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「枕草子」執筆場面が美しい…なぜ役者・ファーストサマーウイカは大化けした? NHK大河ドラマ『光る君へ』第21話レビュー

  • 2024.5.31
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『光る君へ』第15話より ©NHK

吉高由里子が主演を務める大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。平安時代中期を舞台に紫式部の生涯を描く。ききょうは定子を想い、かの有名な『枕草子』を執筆する。一方、まひろは旅立つ直前、道長との別れを果たす。今回は、第21話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想】
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『光る君へ』第21話より ©NHK
『光る君へ』第21話より ©NHK

一条天皇(塩野瑛久)の身内である道長(柄本佑)と詮子(吉田羊)を呪詛し、謀反を起こしたとして遠流に処された伊周(三浦翔平)。

【写真】ファーストサマーウイカの美しい姿が堪能できる劇中カット。…NHK大河ドラマ『光る君へ』劇中カット一覧

しかし、一向に処分を受け入れない伊周を屋敷に迎えに上がった検非違使たちの前で、定子(高畑充希)は自ら髪をおろした。出家すれば、もう内裏には上がれない。報告を受けた一条天皇は大きなショックを受け、逃亡中の伊周の捕獲に躍起になる。

後日、伊周は出家姿で検非違使別棟である実資(秋山竜次)の前に現れるが、それは処分を逃れるための嘘だった。すぐに捕獲され、息子の罪を一緒に背負う覚悟を決めた母・貴子(板谷由夏)とともに任地である太宰府へ向かう伊周。だが、一条天皇はこれを許さず、二人を引き離した。

一方、越前守に任命された為時(岸谷五朗)についていくことが決まったまひろ(吉高由里子)を、ききょう(ファーストサマーウイカ)が訪ねてくる。定子が一条天皇の子を懐妊中であることをこっそり打ち明けるききょう。それなのにまともに食事もとらない定子を心配するききょうに、まひろは中宮のために何かを書いてはどうかとアドバイスする。

それを受け、ききょうは四季折々の自然美や風物を織り交ぜた随筆を書き始めた。一方、まひろも越前に旅立つ前に道長に文を送る。文を受け取った道長は、まひろと逢瀬を重ねた廃邸へ。そこで二人は積年の思いを伝え合い、別れる。

『光る君へ』第15話より ©NHK
『光る君へ』第15話より ©NHK

「たった一人の悲しき中宮のために『枕草子』は書き始められた」

「春はあけぼの」から始まる有名な清少納言の随筆『枕草子』の瞬間が描かれた第21話。起きる気力もなく床に伏せる定子に、桜の花びらや蛍の光、赤く染まったもみじの葉が降り注ぐ。ききょうが見事な筆致で記した四季の移ろいとともに、定子の心が癒されていく過程が夢うつつの幻想的な演出で映し出された。

とりわけ目を引くのは、ききょうを演じるファーストサマーウイカによる手元の演技。ゆっくりと墨を磨り、筆を濡らしたききょうは十二単の裾を捌きつつ、紙に文字をのせる。その一連の動作が実に雅で、思わず見入ってしまった。

高畑充希が『枕草子』を小鳥が歌うように音読する様も美しい。最後はぴんと空気が張り詰めた冬の早朝、起き上がってきた定子にききょうは頭を下げる。その無言のやりとりで芽生えた二人の確かな絆が胸に染み入る。

定子を一目見た瞬間から心を奪われたききょう。そこにある感情は、恋とも単なる憧れとも言えぬ複雑なものだ。ファーストサマーウイカはこれを“推し”に近い感情と語っている。自己愛の強いききょうが、全てを投げ打っても守りたいと願う定子。以前、まひろに語った「己のために生きることが、他の人の役にも立つような道」をききょうはようやく見つけたのだ。なるほど。今思えば、夢追う誰かを応援する“推し活”に近しい。

『光る君へ』第21話より ©NHK
『光る君へ』第21話より ©NHK

一方で、まひろと道長の関係性も以前とは変化を見せる。まひろが道長の妾になることを拒み、一度は関係を絶った二人。けれど、どちらも「誰一人として理不尽に命を奪われることのない世を作る」という約束を胸に歩んできた。

今回、まひろは道長の妾にならなかった後悔を語ったが、もしもその未来があったなら二人の間にはこれほどまでの絆は生まれなかったであろう。胸が引き裂かれるような別れを乗り越えたまひろと道長の互いへの思いは、もしかしたら恋愛感情を超えた人間愛に移行しつつあるのではないか。最後の口づけも艶っぽさはなく、恋愛で結びつく男女の関係との決別に見えた。ここから二人は魂で結びついた“ソウルメイト”になっていくのかもしれない。

ききょうと定子の関係もそうだが、こういう対象の二人にしか分からない関係性の機微を描くことに脚本家の大石静は長けている。ここで注目したいのが、大石が過去に宝塚の脚本を手がけている点だ。2015年に上演された『カリスタの海に抱かれて』はフランス革命前夜を描いたオリジナル作品で、どことなく池田理代子による漫画『ベルサイユのばら』を彷彿とさせる。

ところで、この『ベルばら』をはじめ70年代前後の少女漫画で描かれる人と人の関係性は必ずしも恋愛に終始しない豊かなものだった。これは単なる想像ではあるが、おそらく大石もそうした少女漫画で育ったのではないだろうか。大石脚本のドラマ『知らなくていいコト』(日本テレビ系)で吉高由里子と柄本佑が演じた二人も最終的に結ばれはしなかったが、その良質な切なさが後を引く。

話題作からの再共演も見どころの一つである『光る君へ』。第21話のラストには、『最愛』(TBS系)で吉高と共演した松下洸平が、宋の見習い医師・周明(ヂョウミン)役で初登場となった。一瞬だったが、装束をまとった松下の精悍な顔付きに早くも心を奪われる。公式サイトによると、周明は優しく穏やかだが謎めいたところがある人物で、まひろと親しくなっていくとのこと。『最愛』で多くの人を虜にした吉高と松下のケミストリーを早く摂取したいものだ。

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