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鈴木おさむが振り返る“最後の地上波ドラマ”「『自分の感覚が鈍っていない』と思えるうちにテレビを辞めたかった」 宮藤官九郎とのエピソードも

  • 2024.5.27
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鈴木おさむにドラマ脚本家としての活動を振り返ってもらった 撮影=阿部岳人
鈴木おさむにドラマ脚本家としての活動を振り返ってもらった 撮影=阿部岳人

【写真】作家業を引退する鈴木おさむへ稲垣吾郎、草なぎ剛、香取慎吾がお別れ会

「SMAP×SMAP」(1996年~2016年フジテレビ系)、「¥マネーの虎」(2001~2004年日本テレビ系)など、バラエティ番組の構成作家として、また、「奪い愛、冬」(2017年テレビ朝日系)などのドラマの脚本家として、はたまた演出家として、テレビ業界を中心に活躍してきた鈴木おさむ。しかし、2024年3月で放送作家と脚本家を辞めるという卒業宣言をし、テレビ業界の人間と視聴者を驚かせた。本インタビューでは、自身最後の地上波ドラマになった「離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―」(テレビ朝日系)について、また、これからのテレビの作り手に何を望むか、本音を語ってくれた。

鈴木おさむが確立した「笑ってはいけないドラマ」

――2024年3月いっぱいで放送作家と脚本家を引退されて、今はいかがですか?

鈴木おさむ 32年間ずっと休みなしにテレビの仕事を続けてきたので、どうなるかと思ったけれど、いきなり脳の思考が切り替わりました。すっかり他人事になったというか…(笑)。今はスタートアップ企業の支援という新しい仕事をしています。でも、そこでもショートドラマを作る人たちと付き合ったりしているので、番組作りのノウハウをまったく使わなくなった、というわけでもないですね。

――1月から3月まで放送された「離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―」(テレビ朝日系)が地上波で、1月クールの見逃し配信再生回数で1位になり、第119回ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞特別賞も受賞しました。

鈴木おさむ 今は視聴率よりも配信の数字が重要視されるということもあり、ちゃんと結果が出たのはうれしかったですね。僕の書く最後の地上波のドラマになるので、もうかっこつけたりしないで、振り切ってやろうと思った結果かなと思います。やっぱり“いかがわしいもの”というのがテレビの本質だと思うし、不倫のドラマで濡れ場もありの画(映像)を面白いと思ってもらえたのでは。

――伊藤淳史さん演じる夫・渉と篠田麻里子さんが演じる妻・綾香、妻の浮気相手・マサト(小池徹平)という泥沼の三角関係や、篠田さんの体を張ったベッドシーンも話題になりました。

鈴木おさむ 脚本の依頼を受けて原作漫画を読んだとき、かなり激しい性描写が多いので、夜10時台とはいえ、地上波でそこまでやる覚悟があるのかなと思ったんですね。かと言って、エロいということだけでも見てもらえないだろうし。そう考えたとき、僕が「奪い愛」シリーズや「M 愛すべき人がいて」(2020年テレビ朝日系)などで確立した“笑ってはいけないドラマ”というジャンルがあるので、そのスタイルを採り入れてみました。

――綾香が自宅にマサトを連れ込んでいるソファの下に夫の渉がいるというシーン。夫としては屈辱だけれど、妻が不倫している様子を撮影して証拠にしなければならない、という…。

鈴木おさむ 自分の奥さんが奪われているという究極のシチュエーションだけれど、相当ふざけていますよね。今の時代、コメディを最初から喜劇として打ち出すのは難しく、「いろんな見方ができるけれど、時に笑えるもの」というのが正解なんだと思います。

僕は昔から大映ドラマが好きで、中学生のころ「スクール☆ウォーズ 〜泣き虫先生の7年戦争〜」(1984~85年TBS系)を見て、ラグビー部員のイソップが死んだときは泣いたけれど、山下真司さん演じる熱血教師が生徒を殴るシーンはみんなマネして面白がっていました。そういう「香ばしさ」があって、みんなで共有して楽しめるというのがテレビの良さだったんですよね。今、そういうものが消えつつある中、「離婚しない男~」ではちょっと再現できたのではないかと。

――性描写でも攻めていましたが、鈴木さんが脚本に書いたことはほぼ通ったのでしょうか。

鈴木おさむ いやいや、全然ですよ。初稿の半分ぐらいしかオンエアされていない。というのは、どこまで攻めていいのかわらかないので、まずは僕が一度、台本で突き抜けてみて、「これはOK。これはやり過ぎだ」とプロデューサーがジャッジしていく形にしたんです。

それでも、僕としては予想より使ってくれたなという感じでした。ただ、エロい場面でも、面白さで解決する(許される)というとはありますよね。綾香とマサトがさんざんエロいセリフを言い合って、最後にマサトが「グレイテスト・ショーマン!」と叫ぶ。その1行があることによってセクシャルなシーンがOKになる。

