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儒烏風亭らでんの落語がたり!①『転失気』/聞かぬは一生の恥……!?「知ったかぶり」の噺

  • 2024.5.31
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「ねえねえ『カラ』って知ってる?」そう聞かれたのは私が小学何年生のときだったでしょうか。 「あ、うん、もちろん知ってる。」そして、ここで素直に「知らない」と答えることができていれば、その後の友達関係は良好なものとなったでしょう。お友達の言う「カラ」は「KARA」というK-POPのアイドルグループのことでした。当時の私はテレビをほとんど見ることがなかったため「KARA」のことは知りませんでした。しかし、ここで私は何を思ったかこう答えたのです。

「うん、知ってるよ。カラね。私よく歌うんだ。」

私は「カラ」=「カラオケ」のことだと思ったのです。 そして奇跡的に会話が噛み合ったのです。

KARAは歌って踊るグループですし、カラオケでもその場に行ったら歌います。 小学生という多感な時期には、知らないのに知っているふり、通称「知ったかぶり」をしてまでもお友達と仲良くなりたかった。 なんなら「カラ」を知っているんだぞ、というアピールをすることで「カラ」を話題の中心として好むグループに入れてほしかったのです。 その後、私が「KARA」を知らないということ、そしてカラオケにすら行ったことがないことが明らかとなり「お友達のコミュニティに参加しよう作戦」はとても後味の悪い形で幕を閉じました。当時の私の気持ちは空っぽでした。

さて、そんな私の恥を聞いていただいたところで落語のお話をしたいと思います。みなさまも知ったかぶりをしてしまった経験、あるのではないでしょうか? いつの世も知ったかぶりをする人、というのは老若男女問わずいたようです。 「ときに和尚、近頃『てんしき』はおありになりますかな?」お寺の和尚さんはお医者さんにこう聞かれます。 和尚さん曰く「あー、てんしき、てんしきは……まあ、なかったんじゃありませんかな」と。

和尚さん、実は「てんしき」を知らないのです。 お医者さんが帰った後、和尚さんは小僧の珍念にこう聞きます。

「珍念、てんしきを知っとるか?」 「知りません!教えてください!」 「何でもかんでも聞くな!自分で調べなさい。」

和尚さんの見事な逆ギレです。和尚さんも知らないのに。 珍念は仕方がないので「てんしき」を他の人に借りることにしました。 ある人は「てんしき」はこの間まで床の間に飾っていたが、別の人に譲ってしまったと言います。そして、古くなった「てんしき」はおつけのみ(味噌汁の具)にして食べたと言います。

「てんしき」の謎は深まるばかりです。 こうなったらお医者さんに聞くほかありません。 お医者さんに「てんしきって何でございますか?」と聞きます。お医者さん曰く 「てんしきというのはな、放屁だ。」へえ、放屁。 そうです、てんしきとはおならのことだったのです。

転がる失う気で「転失気」と書くようです。これを聞いた珍念は面白くてたまりません。みんな知ったかぶりをしていたのです。 珍念は和尚さんが「転失気」を知らないことを察し、和尚さんに一杯食わせようと「転失気とは『お盃』のことでございます!」と説明します。 さあ再び和尚さんのもとにお医者さんが来ます。和尚さんは自信満々にお医者さんに 「この寺に代々伝わる『転失気』をお見せいたしましょう。」 「代々伝わる!? ずいぶん伝わりましたね。」 「綿にくるんでおりまして」 「それ染みませんかな?」

「転失気」を盃と思っている和尚さん、「転失気」はおならのことだと理解しているお医者さん、それを陰でクスクス笑う珍念、三人のやりとりがとても面白い「転失気」という噺でした。

※落語のサゲ(=オチのこと)は落語家さんによって異なります。また、展開にも落語家さんによって違いがあり、いろんな方の落語を聞き比べてみるのも面白いです。

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