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これはおもしろい! パリ装飾美術館の『デパートの誕生 1852~1925年』展。

  • 2024.6.1
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パリの装飾美術館で、パリにおけるデパートの誕生についての展覧会が開催されている。タイトルは『La naissance des grands magasins / mode, design, jouets, pulicité 1852-1925』で、展示品はモード、デザイン、おもちゃ、広告など約700点。第二帝政期、ナポレオン3世によって消費と贅沢が推奨された。この展覧会はナポレオン1世の甥にあたるナポレオン3世による第二帝政期が始まり、世界初のデパートであるボン・マルシェが開店した1852年から、その社会的変化の確立の象徴のようにのちに"アール・デコ展"と呼ばれることになる現代装飾美術・産業美術国際博覧会が開催された1925年までを対象としている。パリにおいてデパートという新しい形態が生まれ、それが商業面と人々の暮らしにどのようなインパクトを与えたのかをわかりやすく展示している。デパートを舞台にしたエミール・ゾラの小説『ボヌール・デ・ダム百貨店』が発表されたのは、この展覧会が扱う時代のほぼ中央の1883年。彼はボン・マルシェ、そして当時それと人気を二分していたルーヴル百貨店の2カ所から大量な資料を入手してこれを書いたそうだ。デパートの誕生が巻き起こした商業革命をタイムスリップして生きることができ、読みごたえのある1冊である。

左: 展覧会のポスター。右: 銀行家や企業主などブルジョワの台頭が見られた第二帝政期。貴族並みの暮らしを求める贅沢志向の彼らの消費が、デパートの成功へと結びつく。photos:(左)Mariko Omura (右)©️Les Arts Décoratifs/Jean Tholance

リトグラフ『Les Grands magasins Dufayel』(1895〜1900年)。1856年にクリニャンクール通りにオープンしたDufayel百貨店の豪華な店内が描かれている。 ©️Les Arts Décoratifs

さてノルマンディー地方のカーン美術館では、『Le spectacle de la marchandies / art et commerce 1860-1914』展が9月8日まで開催されている。こちらは商業の発展がもたらすショーウインドーや看板の光景や当時人々の様子などに関心を抱いた芸術家たちが残した作品が中心の展示。対象はデパートが誕生し街にも商店が次々と生まれた1860年代から、第一次大戦が始まる1914年が対象だ。ふたつの展覧会を合わせて鑑賞すると、人々が消費に掻き立てられ、興奮した第二帝政期の雰囲気に浸ることができるだろう。これについては改めて紹介するとして......。

装飾美術館の展覧会は、第二帝政期の目覚ましい近代化を紹介する時代背景から始まる。パリをヨーロッパの首都にしたいと願うナポレオン3世はロンドンに対して大いなる対抗意識を燃やし、パリで世界博覧会も開催。彼の指揮のもと、有名なオスマン男爵によるパリ改造が始まり、鉄動網の発達で商品や原料の輸送が簡単になり、産業の発展へと繋がり......また旅へ、休暇へと出かける新しいライフスタイルを庶民も得ることができるように。ナポレオン3世と妃ユージェニーは華やかなパーティーを頻繁に催し、この頃に台頭したブルジョワ階級は宮廷を見本に知っていたので贅沢産業の上顧客。さらに一般市民の間でも消費への関心が高まって......というのも、何も買わなくても商品を眺め、触れるデパートという消費の殿堂が誕生したからだ。デパート誕生以前はウインドーディスプレーもない商店に行き、人々は必要な品を購入するという商業形態だった。ボン・マルシェをきっかけに、プランタン、ギャラリー・ラファイエット、ラ・サマリテーヌなどいまも続くデパートがこの時代に誕生。このほかにも消えてしまったデパートが多数オープンしていた。展覧会では当時のモード、おもちゃといった商品を展示する一方で、通信販売のデビューや、バーゲンの誕生、広告戦略、スタッフなどにもスポットを当てている。

左: いまもあるデパート、消えてしまったデパート......。右: 鉄道の目覚ましい発達。1851年にはフランス国内に3558kmだったのが、1869年には16,994kmに。photos: Mariko Omura

受付、販売員、配達員......事務、裏方も含めてデパートで働く人を紹介。いちばん多く場所をとってるのが売り場で、女性のためのジャケット、傘、インド更紗、コルセット、玩具、文具など36に分かれている。photos: Mariko Omura

左: Jean-Gabriel Domergueによるギャラリー・ラファイエットのポスター(1920年)。©️Les Arts Décoratifs/ Christophe Dellière右: クチュールメゾンのFélixとデパートのLes Trois Quartiersによるサマードレス(1908〜1910年)。ファションの民主化が見られる時代で、デパートでクチュールメゾンのドレスが購入できるように。photo: Mariko Omura

左: 布見本やウール見本などをつけたインド更紗の売り場のカタログ。右: 配達員の制服。photos: Mariko Omura

日傘、手袋、扇......女性たちがコルセットを着けていた時代のファッションアクセサリーが多数展示されている。この時代、コルセットもカタログ販売もされていた。photos: Mariko Omura

会場が装飾美術館らしく、デパートにおけるアールドゥヴィーヴルがらみのコーナーも。プランタン・デパートのPrimaveraが筆頭で、美しい日常を提案すべくデパート内に設けられた独自のクリエイションアトリエにもスポットを当てている。この動きの始まりは、プランタン・デパート内に1912年に生まれたアトリエのPrimavera。ボン・マルシェ、ギャラリー・ラファイエットなどにも同様に、デザイナーをトップに据えたアトリエが設けられた。1925年に開催されたアール・デコ展には、各アトリエがスタンドを出して、優れたクリエーションを世界にアピールしたそうだ。

第一次代戦後、デパートは室内装飾芸術品のためにクリエイションアトリエを内部に設けるようになった。プランタン・デパートが1912年にPrimavéra(プリマヴェラ)を設けたのが最初で、手頃な価格の家具やオブジェを制作。プリマヴェラは新しい美意識を求め、デザイン学校を卒業したての若いデザイナーたちを雇い入れていた。1921年にギャラリー・ラファイエットのアトリエ、La Maitrise(ラ・メトリーズ)はモーリス・デュフレンヌにディレクションを依頼し、またボン・マルシェのアトリエ、Pomone(ポモーヌ)はポール・フォロに。彼らの仕事は1925年のアール・デコ展のスタンドで大勢にお披露目された。photos: Mariko Omura

装飾美術館の展覧会が終了すると、翌月、11月6日から5ヶ月間、16区のCité de  l'architecture et du patrimoine(シテ・ドゥ・ラルシテクチュール・エ・デュ・パトリモワンヌ)にて『百貨店の長編物語』展が始まる。パリに限らず、ヨーロッパの他都市のデパートも含め、その建築物にフォーカスを当てた展覧会だ。対象となる時代は1852年から現代にいたるまで。装飾美術館とはアングルが異なるので、こちらも見ておくとおもしろいだろう。

『La naissance des grands magasins / Mode, design, jouets, publicité 1852- 1925 』年

開催中~10月13日

Musée des Arts décoratifs 107, rue de Rivoli 75001 Paris

開)11:00~18:00(水、金〜日)11:00〜21:00(木)※企画展のみ

休)月、火

料)15ユーロ

www.madparis.fr@madparis

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