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しゃべるっきずむ!「見た目で判断しない社会」はまだ時間がかかる|前川裕奈さん×外川浩子さん(2)

  • 2024.5.31
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まだまだ蔓延る「ルッキズム」「見た目問題」

前川:少しずつ「ルッキズム」という言葉が知られて、「見た目を揶揄するのはよくない」という価値観が広がってはいますけど、やっぱり実生活では「まだまだだな〜」と思うことが多いんですよね。

外川:そうですよね。しかも、それを逐一言ってもいられないというか……。

前川:そうそう、飲み会などでも当たり前のようなアウト発言はありますけど、その場で会話を止めて「それ全然面白くないですよ」と言えることは少ないんですよね。せめて愛想笑いをしないにとどめることもあります。周りの人が一緒になって言ってくれるなら別ですが、ひとりで戦うのは結構難しい。

外川:私の場合は、マイフェイス・マイスタイルで一緒に活動しているチーフが援護射撃的な動きをしてくれるんですよね。私ですら空気を読んで発言を控えそうな時に、むしろその場の空気を止めちゃうくらい言ってくれるので助かっています。ひとりだったら、きっと心が折れちゃってたかな。

前川:そういう人が周りにいるだけで孤独感が違いますよね。私の活動を知っていてもルッキズム発言をする人もまだいますし、なかなか声が届かないもどかしさも感じます。

外川:しんどいよね。私も身近な人が「この人、顔に症状があるのに結婚できてよかったね」とか「子どもに同じ症状が出なくてよかったね」と言うのを聞くと、私が「見た目問題」に取り組んでるの知ってるよね?みたいな。完全に理解してもらうのは難しいんだろうなと思ってしまいます。

外川浩子
Photo by Mana Wilson

前川:今までの価値観では当たり前だっただろうから、根深いですよね。私もルッキズムについて講演した直後に見た目をいじられたことがあり、「え、90分間なにを聞いてたんだろう……」とガックリきました。その場で説教すべきか迷ったけれど、90分話を聞いて変わらない人はもう無理だろうと距離を置くことにしました。

外川:容姿いじりを親しみの表現だと思ってるんですよね。「俺たちの仲だから」みたいな。

前川:症状がある人がいじられることもあるんですか?

外川:ありますよ。脱毛症の人に「ハゲ」とか、あえて言ってくる人もいるんですよ。

前川:マジか。

外川:今、私たちの活動は10〜20代向けの情報発信に力を入れています。上の世代の人も聞いてくれたら嬉しいけれど、正直もう変わらないとも思ってて。相当なきっかけや理由がないと感覚を変えるのは難しいんですよね……。

前川:この対談を読んで、いろんな人に気づいてもらえるといいな。

なぜ履歴書の写真を、なくせないのか。

外川:症状がある人をジロジロ見たり、いじったりするのは本当にあってはならないこと。同時に、私たちは社会の仕組みについても声をあげたいんですよね。症状があるせいで就職できないとか、そういうのはおかしいだろうって。

前川:見た目への感想を持ってしまうことはしょうがないとして、就職活動などの判断基準にするのはナンセンスですよね。女子アナやCAなどは「見た目がよくないとなれない職業」と言われたりしますけど、容姿以外の能力で採用される部分もあるわけで。症状のある人が同じ能力を持った上でやりたいのであれば、同じ土壌に立てるべきですよね。

外川:まったくその通り。「履歴書の写真をなくそう」と呼びかけても全然変わらない社会には本当にイライラしますけどね。

前川:もうずっとありますね、履歴書の写真。

外川:「なんで必要なんですか」と聞いても、誰もうまく答えられないんですよ。「そういうものだから」だけで、ずっと続いてきちゃっただけなんです。

前川:「変えるのは大変だからいいや」って。

外川:びっくりしたのが、ある企業の方に「Googleみたいな会社が声を上げてくれれば、世の中は変わると思います」と真顔で言われたこと。そこは「まずは自分の会社から変えます」と言ってほしかった。

前川:恥ずかしい……。

外川:企業のイメージ写真も、今ようやく女性や車椅子、海外ルーツの人が入ってきましたよね。私はそこに、見た目の症状がある人を入れてほしい、と言い続けているんですけど、なかなか実現は難しいです。「ビジネスと人権」「多様性」「SDGs」と言っているなら、ひとりでもいいから「見た目問題」の当事者を入れてほしい。

前川:実情が伴ってないから、できないんですかね。

外川:まずは形だけでも入れたら、そこから社会は変わっていくと思うんですけどね。その点、kelluna.はいろいろな体型のモデルさんを起用していて、すごいですよね。

前川:気づいてくれて、ありがとうございます!ブランド立ち上げ当初から、そこはずっとこだわっています。従来のモデルのなかにプラスサイズのモデルさんを混ぜるだけ、というのも少し違うなと思っていて。身長差、髪質の違い、肌の色の違い、際立って細かったり太いわけでもない、そういうリアルな部分を表現することを大切にしています。なのでパッと見はわかりづらかったりするので、気づいてもらえて嬉しいです。

Kelluna
写真提供:kelluna.

