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保護者が知らない「『経済的に豊かな家庭が多い』中学ほど部活動で教員が自腹を切っている」という意外な現状

  • 2024.5.30
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教職員の自腹に関する調査によると、授業に関する自腹は、その教職員の仕事観と関わりがあった。さらに、中学校での部活動に関わる自腹は小学校に比べて発生率が高く、勤務する中学校が「経済的に豊かな家庭が多い」かどうかに「あてはまる」と答える教員ほど、部活動に関わる自腹を切っていたという――。(第3回/全3回)

※本稿は、福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

野球をする子供たち
※写真はイメージです
自腹と仕事観

小学校教員における授業に関わる自腹の発生率は高い(466人中304人、65.2%)。では、どんな仕事観をもつ人が授業に関わる自腹をしているのか。

じつは「教育活動をより充実させたい」(※1)かどうかについて「あてはまらない」と回答した小学校正規教員の授業に関わる自腹の発生率は52.9%(70人中37人)にとどまるのに対し、「あてはまる」と回答した人の発生率は68.2%(292人中199人)にも上る(図表1)。

小学校正規教員:仕事観と授業に関わる自腹
福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)179ページより

「自分自身が成長したい」についても、「あてはまらない」と回答している人の発生率が50.0%(70人中35人)であるのに対し、「あてはまる」と回答した人は68.8%(292人中201人)になっている。つまり、小学校の正規教員の場合、授業に関わる自腹と教育活動に関わる研鑽・修養がつながっており、よりよい教育活動を子どもたちに提供するためであれば自腹も許容するという捉え方があるのではないだろうか。許容というより積極的に自腹を切っているともいえる。

また、「職場の人間関係を大事にしたい」かどうかについての回答をみてみると、362人中328人(90.6%)が「とてもあてはまる」ないし「少しあてはまる」と回答しており、ほとんどの人が職場での人間関係を大事にしたいと考えていた。

そこで、「とてもあてはまる」と「少しあてはまる」と回答した人の間にある違いに着目してみる。「少しあてはまる」と回答した人のうち自腹をしていた人は56.0%(166人中93人)だったのに対し、「とてもあてはまる」と回答した人の場合は73.5%(162人中119人)だった(※2)(図表2)。

小学校正規教員:職場の人間関係に対する考え方と授業に関わる自腹
福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)180ページより

職場の人間関係を大切にしたいと思っているのは多くの正規教員に共通しているが、その思いがより強い人ほど授業に関わる自腹をしているのだ。

※1 「とてもあてはまる」と「少しあてはまる」を「あてはまる」とし、「あまりあてはまらない」と「まったくあてはまらない」を「あてはまらない」として2値に変換した。今後特に断りがない場合は他の項目についても同様である。

※2 ちなみに、「あまりあてはまらない」と回答した人のうち自腹をしていたのは66.7%(27人中18人)、「まったくあてはまらない」と回答していた人のうち自腹をしていたのは85.7%(7人中6人)だった。

マネジメントの弱さが表れている

本来こうした思いは肯定的なものであるが、ここでは、職場の人間関係を大事にするためにこそ周囲に合わせて自腹をしたり、あるいは公費での予算執行を申し出ることができずに自腹をしたり、ということが起こっている可能性がある。

たとえば事務職員に対して公費での購入を要求すること自体が職場の人間関係を悪くすると捉えられている可能性があるが、もしそうならばこうした捉え方自体にマネジメント面の弱さが表れているともいえる。

本来なら、要求行為、それに対応する購入の決定や却下の行為のいずれもマネジメントの範囲内であって、人間関係とは無関係に考えられるべきだ。

授業に関わる自腹は、一つひとつの経緯をみてみると「時間がない」「手続きが煩雑」などがきっかけで行われているが、その背景には、教師としての使命感や向上心がある。他方で、職場での人間関係を重視する考え方が自腹行為を促している側面もある。

部活動に関わる自腹を切る中学校教員

調査前から想像がついていたことではあるが、中学校での部活動に関わる自腹は小学校に比べて発生率が高い。そもそも小学校での部活動はそれほど活発ではないことから、小学校正規教員では7.5%(362人中27人)であるところ、中学校正規教員では45.6%(362人中165人)と、中学校正規教員の自腹発生率は小学校正規教員の約6倍に及ぶ。

そこで、どんな中学校だと部活動に関わる正規教員の自腹が生じるのか、調査から明らかになったことを確認していこう。

まずは、「経済的に豊かな家庭が多い」に「あてはまる」と答える教員ほど、部活動に関わる自腹をしている。自身の学校が「経済的に豊かな家庭が多い」学校に「あてはまる」と回答した教員の56.7%(127人中72人)が部活動に関わる自腹をしているのに対し、「あてはまらない」と回答した教員の自腹発生率は39.6%(235人中93人)にとどまっている(図表3)。

中学校正規教員:子どもの家庭環境と部活に関わる自腹
福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)184ページより

部活動はそもそも部により、学校により、必要な物品や活動の日数・時間、校外での練習試合・大会・コンクールの頻度などが異なり、これに参加する子どもの保護者が負う経済的負担も同様に、部により、学校により大きく異なる(※3)。

