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100万円の振袖、怒鳴る父親。前撮りスタジオで覗いた家庭の多様性

  • 2024.5.29
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大学在学中、振袖の前撮りをするスタジオでアルバム販売のアルバイトをしていた。

美容師さんが着付けて、ヘアメイクして、カメラマンさんが撮影する。私たち販売員の仕事はその後からが本番で、撮った写真をお客さんと一緒に選びながら、どのアルバムを買うかを誘導する。
お嬢さん方とその家族にとって、一生に一度のイベント。しかもお金が関係してくる場面となると、家族ごとの違いがよく見えてくる。考え方、振る舞い方……約2年間働いてきたなかで、さまざまな家族を見てきた。

前撮りに来ている時点で、娘の振袖姿を写真に残そうという気持ちがある家族のみに絞られているわけだが(稀にお嬢さん自身が全額負担している場合もあるが)、そのなかでも本当に多種多様な形がある。

◎ ◎

当たり前だが、振袖の金額だけ見ても様々だ。数万円でレンタルしている場合もあれば、100万円超えの品を購入している場合もある。
後者の家族は、大抵祖父母も連れて大人数でやって来て、高額なアルバムを選ぶ。さほど悩む様子もなく、当たり前のように。彼らの振る舞いには余裕がある。娘の晴れ姿を心から喜び、褒め、楽しむ。それは娘側も同様で、家族の反応を素直に受け止める。

100万円には達していなかったと思うが、それなりの値段のする振袖を購入していて、印象的だった家族がいる。
まず、受付にはお嬢さん本人とその彼氏がやって来た。お嬢さんの手には、ポールスミスと、忘れてしまったが同価格帯の女性向けブランドの2つの紙袋があった。

「これ、父と母にサプライズで渡したいんです」

その言葉を聞いて、耳を疑った。

成人する側の20歳のお嬢さんが、両親へサプライズプレゼント?それも、その年齢で用意するにしては値がはるであろう品を。素晴らしすぎる。私には逆立ちしたって出てこない発想だ。
そしてそのお嬢さんがヘアメイクに入ると、少しして、彼氏が声を掛けてきた。

「これ、彼女に渡したいんですけど」

そう言った彼の手には、花束が握られていた。
……???そんなことある?確かこの彼氏はお嬢さんと同い年だった。20歳の男の子にしては出来すぎている。
結果的にサプライズは両方とも大成功した。そして、20万円近くするアルバムも買ってくれた。あらゆる意味で素敵すぎる家族だった。

◎ ◎

しかし、そんな人達ばかりでもない。ここまで出来た家族がそういないのは当たり前だが、それにしても、落差にぐったりしてしまうときもある。

お嬢さん本人が自分の写真を見て「ブス」と連呼する、というのはよくあることだった。普段は加工アプリで撮ることが多いのだろうし、自らの写真が大量に並んでいる気恥ずかしさから来る発言でもあるのだろう。可愛いのに、とは思うけど、そう言ってしまう心理には納得出来る。

気分が悪いのは、家族がそれを言う場合だ。お嬢さんが実際にどう受け止めているかは分からないけれど、一生に一度の前撮りのときくらい褒めてあげれば良いのに、と思う。

あとは金額で揉める場合。これに関しては、アルバム代で10万20万かかるという現状が間違っているとは思う。金銭的余裕がある家庭以外にとっては、大きすぎる金額だ。
しかし、そこに対する嫌悪感を娘の前で過剰に出すのはあまり良くないように感じる。
私のお客さんではなかったけれど、15万円のアルバムを1万5000円と勘違いして、購入するときに気づいて怒鳴り散らしたお父さんがいた。そのときの販売員は何年もやっている子だったし、そもそも値段がはっきり書かれたチラシをずっと机の上に置いて接客していたから、こちら側の説明不足である可能性は低い。その販売員の子を指さし、「コイツに騙されてるんだ!」と言い放ったそうだ。
勘違いは誰にでもあることだし、大きな金額だから動揺する気持ちも分かるが、娘の祝いごとの場にふさわしい振る舞いではない。

◎ ◎

これ以外にも本当に、色んなケースがあった。大変なこともあったけど、総じて言えば楽しかったし、幸せな瞬間に立ち会うことが出来て良かった。

私はこのバイトで初めて、世の中にはこんなにも多くの温かな家族がいるのだということを知ったのだ。素敵さに驚かされる場面の方がずっと多かった。

自分の育った家庭以外の家族の形を、一部分覗かせてもらえた日々。今思えばとても貴重で、ありがたかった。
販売するアルバムが適正価格であれば、きっともっと素敵な思い出になったんだろうけど。

■田道間ハヤシのプロフィール
札幌在住の25歳会社員。

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