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「俺って発達障害なの?」診断を受けた子どもは矯正すべきなのか?【発達障害と診断された息子の中学高校生活 Vol.1】

  • 2024.5.30
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次男の湧太(仮名)は、小学校低学年の頃、特別支援学級に通っていました。大学生となった今は、支援は必要なく暮らせています。今回の連載では、そんな彼の中学・高校生活を伴走しながら考えたことを綴ります。

■「俺って、発達障害なの?」

つい先日、「お母さん、俺って、発達障害なの?」と、息子の湧太から聞かれました。「何で?」と聞いたら、「発達障害の友だちに、『お前も、絶対に発達障害だろ!』って、言われた~!」と屈託なく話す彼を見て、「これで、良かったんだ」と思いました。

私が息子を育てるにあたり、多大な影響を受けたのが、NPO法人えじそんくらぶ代表の高山恵子先生(※1)です。

日本の発達障害分野を牽引されてきた高山先生は、よくこんなふうにおっしゃいます。

「発達障害の子」ではなく、「湧太くん with発達障害」と表現しよう

「発達障害の特性」からくる、困った状態はたしかにあります。けれども「湧太くん with発達障害」という表現には、「湧太という個性を大切にして慈しもう」そんな意思を感じます。

■「普通」のやり方で子どもを育てられなかったら?

高山先生はご自身がADHD(注意欠如・多動症)と診断されていて、小さい頃からたくさんの失敗を繰り返してきたそうです。「失敗のたびに、祖母が私にかけてくれた言葉がある」と、高山先生は言います。それは…。

失敗は成功のもと、次にうまくいく方法を考えればいい

この言葉は、私が育児をする上での座右の銘にもなりました。

「頑張れ」といった精神論ではなく、「今、ここにいる湧太」と楽しく暮らす方法を具体的に考えること。一般的なやり方でうまくいかないのなら、うまくいく工夫(手立て)を考えればいい…。ただ、それだけの話なんだと思ったら、とても気が軽くなりました。

そして、困ったことが起きた時は、こんな「問い」を自分に返す習慣をつけました。

湧太が暮らしやすくなるために、私ができることは何だろう?

■子どもの特性を矯正せずに親ができる対策

結論から言えば、私ができることは環境調整(※2)です。環境調整とは、子どもの特性を矯正するのではなく、特性があっても大丈夫なように、子どもの周辺環境を整えるイメージです。

「環境調整」という概念を最初に知った時、コペルニクス的な発想の転換だと感じました。環境調整については、この記事の最後に少し詳しい説明を入れましたので、良かったらお目通しください。

■「モノをなくさない」が前提になった社会に親ができること

環境調整を、具体例に考えてみましょう。たとえば、湧太は、物の管理が壊滅的にできませんでした。ADHD傾向がある子に対して、「なくしものを『しない』支援」にトライしたことがある人なら、大変さはイメージしていただけると思います。

今の日本社会は「なくしものはしない」ことが前提になっています。でも、湧太は爆発的になくしものする…。「なくしものはしない」という(社会の)前提に湧太を矯正するのではなく、湧太がなくしものをしても大丈夫なように、環境の方を整えます。

私が実践した工夫(手立て)を3つほどご紹介しましょう。

■私が実践した環境調整3例

1)傘や手袋は消耗品と考え、ビニール傘や100均手袋を大量に購入しておく

2)鍵は専用のホルダーで管理をし、本人には持たせない

3)お弁当箱は、「タッパーとお箸箱」のセットを何組も作る

■「できない」ことを、解像度高くイメージする

湧太は、数限りない紛失劇を繰り返しました。上に書いたもの以外でも、学ラン(2着)、歯科矯正の器具、履いて出かけた靴、部活動の共有品(ボールが入った袋)などなど…。「そんなものがなくなるの?」と思うものも、たくさんありました。

