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「デザインとはメッセージ」。環境活動家でグラフィックデザイナーの平山みな美さん

  • 2024.5.28

デザインの力で環境問題について発信するグラフィックデザイナーの平山みな美さん。再生可能エネルギーの重要性を訴えるウェブサイトや意見広告などを通じて、社会とのコミュニケーションを試みています。消費を促す商業デザインに疑問を覚え、デンマークへ拠点を移し社会課題にかかわるプロジェクトを手掛けるようになりました。サステナブルな社会へ向け、ビジュアルの重要性について伺いました。

●サステナブルバトン5‐2

カッコ良さよりメッセージが大切

――現在、“ビジュアルコミュニケーションデザイナー”として活動されています。どのようなお仕事内容なのですか?

平山みな美さん(以下、平山): グラフィックデザインと言うと、「かっこよくて、おしゃれな仕事」というイメージがあるかもしれません。でも、それ以上にデザインに込めるメッセージは何なのか、誰に伝えたいものなのか、どんな人たちに届けたいのかと考えることが、実はとても大事なんです。

つまり、かっこいいグラフィックが常に善ではないというか。デザイン性を優先するあまり、文字が小さくなってメッセージが伝わりにくくなることなどもあると思うんです。アクセシビリティーにもつながるのですが、どのような視覚的表現で伝えたいターゲットとコミュニケーションが取れるかをしっかりと考えてデザインすることが、ビジュアルコミュニケーションデザイナーに求められているスキルだと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

――これまでに、手掛けられたデザインについて教えていただけますか。

平山: 昨年、気候変動問題に携わるNGOの有志らが立ち上げた「Japan Beyond Coal」公式サイトのリニューアルを担当しました。Coalとは石炭のことで、石炭ではなく再生可能でグリーンなエネルギーによって私たちの未来を賄おうというキャンペーンです。気候変動や地球環境に関心が高い人たちに加え、「中学生にも届くようなサイトにしたい」という依頼を受けました。子どもたちが楽しみながら学べる工夫を施そうと、小人が運動してるようなイラストを入れるなどして、柔らかく明るいトーンに仕上げました。

ほかにも、国内エネルギー大手「JERA」が、アジアの新興国で新たな化石燃料プロジェクトに投資していることへの意見広告のビジュアルや、哲学者で経済思想家の斎藤幸平さんが、ケンブリッジから出されたアカデミックな本のデザインも手がけました。環境活動家と名乗ってから少し経ったこともあり、それを分かったうえで依頼してくださる人たちが増えてきたと感じます。本のデザインは特に好きなので、自分が納得できる本のデザインにもっと携われたらうれしいですね。

―平山さんご自身、“環境活動家”とプロフィールに記載されていますね。

平山: はい。かつては環境活動家と名乗ることで、デザインの仕事へどんな影響が出るのか不安を感じた時期もありました。そんなとき、世界的カンファレンスサイト「TED」で、気候変動に関するプレゼンテーションを見たんです。その講演者が「環境活動家と名乗るのは最低限のことです。名乗ることはすぐにできるアクションで、名乗るだけで周りに影響を与えられる」と言ったんです。なにかと理由をつけ、戸惑っている自分を見透かされたようでハッとしました。

「Japan Beyond Coal」公式サイト

たとえば、海抜の低い島嶼国では気候変動が引き起こす海面上昇によって祖国が無くなってしまう危機にさらされています。そんな切羽詰まった状況の人もいるのに、名乗るかどうかを迷っているようじゃダメだなと。また、名乗ることで自分にいい意味のプレッシャーをかけられると思いました。今では、むしろ「環境問題のデザイン、承ります」みたいに、自分を宣伝できる言葉だなと思っています。

――環境に配慮したデザインへの要求は高まっていると。

平山: 人と人との縁が、チャンスを運んでくれると感じます。例えば、2019年にデンマークでその当時は大学生だったアクティビストの能條桃子さんと知り合い、彼女が代表を務めるU30世代の政治参加を促進する団体「」のデザインを手掛けています。Instagramを使い、POPでわかりやすいデザインに変えたことで、フォロワーやリプライなどがどんどん増え、自分のスキルが役立っているとやりがいを感じました。