団体競技・団体種目のある部であれば、すべての部員に経済的負担が増えるし、強豪ともなれば遠征や大会参加も頻回となり、週末ごとに遠方に行くこともある。こうした経済的負担に耐えられる家庭が多くなければ、その部は継続的に活動をすることすらままならないだろう。そのため、「経済的に豊かな家庭が多い」ということは部活動が活発になる土壌があるということである。

※3 別所孝真「中学校における部活動にかかる費用についての一考察」北海道大学大学院教育学研究院・教育福祉論研究グループ『教育福祉研究』23号、2019年(63-91頁)によれば、北海道のある中学校の2・3年生の年間の部活動費用は平均3万8010円、同じ中学校の1年生の4~9月の部活動費用は平均3万3660円だった。2・3年生のほうには、年額25万円と39万円の高額支出者を含んでいる。

道具や衣類、交通費、審判資格の費用…

そうした中学校においては、顧問をする教員の指導負担が高まり、公費負担や保護者負担されない部分が教職員の自腹によって賄われるようになる。それが、顧問自身が使用する道具や衣類、遠征や大会出場のための交通費、審判資格を得るための費用などで、経済的に豊かな家庭が多く部活動が盛んであれば、教員の部活動に関わる自腹が増えるのは明らかだ(※4)。保護者に求められると活動を縮小しづらかったり、より活動を活発化する教員の評価が高まったりする状況も想像でき、より自腹が増えていく可能性もありそうだ。

また、勤務校の「教職員の団結力が高い」に「あてはまらない」と回答した教員ほど、部活動に関わる自腹をしている。自身の学校が「教職員の団結力が高い」学校に「あてはまる」と回答した教員の41.4%(232人中96人)が部活動に関わる自腹をしているのに対し、「あてはまらない」と回答した教員の自腹発生率は53.1%(130人中69人)となっている(図表4)。

中学校正規教員:教職員の団結力と部活動に関わる自腹
福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)185ページより

これはどういうことか。

教職員が団結せず個人主義的に行動している学校ほど、各部の活動の熱心さが異なり、顧問をする教員が時間的負担や経済的負担をどれほどにかけているかに互いに無頓着になっているのかもしれない。あるいは教育課程や学校行事など教職員全体で取り組む物事についての連携が不十分な状態においては、学校財務そのものが成り立っておらず、その結果、各部の活動において教職員の自腹が発生しやすいともいえるだろう。

いずれにせよ、部活動や自腹が「その人個人のこと」という認識が強ければ、どれだけ熱心に部活動に取り組んでも、自腹をしていても、それを制止する、なだめる力は弱くなる。こうした認識が背景にあると思われる。逆に、自腹をしてでも部活動を活性化させるべきと思っている人からすれば、それについてこない他の教職員は「団結力」が弱いとも捉えられるかもしれない。

※4 青柳健隆ほか「運動部活動顧問の時間的・精神的・経済的負担の定量化」日本スポーツ産業学会『スポーツ産業学研究』27(3)号、2017年(299-309頁)によれば、中学校・高等学校の運動部活動の顧問がしている経済的負担は、飲食費・交際費、交通費、ウエア・シューズ等の衣類、宿泊費、スポーツ用具、教本・DVD等の教材費などを全部まとめて、年間平均で13万6491円に及ぶという。

教員の部活動の自腹を保護者が支持している可能性も

さらには、「保護者が喜ぶことをしたい」という考え方をもっている教員ほど部活動に関わる自腹を行っている傾向がある。「保護者が喜ぶことをしたい」と思っている教員の49.0%(259人中127人)が部活動に関わる自腹がある一方で、思っていない教員の場合は自腹があったのは36.9%(103人中38人)だった(図表5)。

中学校正規教員:保護者に対する意識と部活動に関わる自腹
福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)185ページより

部活動に関わる自腹が、教員本人が使う衣類や道具だけではなく、練習試合や大会などに伴う交通費や宿泊費、子どもたちにふるまう飲食費なども含んでいるという事実から考えると、自腹をしてでも部の活動を実施し、ときには子どもたちにも還元することで、喜ぶ保護者がいる、という背景もありそうだ(※5)。

福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)
福嶋尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』(東洋館出版社)

ここでは、教員が自主的に、もしくは教員が受動的に自腹を切る状況を、部活動に関しては保護者が一定の支持をしている可能性が浮上してくる。

先の「経済的に豊かな家庭が多い」に「あてはまる」と回答する教員ほど部活動に関する自腹をしている、ということと合わせると、経済的に豊かな家庭の多い地域の中学校では、活発な部活動をしてくれる部活動の顧問が喜ばれ、そうしたことを肯定的に捉える教員が、部活動に関わる自腹をしているのだろう。やはり、この2点は部活動に関わる自腹を促進しているといえるのではないか。

※5 内田良「統計から見る部活動指導者の意識」東海体育学会『スポーツ健康科学研究』44号、2022年(1-9頁)は、運動部活動の顧問教員への意識調査と実際の部活動の時間とを調査した上で、「休日において、保護者からの期待と立会時間の長さとの関係性が顕著である」ことを明らかにしている。その上で、「管理職や同僚といった身近な学校内の関係者ではなく、学校外の保護者からの期待を強く認識しながら長時間にわたる練習がくり広げられている」としているが、このことは、保護者の支持を背景に休日を長時間部活動に費やす傾向があるということである。その結果、部活動に費やす経済的負担、すなわち自腹も拡大するという関係がうかがえる。

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