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「よく当たる」と聞いた霊能者のところに通う母……“ニセモノ”を信じてしまった言葉とは?

  • 2024.5.26
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写真AC

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

目次

・龍の掛け軸に水を供える母
・親戚から「よく当たるらしい」と聞いた霊能者

龍の掛け軸に水を供える母

これまで、神さまの存在を信じざるを得ない経験をした人たちの話しを取り上げてきた。しかし「神さまがこう言っている」という言葉にはニセモノも多い。いや、ニセモノのほうが多いのかもしれない。宮永弥生さん(仮名・45)は、そんな“神さま”に振り回されている一人だ。

それは、母の末美さん(仮名・77)が龍を祀りだしたのがはじまりだった。

「両親はこれまでごく普通の仏教徒でした。朝、仏壇に仏飯をお供えして手を合わせるくらいです。それがある日、実家に帰ると、床の間に龍の掛け軸が飾ってありました。それ自体は別に不思議ではないのですが、その前に水が供えてあったんです。仏壇に水を供えたこともないのに、違和感がありました。まるで龍を祀っているようで、母に『床の間の水、どうしたの?』と聞きました」

末美さんは、うちの家の不幸は龍神さまの怒りから来ていると“見える人”に言われたと宮永さんに打ち明けた。

「うちの家の不幸」――それは宮永さんの姉のことだ。姉は5年ほど前に家を出て以来、音信不通になっていた。

姉は家を出る前から様子がおかしかったという。帰りが遅くなり、用意されていた食事も摂らなくなった。話しかけてもロクに返事もしない。家族を避けるようになり、家にいるときは自室にこもって出てこなくなった。

親が寝静まったころ、台所で多少の飲み食いはしているようだったが、姉は急激に痩せていった。

心配した母が姉のいない間に部屋を確認すると、正体不明の団体に参加して活動しているような痕跡があった。すると、今度は末美さんが姉のことで悩み、眠れなくなった。パニック症状も起こすようになった。

心配した宮永さんが実家に帰ったときに姉と話そうとしたが、姉は宮永さんのことも避けた。深夜に姉が部屋から出て来るのを待ち伏せした宮永さんは、逃げようとする姉をなじってしまい、姉妹の関係も壊れてしまった。

親戚から「よく当たるらしい」と聞いた霊能者

「いっそ家から出ていってくれたほうが、私もラクかもしれない」と末美さんがこぼすようになったころ、姉は夜逃げするように家を出た。父は、少しばかりの荷物を取りに来た業者に引っ越し先を聞いたが、「口止めされていますから」と引っ越し先もわからないままだった。

姉が家を出てラクになるどころか、苦悩が深くなった末美さんは、精神科からもらう薬だけでは足りなくなり、親戚から「よく当たるらしい」と聞いた霊能者のところに通うようになった。

霊能者は、龍神さまの怒りに触れていると言ったらしい。姉も母も辰年だったので、末美さんは霊能者の言葉をすっかり信じてしまった。龍神さまの怒りをしずめるために、朝夕龍神さまに水を供えるようになった。それが宮永さんが見た床の間の水だったというわけだ。

「龍神さまに水を供えることで母の気持ちが落ち着くのならいいと思っていました。もしかしたら、それで姉が何ごともなかったように『ただいま』と帰って来るんじゃないかと期待さえ持っていたんです」

宮永さんも、苦しむ末美さんにもっと寄り添えればよかったのかもしれない。しかし宮永さんは実家からは遠いところで家庭を持っていたし、子連れで実家に帰っても、孫どころではなく、暗い表情で姉の心配をする末美さんのいる実家は正直言って居心地が悪かったのだ。

宮永さん自身、実家にいると姉のことが気になってしまい、つらくなるばかりだ。実家に帰るのもだんだん気が重くなっていた。

(後編に続きます)

坂口鈴香(ライター)
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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