2020年、新型コロナウイルス感染症が世界的に感染爆発し、行動制限などもあるなかで、気候変動や環境問題に取り組む活動家ら5人が「アクティビスト・ハウス」というシェアハウスで暮らし始めました。その一人が、今回この連載「サステナブルバトン」のバトンを繋いでくれたです。私も能條さんの縁で、3カ月間一緒に住むことになりました。

「アクティビスト・ハウス」では、当時環境大臣だった小泉進次郎さんやFridays For Future の学生たちなどと、リビングからオンラインを結んで話し合う機会もありました。みんなでよく、「気候変動も最終的には政治が変わらないと前に進めない」と話していて、いつの間にか巻き込まれるように私もアクションに参加していたんです。

「デザインは消費を促すためなのか……」

――そもそもデザイナーを目指そうと思ったのはなぜですか?

平山: 子どものころから小さな昆虫も含めた生きもの全般、そして自然が大好きでした。小学校の授業で環境問題を習った時は、「なんでこんなひどいことを大人たちは引き起こしているんだろう」と怒りを抱いたのを覚えています。そのうち自分が高校生になり、限られたお小遣いのなかでファストフードを食べたり、ファストファッションを買ったりするようになっていったんです。そんな私は、小学生の自分が怒っていた大人たちと同じだと気づき、罪悪感を覚えるように……。

朝日新聞telling,(テリング)

あるとき、そんな私の眼に、雑誌にあった「デザインは問題を解決する手段だ」という言葉が飛び込んできました。もともと絵を描くことが好きで美術系に進みたいなと思っていたので、グラフィックデザイナーになれば、環境問題はもちろん社会の不正義を解決できるかもと思いました。自分が手がけた1枚のポスターで、何千人もの考えや行動を変える力があるとしたら、デザインはまるでハリー・ポッターの魔法みたいだなと思ったし、その魔法の力を手に入れたいと思ったんです。

――都内でキャリアを積んでいた平山さんが、デンマークに留学され、どんな気付きがありましたか。

平山: 都内の複数のデザイン事務所で経験を重ねていく度に、消費を促すためにデザインすることへ罪悪感を抱えていました。デザインすることが好きだからこそ、その歯がゆさを解消したくてデンマーク王立芸術大学の大学院で学ぶことを決めました。そこでは、デザインにおけるコミュニケーションの大切さを学びました。二つの国を行き来していると、それぞれの良いところや問題点が見えてきます。日本では、仕事の打ち合わせで「気候変動とは」から説明することも少なくありませんが、デンマークはサステナブルなものが大前提。環境に配慮したデザインが当たり前のように求められるんです。

また、社会において、年齢やジェンダーによる役割を求められないことも快適です。いま私は30代後半になり、日本では「彼氏はいるの?」「結婚は?」などと聞かれることも少なくないと思いますが、デンマークではそうした質問に出会ったことはありません。大学院に入ったのは32歳でしたが、社会に出てから学び直す人も多く、年齢の壁も感じませんでした。違う場所に身を置く度に「何が普通なんだっけ?」と毎回考え直せることで、ものの見方が固定化しないこともデザインをする上でのメリットかなと思います。

――そうした気付きを今回『ジレンマと共に未来からデザインする:気候危機時代にグラフィックデザイナーにできることとは?』という本にまとめたのですね。

平山: 大学院で、サステナブルなグラフィックデザインについてグループでリサーチするという課題が出されたことがきっかけです。どんな紙や印刷のインクが使われているかをはじめ、それらはいま自分たちがいるところからどれくらいの距離で作られたものか、誰かを搾取するような構造から作られていないかなど、いろいろと調べました。グラフィックデザインに、倫理的な視点が求められることが驚きでしたし、それが本を作るヒントになりました。

『ジレンマと共に未来からデザインする——気候危機時代にグラフィックデザイナーができることとは?』(編集・翻訳:平山みな美)