変化には時間が必要なんだと思う

前川:採用の話に戻るんですけど、「見た目だけで判断するのはよくないけれど、人前に出る職業なら美人がいいに決まってるだろう」みたいな声もあると思うんですよ。最近だと、下着の有名ブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」がモデル(エンジェル)の体型を多様化するなかで、「以前のエンジェルのほうがよかった」と言っている人たちもいます。

外川:そういう声は、どんな変化にもきっとあるんですよね。例えば、日本の女性が選挙権を持った時、「女性に政治なんかできるはずない」って声が、女性たち自身も含めて圧倒的多数でした。でも、普通選挙が実施されて何年も経った今、「女性に政治はできない」なんて言ったらさすがに批判されますよね。だから、変化は時間の問題でもあるのかなと思います。

前川:今までは「嫌だ、できない」と思う人が一定数いるからやらなかったわけで、実行に批判の声が上がるのは、確かにナチュラルなことなのかもしれないですね。

外川:今は、顔に症状がある人が選ばれにくい職業に、当事者たちが出ていくことで風穴が開いていくんだと思います。「この職業って、昔は顔が整ってないとダメとか言われてたけど、今の時代なら問題になっちゃうよね」と話せる時代が後からやってくるかなって。今はまだ反発する声もいっぱいあるけど、時間の問題かな。あとは、それをどうしたらなるべく短くできるのか、だけ。

前川:そうですね。過渡期に戦うのはすごく疲れることだから、私もできるだけ時間を短縮したいです。

前川裕奈
Photo by Mana Wilson

外川:私が「見た目問題」に関わり始めて20年ぐらい経って、社会が少しずつ変わってきたことは感じています。20年前は本当にごく一部の当事者しか声を上げていなかったけれど、今はかなり増えました。

前川:限られた人が大きな声を上げていくよりも、多くの人がある程度の声を上げる方が、変化が起きやすいですよね。ルッキズムは、まだ一緒に声をあげてくれる人が少ないと感じているので一体どうしたらいいのかなと。

外川:私が「見た目問題」の大きな起爆剤になったなと思ったのは、やっぱりSNSなんです。昔は活動家しか表に出てこれなかったけど、今はみんながTikTokやInstagramで発信できる。学生や会社員の方々が、自分の症状のことを言うようになってガッと広がった気がします。

前川:たしかに、SNSを通していろいろな視点を見られる時代になりましたね。

外川:「実はここが困ってるんだよね」とか「普段はニコニコしてるけど、実はこう言われた時すごくショックだった」とか、そういう日常レベルの話が散りばめられている。20年前には全く想像ができなかった時代がやってきた!と思いますね。

当事者ではない私が語る意味

前川:外川さんご自身は、「見た目問題」の当事者ではないですよね。活動のきっかけは、何だったんですか?

外川:活動を始める前に付き合っていた人が、顔に大きな火傷痕があったんです。一緒に過ごすようになって、周りからジロジロ見られることがストレスになると初めて知って。本人は飄々として「キムタクが歩いてたら見ちゃうのと同じだよ」なんて冗談を言ってたんですけど、私はみんながこのストレスをどう解消しているのか知りたいという気持ちで「見た目問題」に関わり始めました。

前川:当事者の方と関わったことで、見える世界が変わったんですね。

外川:最初は、当事者の方々の経験を聞いていただけだったんですけど、だんだんと「この人たち自身ではなく、周りの社会の問題だ」と気づいていきました。その頃には彼と別れることになったんですけど、その時に「あなたと会えて、自分は生きることがちょっと楽になった」と言われたんですよ。「生きることが楽になる」ってなんだろう、と私は考え込んでしまって……。あの時に「好きだったよ」「楽しかったよ」と言われただけだったら、今この活動をしていないかもしれません。

外川浩子
Photo by Mana Wilson

前川:外川さんのどんなところで、彼は楽になったんだろう。

外川:火傷を負っていた口元を、私はいつも「チャーミングだ、そこが好きだ」と言っていたんですよね。そうしたら、いつもマスクをしていた彼が、私と付き合うようになってからほとんどマスクをしなくなったんです。

前川:言葉がエネルギーになったんですね。先ほどの「見た目に言及しないほうがいい」というのも、やっぱり関係性によるんだなと今の話を聞きながら思いました。

外川:そうかもしれませんね。恋人に見た目のことを言われてつらくなる人もいるでしょうし、それは千差万別かもしれません。ただ、私の場合はそういうことがあって、より「見た目問題」に取り組んでいきたいと思うようになりました。彼に一応相談したら「やめたほうがいい」と止められたんですが。

前川:あ、そうなんですか?!

