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三大欲よりかき氷欲。火照った身体が一口目で驚く、この瞬間が「夏」

  • 2024.6.1
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夏にしたいこと!それは、かき氷を食べることだ。

なんだか物凄く単純な、夏のお手本のような思考回路に思えるが、かき氷を舐めてもらっちゃ困る。ここ最近のかき氷の躍進は凄いのだ。
記憶の中のかき氷というと夏祭りの屋台だとか、ヨーカドーの食料品コーナーにあった小さなレストラン……というか食事どころで購入する粗く削られた氷にシロップのかかったシンプルかつリーズナブルなもの。
それはそれでシンプルで良いし、粗い削りの氷の舌触りと甘さをむしょうに食べたくなるけれど、最近は凝った、ちょっとお高めなご褒美のようなかき氷が増えていて、私はそれにも心躍らされる。
素朴な味も、ちょっと背伸びした味も、優劣なく、美味いのだ。

◎ ◎

私が特に気に入っているのは昔ながらの商店街にある人気店である。
友達に誘われて行ったのは、夏のある日。夏なんかは皆涼を求めているから、暑い中店の前に並ぶ。ただジリジリと暑いだけならばそれは拷問のような、オーブンの中で焼かれるチキンのような気分になるが、かき氷を食べる前となるとその苦痛さえも、甘くて冷たい幸せの前では、それを引き立てるスパイスに変わる。

私は喉元すぎれば暑さを忘れるという言葉が好きなのだが、まさしくそのとおりで、「あついー」「いつ呼ばれるんだろうー」「まだー」なんて文句を垂れつつも、「ご案内します」といわれると、スーッと暑さを感じなくなるから、人間とは不思議だ。

カウンターに通されると目の前には昔ながらのかき氷機がある。「ちびまる子ちゃん」のオープニングに出てきそうなデザインのやつだ。近年ハイテク化が進んでいて、かき氷だって家電量販店にいけば圧倒的に電動のほうが多いけれど、ここのお店ではたくさんの従業員さんが、ガッシャガッシャと音を立てて、腕を動かして氷を削る。
そのさまを見るだけでも、「かき氷欲」は掻き立てられる。真夏の暑さで火照った体、そして氷を削る音の前では「食欲、性欲、睡眠欲」、人間の三大欲求よりも、「かき氷欲」のほうが圧倒的に強い。
わくわく踊る胸、舌が冷たさを求めていると、山盛りの氷が出来上がる。

◎ ◎

果物を煮詰めた甘いソースをどろりとかけられる。
サラサラの液体のシロップとは異なり、どろりとした果肉の残るソースは、余分なものの入っていない熟された色をしている。
山盛りの氷はスプーンをいれると、崩れる。ぐしゃっと器の下のお盆にこぼれる。ここはマナーや礼儀は暫し無礼講。お行儀が悪くてもお盆越しにすくっちゃう、そうしてそのまま食べていく。
山で言う先端の方を食べるのは少し勿体無いような気もするけれど躊躇っている場合はないぞ!としゃくしゃくとすくっては口に運ぶ。

火照った体を、氷がじゅうっと鎮める。甘さが身体を満たしていく。
一口目で身体が驚く感じがよい。そうしてだんだんとクールダウンしていく、体温を感じる、この瞬間がまさしく「夏」という感じがして、好きだ。
私は冷たいものを食べても頭がキーンとしない体質らしく、隣で友達が「キーンてするなあ」といっていても、相槌もそこそこに食いすすめていき、そして最終的には器を抱えて、昇進する力士が盃をすするような勢いでグビグビと飲み干す。
一滴残らずすすって、お盆に落ちた氷の欠片さえもすくっちゃう。

◎ ◎

ただの氷と果物だと侮るなかれ、こんなにも満たされる甘味はなかなかない。

今年は何を食べようか。メニューがたくさんあるお店だから目移りしてしまう。
まだ初夏、皐月の風の中にいる私だけど、頭の中でかき氷を思い描くと、夏の匂いが誘う。オールシーズンやっているお店だからフライングしていってみようか。

四季を楽しむ、清少納言のような気分で、夏は夏らしいものを思い切り、味わっていきたいなと思う。

■忍足みかんのプロフィール
昭和70年生まれ(=平成6年生まれ)の新人エッセイスト 中高大学女子校育ちでLGBT当事者。多趣味でありとあらゆるもののヲタク。昭和歌謡を愛し山口百恵とキャンディーズを神と崇める。 醜形恐怖症であり昨年美容整形。 スマホ依存症からの脱却を描いたデジタルデトックスエッセイ 「#スマホの奴隷をやめたくて」出版中

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