いちいち「なんでなくすの!」と怒っていたら身が持ちません。「今回はそれなんだ!」と、ちょっと面白がる気持ちで対応しているうちに、私のキャパは広くなりました。

「特性がある子との生活」というのは、「なんで(誰もが普通にできることが)できないの?」といった感じで、「なんで?」の連続になります。

私は、自分に「発達障害の特性」があったので、「何でできないの?」と言われる側の人間でした。言い換えれば、できないことをイメージしやすかったのです。

ご自身が定型発達の親御さんの場合、「何でできないかがわからない。そこを、うまくイメージできない」という話はよく聞きます。そうなると、「頑張りや努力が足りないからだ」といった精神論に行きがちです。

そうではなく、まずは「できない」ということを、保護者が解像度高くイメージする。そして工夫(手立て)を具体的に考える。

工夫(手立て)のひとつ、ひとつは小さなことですが、それを積み重ねていくことが、「今、ここにいる湧太」と楽しく暮らすことと思っています。

■発達障害の診断を受けた息子の今!

母の支援、息子は気がついていたのでしょうか? 本人に聞いてみました!

湧太:母がなくしものを叱らずに対処してくれていたのは、印象に残っています。そのお蔭で、「なくしものをしてしまったらどうしよう」といった気持ちに引きづられることなく、自由に生活することができました。

今回は、家庭で今すぐできる支援についてお伝えしました。次回は、社会(学校・友だち)とのお付き合いについてお話します。

【発達障害という「診断」について】

私は、認知機能がかなり凸凹で、ASD(自閉スペクトラム症)の傾向があります。

発達障害と「診断」を受けるには、「発達障害の特性」とされる診断項目を、基準より多く満たしている必要があります。つまり「発達障害の特性」をひとつ、ふたつ、持っているだけでは、発達障害という「診断」はつかないのです。

私の場合は、「発達障害の特性」をいくつか持っていますが、仕事上や家庭で大きく困ってはいないので、「発達障害の傾向がある」という状態です。

※1.【高山恵子(たかやまけいこ)さん】

NPO法人えじそんくらぶ代表。ハーティック研究所 所長。

臨床心理士。薬剤師。

専門はAD/HD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心にストレスマネジメント講座などにも力を入れている。

※2.【環境調整とは】

発達障害への支援を考える時、「世界基準では『障害』をどう捉えられているのか」を知っておくと良いでしょう。

WHO(世界保健機関)は、障害を「個人(医学)モデル」ではなく、「社会モデル」で捉えています。この場合の「障害」とは、「社会への参加を制限されること」です。

たとえば、足が不自由だった場合で考えてみます。「個人(医学)モデル」は、足が不自由であることを個人的な問題として捉えています。足の機能訓練をして歩けるようにしたり、介護者を募ったりといったアプローチは、いわば従来の障害の捉え方です。

一方で、「社会モデル」の場合は、必要とする人には公費で車椅子を支給し、社会全体をバリアフリー仕様にするなど、社会の環境調整をすれば、その人は社会参加を制限されませんから、「障害」とは捉えません。

私がやっている「息子の周辺環境の整備」は、いわば「社会の環境調整」です。発達障害の特性があることは、国籍や性別を本人が選べないことと似ています。そうであるなら、発達障害の特性に付随する「大変さ」を本人だけが背負うのではなく、社会の環境を整えるサポートを一緒にできると良いなと思っています。

本記事はあくまでも筆者の体験談であり、症状を説明したり治療を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は専門機関にご相談ください。

■楢戸ひかるの著書

『ギフテッド応援ブック −生きづらさを「らしさ」に変える本−』(小学館刊)

定価1,760円(税込)/192ページ

著:楢戸ひかる

監修:片桐正敏(北海道教育大学旭川校教授)

取材協力:小泉雅彦/日高茂暢/ギフテッド応援隊

マンガ:黒川清作

ギフテッドの生きづらさをリアルに描いたストーリーマンガ80ページと、約100ページの解説で構成。 当事者たちの「生きづらさ」を「らしさ」に変えるために必要なサポートのあり方についても提案した書籍。

(楢戸ひかる)

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