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筋金入りの『相棒』オタクを唸らせた、映画『帰ってきた あぶない刑事』の特別な魅力とは? 刑事モノの二大巨頭を比較&考察

  • 2024.6.1
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©2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会

舘ひろし&柴田恭兵主演。スタートから約35年以上経つ、超人気刑事ドラマシリーズの8年振りの劇場作品『帰ってきた あぶない刑事』が公開中だ。今回は、土屋太鳳がヒロインとして出演した本作を、『相棒』をこよなく愛するライターが両作の比較を交えて考察。稀有な魅力に迫る。(文・Naoki)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】
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【著者プロフィール:Naoki】
1995年、福岡生まれ埼玉育ち。配信業界に勤めるサラリーマン。前職ではTVやアニメ業界でのエージェント業務を行う。『相棒』をこよなく愛し、10年以上全力で追いかけるオタク。”作品を知らない人には分かりやすく、知ってる人にはより楽しい記事”を信条としている。

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

2024年5月24日、『あぶない刑事』ことタカ&ユージが横浜に帰ってきた。

【写真】舘ひろし&柴田恭兵の痺れるほどカッコいい劇中写真。映画『帰ってきた あぶない刑事』劇中カット一覧

帰ってきたと言いながら、私自身は『相棒』はかなり観ているものの『あぶない刑事』に関しては今回の劇場版で初めて鑑賞した。そして過去作の予習もしていない新参者である。

今回はそんな『相棒』ファンかつ『あぶない刑事』新参者の視点から両作品の違いや魅力を伝えたいと思う。

まず結論から言うと、心底面白かった。

銃撃やアクションがメインかと想像していたが、タカとユージの会話劇が最高だった。ダンディでセクシーでオシャレで粋。世の男が憧れる全ての要素を備えた2人の言葉選びは流石の一言である。

また演じる舘ひろしと柴田恭兵も危険な場面でも軽口を叩き、積み重ねた熟年の間、表情、動き、オーラの賜物なのか、老いを気にするセリフが端々にあったものの、観る者に年齢をまったく感じさせない。この2人が主演を務めているからこそ『あぶない刑事』はここまで愛される作品になったのだと理解した。

タカ、ユージそれぞれの事件との因縁、解決に向ける思いが十全に描き込まれた物語の構成が素晴らしい。

とはいえ、最大の見せ場はやはりアクションと銃撃戦だ。

年齢は感じさせないとは言え、タカとユージは初期設定を加味すると60代後半で演者は70代を越えている。

しかしその中でもアクションでは現役警官よりも優れた銃の技術を見せつけたり、腕時計をメリケンサック代わりにして腕力不足を補うなど、実践経験に裏打ちされた老獪な手段で困難を乗り越えていく。

