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みんな同じ孤独の中で戦ってる。誕生日に独り、深夜の公園で

  • 2024.5.30
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深夜布団の中でSNSを開くと、突然風船が飛んだ。
すぐにその理由に気づき、自分の誕生日を忘れていたことに驚いた。

社会人になってもう三年が経とうとしている。日々の業務に忙殺され、寝るためだけに家に帰る日々で季節が変わったことにも気づかないような有様だった。
「そっか、私誕生日なんだ」
声に出してみるが、もちろん返事はない。
この部屋には私ひとりだ。仕事に時間を奪われ友人との関係もないがしろにした私に、誕生日を祝ってくれる相手などいるわけもなかった。学生時代毎日のように遊んでいた友人でさえ、今はSNSで近況を知るくらいの関係になってしまった。

◎ ◎

SNSで友人を見るたび、仕事もプライベートも充実していてどうやったらあんな風に立ち回れるんだと羨ましく思っていた。
それと同時に、不器用で仕事ひとつ取っても十人並みの自分が嫌になった。
昔からそうだ、得意なことなんて何もない。私のSNSは仕事の愚痴にまみれている。疲れた、あれが嫌だ、あの人が苦手だ、つらい、そんなことばかり。見返すとかえって疲れるので、自分のSNSはあまり見ないのだ。

しばらく風船の飛ぶスマホの画面を眺めた後、私はおもむろにサンダルを突っかけて外へ出た。草木も眠る時間、しんと冷たい空気が頬に触れる。開いている店があるわけもないので、近くのコンビニに入った。
何か誕生日らしいもの……と思ったけれど、商品棚はガラガラで何もない。仕方なくアイスをひとつ買って、近くの公園のベンチに座った。こんな時間に外に出たのはいつぶりだろう。怖い目に遭いやしないかしらというスリルも相まって、ひとりで食べるアイスがやけに美味しかった。

震えながらアイスを食べ進め、空いた手でスマホを見た。何件か新しい通知が届いている。
どうやら例のSNSで風船が飛び、それに気づいたフォロワーたちがお祝いのメッセージをくれたらしかった。そのうちの一つを開いてみると、大学時代の友人からだった。

「久しぶり、お誕生日おめでとう!」

その先には私の身体を労わる言葉と、近々お互いの予定を合わせてご飯に行こうと書いてあった。なんてことないありきたりなメッセージ。それでも体がじんわり温かくなるのを感じた。

◎ ◎

独りぼっちの誕生日だと決めつけていたけど、案外そうでもないのかもしれない。
私のことを気にかけてくれる人がいる、それだけで嬉しかった。
大学まではみんな足並みをそろえて横並びだったのに、社会に出たとたん急に放り出されたように感じるのはなぜだろう。自分以外のみんなが上手くやっているように見えて、焦って、また失敗して……何度これを繰り返すんだろう。

でもきっと違うのだ。食べ終わったアイスの容器を持って立ち上がった。
みんな同じ孤独の中で、それぞれの戦いをしているはずだ。SNSではそれを見せないだけ。これが全てじゃない。

ふと思い立ち、上を向いて夜空の写真を撮った。電灯の光が入って星がうまく写らない。
決して「上手な」写真ではないが、SNSに載せてみようと思った。

明日からは早速仕事を片付けにかかって、近いうちに友人と会える時間を作ろう。
そうしたら今の気持ちや悩みについて、SNSではなく直接話してみようと思った。

案外いい誕生日だ。

■吉岡文乃のプロフィール
文字で表現することが好きな20代

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