なキャラクターグリーティングが開催されて、ディズニーの専門用語が飛び交い、みんなが手の込んだ衣装を用意し、フェイスブックのグループで世界中の友達と何カ月も前から計画するので、熱い絆がすぐに生まれる。

「runDisneyに申し込むと、準備段階で必ずランナーの友達ができるものです」とジェイミー。

このイベントの参加者は単にランニングが好きなだけでなく、ディズニーを心から愛している。「みんな同じ映画を観てきているので話が合います」と語るのは、英国を拠点とするスポーツ心理学者で、スポーツパフォーマンスに関する本を複数出版しているジョセフィン・ペリー博士。ランナーは昔から結束の強い集団を形成してきた。そしてディズニーは、その結束を一段と強くする。「ランニングは人と人を実に上手くつなげてくれますが、それはディズニーも同じでしょう」。だから、この2つを一緒にすると、「とてもパワフルで大きな原動力になる」というわけ。

ペリー博士によると、このつながりは多くのランナーがrunDisneyに繰り返し帰ってくる心理的な原動力になっている。

そして、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにあるESPNワイド・ワールド・オブ・スポーツ・コンプレックス(ウォーターパークやミニゴルフコースを併設するスポーツ複合施設)のバイスプレジデントを務めるアダム・ボールいわくrunDisneyは「熱心なファンの驚くべき情熱を糧に成長している」。

ランナー歴10年で、つい先日100回目のrunDisneyを完走したブルック・プレロフスキー(36歳)も「runDisneyの真の魅力は大勢の情熱が混ざり合っていることです。とても気が合う素晴らしい仲間たちに出会えます」と話す。

米デンバー大学スポーツ・パフォーマンス心理学部の共同ディレクターで教授のジェイミー・シャピロ博士によると、このイベントのリピーターの多さには脳内化学物質も関係している。運動には私たちの気分を良くして、ストレスと不安を軽減する作用がある。そこにディズニーワールドにいることで大量に分泌されるドーパミンやセロトニンが加われば、パソコンまで走って行って次のレースに申し込まずにいられなくなるというわけだ。「この2つのポジティブな心理的作用が組み合わると、喜びが倍増します」とシャピロ博士。

ディズニーのランナーたちは、自分の功績を表すための専門用語まで生み出している。例えば、“Going Dopey(ゴーイング・ドーピー)”は週末に4つのレースを全て完走すること(4日間で合計約78.2km)、“Going Goofy(ゴーイング・グーフィー)”はハーフマラソンとフルマラソンの両方に参加することを意味する言葉。

runDisneyの常連が使う専門用語

Going Dopey(ゴーイング・ドーピー)

4日間で4つのレース(5km、10km、ハーフマラソン、フルマラソンの合計約78.2km)を完走すること。

Perfect Dopey(パーフェクト・ドーピー)

4日間で4つのレースを走るドーピーチャレンジで毎回完走していること(誕生から今日までで全11回)。

Going Goofy(ゴーイング・グーフィー)

ハーフマラソンとフルマラソン(合計約63.2km)を2日連続で完走すること。

Race-cation(レースケーション)

runDisneyのレースに合わせて休暇の予定を立てること。

Coast to Coast(コースト・トゥ・コースト)

1年のうちに、米国東海岸(フロリダ州)のウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートと西海岸(カリフォルニア州)のディズニーランド・リゾートの両方で10マイル(約16km)以上のレースを完走すること。

Castle to Chateau(キャッスル・トゥ・シャトー)

米国とパリのディズニーランドで1回ずつ走ること(ただし、パリのレースはパンデミック以降中止になっている)。

Balloon Ladies / Pace Cyclists(バルーン・レディース/ペース・サイクリスト)

集団の最後尾で1マイルあたり16分のペース(ディズニーが正式に設定している最低ペース)を維持して走り、取り残されたランナーを押し上げる人たち。

ジェイミーは(医師の承認を得た上で)一番下の子を妊娠中に初の“ゴーイング・ドーピー”に挑戦した。

runDisneyは彼女の意志を全面的にサポートし、フィニッシュラインに赤ちゃんの心音を聴くドップラー聴診器まで設置した。以来、ジェイミーはドーピーを4度達成している。

ブルックはドーピーチャレンジに10回参加しており、別のランナー、エミリア・セリュラ(43歳)は“パーフェクト・ドーピー”を達成している(このチャレンジが11年前に誕生してから毎回欠かさず完走しているということ)。この栄えある称号を手にしているのは、エミリアを含め世界で362人だけ。