クライマックスには、タカがハーレーに乗りながら手離し走行でショットガンを撃つという最高の見せ場もある。

また、タカ&ユージだけでなく透(仲村トオル)や薫(浅野温子)、瞳(長谷部香苗)など過去作から登場していた面々も魅力的であった。

特にタカ&ユージの後輩である透は警察官としての矜持を見せたり、薫はコメディパートを全て引き受けて劇場の笑いを取ったりと活躍をあげるとキリがない。

更に要所で映し出される過去作の映像を観るにつけ、新参者の自分ですら感慨深い気持ちになった。

これが長年追っていたファンであれば感動はひとしおであろう。長年のファンは当然だが自身のような新参者にも胸を張ってお勧めできる作品であった。

『相棒』との比較を交えつつ、“あぶデカ”の特別な魅力を紐解いていこうと思う。

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

2つの作品の最大の違いは派手な銃撃戦やアクションの有無だ。『あぶない刑事』は撃って撃って撃ちまくる。タカもユージも撃ちまくる。拳銃のみならずショットガンも撃つ。

2人とも悪に対しては情け容赦なく弾丸を浴びせ、そこに容赦の二文字はない。

対して『相棒』はアクションこそあるが派手な銃撃戦は殆ど無い。

これは主人公である杉下右京が”拳銃は人を殺す野蛮な武器”と嫌悪しているからである。

射撃訓練もボイコット。スタンガンのように人を麻痺させるだけの安全な銃の作成を職人へ依頼するという描写もある。

派手に銃火器をぶっ放す『あぶない刑事』と人命を大事にする『相棒』。方向性は違うが、言うまでもなくどちらも魅力的である。

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

タカはダンディ、ユージはセクシー。これが『あぶない刑事』の主人公2人のコンセプトだ。

女性の気持ちは分からないと言いながらも相手を気遣い、軽妙洒脱に立ち振いつつも締めるべき所は締める。モテる人間とはこうである…という説得力が半端じゃない。

何より他者に対してストレートに自分の感情を伝える姿が素敵だ。

一方、『相棒』の杉下右京は慇懃無礼な変人だ。

恋愛には疎く”女心分からないブラザーズ”という異名まで付いた事すらある。

また不器用なので”相棒”が仲介に入らないと周囲から考えを理解してもらえない事も多々あり、感情を出すのは犯人への怒りくらいである。

歴代相棒についても亀山(寺脇康文)は熱血、カイト(成宮寛貴)は若輩となっており色気のある二枚目半の役回りをしていたのは神戸(及川光博)と冠城(反町隆史)しかいない。

とはいえ、2組とも組織の事情はお構いなしで好きな事を捜査して、自由気ままにやっているという点で、対極の作風でありながら似ている部分があるのも事実だ。

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

『あぶない刑事』と『相棒』は2人1組のバディモノではあるが、関係性は随分異なる。

『あぶない刑事』はタカとユージが”対等”だ。役職も同じ巡査長(刑事時代)。年齢も同じ。何より互いに軽口を叩くなど徹底して対等なのである。

そんな対等な関係が本作で際立ったのは、ヒロインである彩夏について、タカとユージどちらの娘であるか二人で話す場面だ。

対等に自分の意見を伝え、それを尊重しながら笑い合うのはオシャレかつ粋である。一方『相棒』は右京と歴代相棒には明確にヒエラルキーが存在する。

役職は右京が警部で歴代”相棒”は基本的には巡査部長。年齢も最低で10歳以上差がある。”相棒”側が軽口を叩いても、右京はクールかつ皮肉で返すケースがほとんど。

また『相棒』は重い物語になるほど、右京と”相棒”の意見が割れることがある。両者のコンビネーションが上手くいかない。そんな事態が事件の深刻さを際立たせる。

しかし『あぶない刑事』のタカ&ユージも、『相棒』における右京と歴代相棒にも、等しく共通しているのは、燃える正義の心である。この共通部分こそが全く違う作品でありながら長年視聴者に愛され、長寿シリーズになった理由ではないだろうか。

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

©2024「帰ってきたあぶない刑事」製作委員会

また物語の構成という点でも、『相棒』と『あぶない刑事』は大きく異なる。

『あぶない刑事』の主軸は、あくまで”タカ&ユージ”だ。つまり、様々なアクションや掛け合いを通してタカ&ユージをどこまでカッコよく描けるかが命題であり、極端な言い方をすると、2人を輝かせるために物語が存在しているように見える。

言ってしまえば、ゲスト俳優の登場などあらゆる要素が2人のカッコ良さを際立たせるための丁寧な前振りなのだ。

一方の『相棒』はあくまで”事件”を描くことがメインとなる。

『相棒』では、ドラマでも劇場版でも基本的にゲストと事件が中心で物語が進み、特命係はそれを魅力的に引き立てる存在に過ぎない。

物語によってはレギュラー陣だけでなく特命係があまり活躍しない回すら存在する。逆に言えば特命係が活躍するだけでは味気無いので脚本も練りに練られている。

個人的には、タカ&ユージを主軸として展開していく『あぶない刑事』、シナリオを主軸として進めていく『相棒』。どちらも大好きだ。

刑事ドラマと一口で言っても『あぶない刑事』には『あぶない刑事』の魅力があり『相棒』には『相棒』の魅力がある。

今回初めて『あぶない刑事』を鑑賞したが”横浜で最も拳銃を撃った刑事”のタカ、”横浜を最も走った刑事”ユージの魅力にすっかりやられてしまった。

透を演じた仲村トオルは『あぶなくない探偵』こと”あぶ探”なるスピンオフを切望しているが、是非とも観てみたい。『相棒』だけでなく『あぶない刑事』も過去作を予習し万全の状態で待機したいと思う。

(文・Naoki)

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