たとえば、大手ファストフードチェーンの包み紙をデザインすることは、サステナブルなグラフィックデザインという観点にかなうのか……ということを考えます。それまで、クライアントの求めに応じて仕事をするのがグラフィックデザイナーだと思っていたので、デザインする以前に自分が関わるプロジェクトに対し、自分たちの職能をどう生かしていくかを考えるという視点はとても刺激を受けました。

課題の調査を経て、サステナビリティーを意識しながらデザインを実現している方々に、直接お話を伺いたいと思いました。“きれいごと”にも思えることを実践する、ロールモデル的な人たちから話を聞くことで自分の仕事に誇りを持ちたいと思ったんです。グラフィックデザインという職業が、気候変動問題に対してこんなにもいろんな形でアクションができると分かり、自分もデザインを続けられると思うことができました。

新しい未来に近づくために

――今後、どのように進みたいとお考えですか。

平山: デザインのスキルや気候変動の知識を生かして多くの方々と繋がり、社会をよくするためのプロジェクトにさらに関わっていきたいです。日本でも、サステナブルやエシカルを考慮して消費する人は増えていますが、まだ割合は小さいなと感じます。このままの状態が続くとサステナビリティーに関心が高い海外では、せっかく日本に良いものがあっても、選んでもらえなくなるんじゃないかという懸念もあります。

朝日新聞telling,(テリング)

グラフィックデザイナーが手がけたかっこいいデザインによって、あたかも環境に配慮した優れた商品のように見せてしまう、いわゆる“グリーンウォッシュ”に加担しかねないことも危惧しています。才能ある人が、そうしたデザインを手がけているのを見るとやりきれない気持ちになりますね……。本のタイトルに「未来からデザインする」と入れたのは、こうだといいなと思う未来を想像し、そこに辿り着くためにいまやるべきことを考えながらプロジェクトに関わり、デザインしたいと思っているからです。高校生の私がワクワクしたように、デザインの持つ魔法の力をどう使うか常に意識しながら活動を続けたいですね。

――では最後に、平山さんにとって、サステナブルとは?

平山: 以前インタビューしたイギリス人デザイナーの方が、「先進国の人たちが、今の生活環境を持続することはサステナブルじゃない」とおっしゃったんです。日本人は、地球が2.8個ないと釣り合わないくらい、たくさんの資源を使って暮らしていると言われています。そう考えると、今のライフスタイルを持続できるようにするのではなく、もっと新しい生き方を見つける、違う方法で幸せになる道を選ぶべきなんじゃないかなと。

たとえば、流行のものを次々に買うような物質的な豊かさではなく、自由な時間をもっと増やして自然が豊かなところでのんびりピクニックする……、そういう精神的に豊かな時間を、みんなが「素敵だね」って言い合える社会になっていってほしいです。デザインの力でそうした未来へ近づけていきたいと思っています。

朝日新聞telling,(テリング)

●のプロフィール
1987年生まれ、千葉県出身。多摩美術大でデザインを学び、東京都内のデザイン事務所で研鑽を積む。2015年から約1年間、地域コミュニティーを形成し持続可能な社会を目指す「トランジション・タウン活動」発祥の地、英国トットネスに語学留学し、ボランティア活動に参加。2018年、拠点をデンマークに移す。2022年、デンマーク王立芸術大学・グラフィックコミュニケーションコースで修士課程修了。NHKや東京大学、岩波新書、投票啓発ポスターなどのグラフィックデザインを手がけるかたわら、ブックイベントなども企画・主催している。

■キツカワユウコのプロフィール
ライター×エシカルコンシェルジュ×ヨガ伝播人。出版社やラジオ局勤務などを経てフリーランスに。アーティストをはじめ、“いま輝く人”の魅力を深掘るインタビュー記事を中心に、新譜紹介の連載などエンタメ~ライフスタイル全般で執筆中。取材や文章を通して、エシカルな表現者と社会をつなぐ役に立てたらハッピー♪ ゆるベジ、旅と自然Love

■齋藤大輔のプロフィール
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。

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