外川:そう、当事者でもその家族でもない私には反発や批判がくるだろう、と。当事者からは「お前にはわからないよ」と言われるかもしれないし、社会に向けて何かを言ったところで「あなたが言ってもね」と思われてしまうかもしれないからって。

前川:実際にそういう声はあったんですか?

外川:それが始めてみたら、意外となかったんですね。これまで当事者だけで発信する難しさもあったと思うし、この問題をもっと広げていくために、当事者じゃない人が入る可能性をきっと感じてたんだと思います。

前川:なるほど。

外川:私は当事者の人に向けて話をすることも多いんですけど、彼らに対しては「症状がない人たちは『失礼なことを言って傷つけたくない』とか『ジロジロ見たら申し訳ない』という気持ちがあるのかもしれない」と話します。そういうことが言えるのも、たぶん私は当事者ではない立ち位置でずっと見てきたからこそなのかなと。

前川:お互いに見えている世界がわからないから、どう歩み寄っていいのかわからない状態ですもんね。

外川:そう。わからないから、せめて傷つけないために距離を置いてしまうんだよって、当事者の方々に言うんです。みんなを排除したいわけじゃなく、傷つけたくないんだと。だから、もし可能であれば、みんなの方からも「大丈夫だよ」と1歩踏み出してみてほしいと伝えます。本当は、彼らが努力する必要はないはずなんだけれど、みんなが勇気を持って1歩踏み出すことで関係性が変わるかもしれないよって。

根強い「自己責任」の圧力は、どこから……

前川:外川さんは「当事者じゃないからこそ」とお話ししてくれましたけど、私は結構「なんであなたがルッキズムを語るの?」と言われることが多いんですよね。過去の話をしても、いまだに「贅沢な悩みだ」「恵まれている立場なのに」と言われることがあります。

前川裕奈
Photo by Mana Wilson

外川:見た目でわかりやすい特徴があるわけではなくても、社会から求められる見えない鎖があるはずなんですけどね。

前川:そうですね。あと、「痩せ問題」などが難しいのは、“自分で選んでいる”ように見えるところ。本当は社会からの圧力で「痩せなきゃ」と思わされているはずなんですけど、それがわかりづらい。だから、「自分が痩せたくて痩せたんでしょ」とか、「自分がだらしないから太ったんでしょ」とか思われてしまうんです。

外川:たしかに。そこにある“自己責任”の圧が、めちゃくちゃ強いですよね。

前川:でも私、この連載を通して救いだと思っていることがあるんです。これまでお話ししたアルテイシアさんも笛美さんも、そして外川さんもみんな一貫して「自分のせいじゃなくて社会のせいなんだ」と言っていることなんですよね。やっぱりなかなかそこに気付けない人が多いから、やっぱり自分が見た目を揶揄されるのは自分のせいで、他の人が苦しんでいても自分のせいでしょ、と思ってしまうのかなって思います。

外川:その自己責任の圧はどこからくるか、というので私は言いたいことがあるんですけど……。

*次回、「自己責任」や「見た目問題」の根本はどこからくる?こちらから。

Profile

外川浩子さん

NPO法人マイフェイス・マイスタイル(MFMS)代表。 東京都墨田区生まれ。

20代の頃につきあった男性の顔に大きな火傷の痕があったことがきっかけで、見た目の問題に関心をもつようになる。一緒に街を歩いているときも、電車に乗っているときも、たくさんの人たちの視線を感じ、「人って、こんなに無遠慮に見てくるんだ!?」という驚きと、見られ続けるストレスにショックを受ける。

2006年、実弟の外川正行とマイフェイス・マイスタイルを設立。見た目に目立つ症状をもつ人たちがぶつかる困難を「見た目問題」と名づけ、交流会や講演などを通して問題解決をめざし、「人生は、見た目ではなく、人と人のつながりで決まる」と伝え続けている。

作家の水野敬也さんとともに『人は見た目!と言うけれど―私の顔で、自分らしく』(2020年、岩波ジュニア新書)。

前川裕奈さん

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にセルフラブをテーマとした、フィットネスウェアブランド「ルッキズムひとり語り」。

ウィルソン麻菜

「物の向こうにいる人」を伝えるライター。物の生まれた背景を伝えることが、使う人も作る人も幸せにすると信じて、作り手を中心に取材・執筆をおこなう。学生時代から国際協力に興味を持ち、サンフランシスコにて民俗学やセクシャルマイノリティについて学ぶなかで多様性について考えるようになる。現在は、アメリカ人の夫とともに2人の子どもを育てながら、「ルッキズム」「ジェンダー格差」を始めとした社会問題を次世代に残さないための発信にも取り組む。

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