大事なのは自己ベストではなく思い出

あらゆるレベルのランナーとウォーカーが歓迎されるrunDisneyには独特のアクセシビリティと楽しさがあり、それがrunDisneyのDNAの中核を成している。自己ベストが出たらすごい。出なくてもすごい。大事なのは、ディズニーランナーというインクルーシブで楽しいスポーツコミュニティの一員であるということだ。「同じフルマラソンを4時間以内に走ったこともあれば、6時間以上かけて走ったこともありますが、自分がランナーであることに変わりはありません」とブルックは語る。

ここにしかないディズニー体験を求めてレースに参加する人もいる。確かにrunDisneyのコースは驚きと喜びでいっぱいだ。カーブの先ではレアなキャラクター(『ピノキオ』のジミニー・クリケットや『王様の剣』のマーリン)が待っているし、最後の直線では聖歌隊による美しいゴスペルが聴こえてくる。そのたびにランナーはペースを落とし、ときには完全に足を止め、魔法のような瞬間を味わうのだ。

「私がレースに参加するのは、ディズニーのキャラクターに会い、唯一無二の体験をしたいからです。営業中のアトラクションにこっそり乗るかもしれませんが、そもそも私は自己ベストを更新するために参加するのではありません」とジェイミー。「一部の人にしか見られないものを見るために参加しているのです」

娘を出産後、「家を出るために」ランニングを始めたというエミリアもジェイミーと同じ気持ち。エミリアは14年前にrunDisneyのハーフマラソンに参加してから一度も足を止めておらず、一年中、米国各地でディズニーおよび非ディズニーのレース(現時点でハーフマラソン150回とフルマラソン40回)に参加している。娘とは短めのレースを走る。これほど経験豊富なエミリアにとっても、runDisneyは「ひと味違う」。

「ふざけた感じは間違いなくありますよ」とエミリア。「他のレースではランナーが真剣に走りますが、ディズニーのレースではランナーがクレイジーな衣装を着ていたり、コースの途中でキャラクターが出てきたり、楽しい音楽が流れてきたりで、どちらかと言うとパーティーみたい。とても気楽な雰囲気です」

でも、米ウェスタン・ケンタッキー大学心理学部の共同部長で、パフォーマンス不安・運動中のマルチタスキング・運動のモチベーションを専門とするスティーブン・ウィニンガー博士によると、こういう楽しいアクティビティはランナーをフィニッシュラインに導く上で戦略的な役割を果たしている。「運動中に体の感覚、ペースやタイムに集中すると、パフォーマンスは上がる傾向にありますが、本人はあまり楽しめませんし、耐久力も低下します。その点、runDisneyは(ランナーの)気を散らすのが本当に上手いです」

ディズニーのパークを走る興奮と特別感には、どんなスマホやランニングマシンも絶対に敵わない。

ウィニンガー博士によると、このようなイベントではランナーだけでなく観客も“社会的促進効果”を得られる。「ニューヨーク、シカゴ、ボストンのような大規模なロードレースの参加者はみな、観客が密集し、大声で叫んでいるエリアではエネルギーとアドレナリンが一気に高まり、喜びが増すと言います」

ジェイミーがrunDisneyのレースで精魂尽きそうになったときも、必ず大勢のディズニーファンが現れて大声援をくれるそう。その人たちを知っているわけではないけれど、その声を聞いていると絶対に最後まで走れるという気持ちになれる。その瞬間、「観客は私の魔法の仲間になります」

エミリアにとっては、パークを入ってすぐのメインストリートUSAで家族や友人が応援してくれている姿を見るのが特別な瞬間だ。昨年のドーピーチャレンジのハーフマラソンでは両親がサプライズをくれたそう。「あの姿には毎回息を飲むほど感動します」

レースを終えたランナーは応援に参加できる。エミリアもレースのあとは最後のランナーがフィニッシュラインを切るまで応援を続けるそう。「他のランナーを応援できるのは本当に特別なこと。ディズニーのレースのあとは、大体いつも笑いすぎで顔が痛いです」

参加方法

ディズニーのレースは発売から数分で完売することがあるので、参加したい人は前もって計画を。

2024年4月18~21日:runDisney スプリングタイム・サプライズウィークエンド(5km、10km、16km)

2024年9月5~8日:ディズニーランド・ハロウィン・ハーフマラソンウィークエンド(5km、10km、ハーフマラソン)

2024年10月31日~11月3日:ディズニー・ワイン&ダイン・ハーフマラソンウィークエンド(5km、10km、ハーフマラソン)

2025年1月8~12日:ウォルト・ディズニー・ワールド・マラソンウィークエンド(5km、10km、ハーフマラソン、フルマラソン)

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※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Liz Zack Translation: Ai Igamoto

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