――パロディのような相対化できるセリフということでしょうか。

鈴木おさむ というより、そのシーンのゴール(オチ)となるセリフですね。たぶん小池くんも私生活では良き家庭人なのに、その面白さがあるからマサトを演じてくれたんだと思うんですよ。篠田さんの「(夫より)1兆万倍いい!」というセリフも、今回、役柄に不安もあったという中で言えば突き抜けられるのではと…。「こんなセリフ言ってみたい」「自分の人生では言うことない」というようなひと言。たとえそれがくだらないことでも、けっこう大事だと思っていて、台本で他の部分はどれだけ変えても、そういうセリフだけは削らないでくれとリクエストします。

――その意味では「奪い愛」シリーズで鈴木さんと組んできた水野美紀さんの快演も光りましたね。強烈なセリフもあり…。

鈴木おさむ 水野さんが演じた弁護士のトキ子については、いつもどおり面白い水野さんを見せてくれたそのセリフより、最終回で生き別れになっていた息子に土下座するシーンをゴールにしていました。これで僕が引退すると言ったら、水野さんはすごく残念だと言ってくれて、この「笑ってはいけない」シリーズを誰かが引き継ぐべきだと言うので、水野さんが自分で書くしかないんじゃないかと思います(笑)。

宮藤官九郎さんと同じクールだったのは感慨深い

――第119回ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞の作品賞は宮藤官九郎さん脚本の「不適切にもほどがある!」(TBS系)が受賞しました。鈴木さんも同作をほめていますが、もしかすると、鈴木さんにとっての「不適切」がこのドラマだったのでは?

鈴木おさむ まさにそうです。「不適切にも~」で阿部サダヲさんの演じる昭和からタイムスリップしてきた主人公が、テレビをつけてみたら「令和でもこんなドラマやってる!」と驚くような、昭和と変わらない作品を僕はいまだに作っている。面白いですね。僕は不適切なドラマを作るという行為そのもので、宮藤さんと同じメッセージを伝えたかったのかもしれない。

――宮藤さんは鈴木さんと同世代。鈴木さんが手がけたドラマ「人にやさしく」(2002年フジテレビ系)がザテレビジョン・ドラマアカデミー賞作品賞を受賞し、同じクールの「木更津キャッツアイ」(TBS系)は取れなかったというエピソードもあります。

鈴木おさむ 「人にやさしく」は香取慎吾さんの主演ドラマで、僕が初めてドラマの脚本を書いた作品。「バラエティでやってきたことを捨てろ!」と言われ、ストーリーを作るのにものすごく苦戦したわけですが、幸い視聴率は良かった。でも、同じクールの「木更津キャッツアイ」の方が評判良くて、若い視聴者が熱狂している。めっちゃ悔しかったですね(笑)。宮藤さんがいかにも楽しそうに生き生きと書いていたのが、忘れられない。だから、最後の「離婚しない男~」が「不適切~」と同じクールだったというのは、感慨深いものがあります。

放送作家や脚本家を目指す若い世代へのアドバイス

――宮藤さんのように、これからもドラマを作っていく人にはどんなことを期待しますか。

鈴木おさむ もっと上の先輩たち、例えば倉本聰さんのような世代は、年齢を重ねるにつれ、「やすらぎの郷」(2017年テレビ朝日系)のような自分たちの年代の物語になっていったと思うんです。でも、僕たちは1970年代の生まれで、とにかくテレビがキラキラしていた時代を見て育ってきたから、老年として落ち着いた感じにはならないのではないか。宮藤さんならきっと、変わらずにふざけながら時代を刺してくれるんじゃないかなと思います。

――これから放送作家や脚本家になりたいと思う若い世代には、どうアドバイスしますか。

鈴木おさむ とにかく、いいプロデューサーとの出会いを願うという感じですけれど、まず自分の発信力が大事ですよね。SNSのフォロワー100万人になるとかショート動画でバズるとか、テレビ以外のところで何か武器を作って、それをテレビに還元してほしい。これからは、自分の付加価値があってこそ、テレビでも企画が通るし、自由なことができるようになると思います。そして、テレビ局のプロデューサーさんには、手堅く配信で100万再生を狙うとかではなく、新しい作家を育てて一歩踏み出し、でかいホームランを打ってやろうという気持ちを持ってほしいですね。

――鈴木さんは本当にもうドラマやバラエティは作らないのですか?

鈴木おさむ 既に脚本を書き上げた「極悪女王」(プロレスラー・ダンプ松本の半生を描く)というドラマが、2024年中にNETFLIXで配信されます。それは僕が企画から立ち上げ、これまでの集大成として作った作品になりますが、新作はもう本当にやりません。この段階で「ソフト老害」にならないように身を引くことにしたけれど、こうして最後の地上波ドラマが話題になり、自分の感覚が鈍っていないと思えるうちに辞められるし、また、それが放送作家の原点とも言える深夜枠というのもよかったですね。

取材・文=小田慶子

 撮影=阿部岳人
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