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私に「無料のキャバ嬢」をさせた自助会のおじさんから身を守るための嘘

  • 2024.6.1
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私は治療の一環として自助会に参加している。自助会(自助グループ)とは、共通の病気や困難、問題などを抱えた者が集まって交流し、回復を目指す場だ。自身の困難を話すことで状況や気持ちの整理ができたり、自分を客観視できたり、新たな発見があったりする。他者の話を聞くことでも同様の効果が得られる。そして自助会で知り得た情報は外に持ち出してはならない。基本、参加者は当事者だが、当事者以外も参加可能な場合もある。自助会に参加して得られるものは多い。とはいえ、なんらかの問題を抱えた者の集まりなので、大なり小なりトラブルが起きることもある。

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自助会が終わった私は会場から出ると「〇〇さんですよね?」と参加者のおじさんに声をかけられた。その名前は今日、名乗っていない本名だった。驚いて固まっているとおじさんは色々話し始めた。どうやら別の自助会で会ったことがあるようだ。自助会は基本、匿名で参加するのだが、その会では参加者がフルネームで名乗っていて、私もそれにならってしまった。しかし、その場で名乗っていない名前でその人を呼ぶのは、その人の個人情報を暴露しているも同然。匿名で使っているX(旧Twitter)アカウントで突然、本名を名指して公開リプライが来たと想像してもらえると、おじさんの行為がナンセンスで非常識なことがわかるだろう。

そんな人とはあまり関わりたくない。しかし、自助会で料理が好きと話していた私に、隣の商業施設にある雑貨店を紹介したいと、おじさんは私の側を離れてはくれなかった。お店知っていると伝えても無駄。スマホをしきりに見て、時間がないアピールをするも無駄。テンションを落として、お前と過ごす時間はクソつまらないアピールをしても無駄。これからスタバ行きたいんですよねと、だから解放してくれと臭わせても無駄。むしろ一緒に行きましょうかなんて言われて白目を剥いた。

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こうなりゃとっとと目当てのお店に行って解放してもらおう、と思ったら「このお店も雑貨が可愛いんですよ」などと、ニコニコしながら別のお店も連れ回された。なんでこんな人とデートまがいのことをしなければならないのか。私は看護師でもヘルパーでもカウンセラーでもキャバ嬢でもない。対価ももらっていないし、好意もないので、ケアをする理由はない。そこにボランティア精神は持ち合わせていない。私はこのような行為を「無料のキャバ嬢」と呼んでいる。私はなんの好意も抱いていない男性に対して無料のキャバ嬢をしないようにしている。男性が女性を無料のキャバ嬢扱いをしても許されたと学んだら、次は自分以外の女性が犠牲になる。負の連鎖は自分で断ち切りたい意思はあるが、実際は難しい。

目当てのお店を見て回り終えた。スマホをチラチラ見ながら「彼氏から連絡来てるんで」とほらを吹こうとしたら「あ、時間とかありますよね」と私は解放された。恋人を嫉妬に狂った鬼電野郎に仕立て上げる前に終わってよかった。ちなみに嫉妬深いのは私の方である。

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おじさんと二度と会わないようその自助会には行かず、別の自助会に通えばいいかもしれない。でも都会ではない限り選択肢は少ないので、残念ながらそれは避けたい。ちなみに会や主催者にもよるが、基本、自助会に出禁の制度はない。家族から見放されたり、仕事を失ったりと、精神的、身体的、社会的にボロボロになって自助会しか拠り所がない状況の人が、自助会から追い出されたら、そこに残るのは「死」だからである。自助会はそういう人のための最後の砦という役割も果たしている。

これを機に、男性も参加する自助会には、フェイクで指輪をつけて参加しようと思った。恋人に話を振ると、ものづくりに興味があるので、どうせなら自分たちで指輪を作るお店に行こうとなった。どっちの手につける指輪か聞いたら、力強く「右手」と返された。たとえフェイクでも左手に指輪があることに憧れがあった。でも、そこに嘘をつかないのが恋人の私への誠実さなのかもしれない。

■馬須川馬子のプロフィール
毒親育ち。今は親から離れ、自分を育て直しています。ノンフィクションの作文が好きで、社会復帰のための活動の一環として投稿活動しています。

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