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中学受験させた結果が専門学校? 娘に「無理をさせたくなかった」母の「たられば論」

  • 2024.5.25

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

中学受験させた結果が専門学校? 娘に「無理をさせたくなかった」母の「たられば論」の画像1
写真ACより

目次

・育児の原則は「無理をさせない」
・ハードルが高く感じた公立中学
・中学受験させた結果が専門学校?
・親は我が子の「応援団長」に

人間とは実に哀しい生き物なのかもしれない。常に己と周りを比べ、安心したり、不安になったりを日々繰り返しているかのようだ。特に親になると自分のこと以上に、我が子と何かの「普通」を気にしてしまいがちだ。

私たちの国は統計学が発達しすぎているために、それが逆に母親たちを追い詰めてしまう原因になりやすい。

例えば、胎児の段階からエコーなどで判明する平均値との差に一喜一憂。我が子が無事に誕生しても「この月齢での平均は……」という具合に、チェックポイントがいくつも現れるので、それに振り回されてしまう母親は少なくない。

育児の原則は「無理をさせない」

恵子さん(仮名)は春香さん(高3・仮名)を予定日よりもひと月ほど早く出産したという。

「しかも、3月30日生まれで………。平均よりもだいぶ小さく生まれたのに、学校に行くときには、まるまる1年違う子たちと同じクラスになるのかと憂鬱でした」

幼い頃の春香さんは病弱で疲れやすい子だったようで、特に幼稚園や学校の行事が立て込んでいる際に体調を崩すことが多かったそうだ。

それゆえ、恵子さんは「無理をさせない!」ことを育児の大原則にしていたという。

「春香が成長するにつれ、ママ友たちの会話は『中学受験どうする?』一色になっていきました。ウチの区域の都立高校はN高がトップなんですが、私は2番手のS高に入ってくれたらいいなって思ってたんです。でも、『S高あたりなら内申点も取れそうだし、公立中学でいいかな』って口にしたら、ママ友に言われちゃったんですよ。『何言ってるの? S高でもオール5に近くないと入れないのよ!』って」

ハードルが高く感じた公立中学

高校受験ではたいていの場合、中学校が高校に提出する内申書が必要になる。事実上、内申点で受験できる高校が決まるという側面があるのだ。この内申点が問題で、学校によっても教師によっても、点数の付け方が違うと言われている。この内申制度を避けたいがゆえに、入試本番だけの「一発勝負」である中学受験を選択する家庭も大変多いのだ。

恵子さんが昔を振り返るように、こう言った。

「それを聞いて、春香には公立中学のほうがハードルが高いと思ったんです。運動会ではいつもビリですし、運動神経が良いとは言えない。体育は通信簿に1が付いてもおかしくないくらいでした。そのせいで気の進まない高校しか受験できないのであれば、中学受験をさせたほうが春香にとっては将来が開けると思ったんです」

そして、春香さんは恵子さん主導で小4から中学受験塾に入塾した。幸い、春香さんはハードな塾生活もそれなりに頑張ることができ、調子が良いと50台後半の偏差値を取ることもあったという。

「中学受験は偏差値が50を超えると選択肢が大幅に広がります。それでいろいろと迷ったのですが、最終的には偏差値55の進学校と偏差値49の伝統女子校に出願したのですが、両方で合格をいただきました」

中学受験させた結果が専門学校?

受験界はある意味、冒頭で述べた「比較」が顕著に出る世界。学校にも個人にも歴然とした数字の序列があり、それが容易に比較できてしまう。そのため心穏やかでいられる人のほうが、圧倒的に少ないのだ。

「もちろん悩みました。偏差値55の学校は、毎年東大合格者を出しているというほどの進学校。どちらかと言えば『イケイケ系』で、子どもたちのお尻を叩いて頑張らせるイメージです。一方で偏差値49の学校のほうは女子校のせいか、全体的にのんびりしているんです。でも、早慶上智を含めた有名大学の推薦枠が充実していて。学校側の説明によると、上位4割にいれば、GMARCH(ジーマーチ)以上の大学に進学できるって触れ込みだったんです」

恵子さんは熟慮の末に、偏差値49の女子校を選択。

「春香が特待生で合格を決めたということが大きかったです。お金の面というよりは、このまま上位の成績をキープしていれば、高偏差値の大学に推薦で入れるという読みがありました。やっぱり、娘には無理をさせたくないという気持ちが強かったと思います」

ところが、春香さんの成績は入学後から低迷。翌年には特待生から外れてしまったという。

「学校は楽しかったようなので、それは良かったんですが、軽音サークルとネットに夢中になってしまって成績は急降下。ランクを下げて余裕で入学したはずが、トップどころか、中学生の頃から深海魚です。担任の先生からは『この成績ではどこにも推薦できないから、大学に行きたいならば一般受験で頑張るように』とまで……。でも、こんなにのんびりしている雰囲気の学校で、一般受験を頑張れ! と言われても、正直話が違うって気もするんですよ。春香は高3になった今でも受験勉強をする気配はなく、それどころか『う~ん、無理したくないから、私は専門学校でいいかな?』と言い出す始末。中学受験させた結果が専門学校なんて、情けないやら恥ずかしいやらで。こんなことなら偏差値55の学校に行かせて、バリバリやっている仲間たちに刺激をもらっていたほうがよかったんじゃないかって思っちゃうんです」

親は我が子の「応援団長」に

要は「無理はさせたくない」という親心が逆に仇になったのではないか? という愚痴も含まれた相談であったが、こればかりは結果論。

恵子さんのケースでいえば、我が子が偏差値55の学校と49の学校、さらには公立中学の3校に同時に通うことは不可能なので、何かを決定した後に「あっちにしておけばよかった」というのは「たられば論」になってしまう。

もし、春香さんに急に受験スイッチが入り、恵子さんが望む高偏差値大学に入ったならば、恵子さんは「やっぱり、この学校でよかった」と思うのだろう。中学受験を選ぶ親たちにとっては、最終的にどこの大学に行くのかはそれほど重要事項なのだ。

しかし、大学であろうが専門学校であろうが、何が学びたいのかがいちばん大切であることは言うまでもない。大学も中高も数字でのランク付けが確立されている世界なので、高いほうが良い学校と考えられやすいが、そこだけに焦点を合わせてしまうと道を見失うことになりかねない。

中学受験では特に、出口である大学合格実績のみに気を取られてしまう家庭が多発するが、どの学校に行こうが、将来は結局本人次第。偏差値に代表される数字ばかりに目を向けるのではなく、やはり校風のほうに重きを置いたほうが、最終的な満足度は上がるように思っている。

筆者の個人的な考えではあるが、子育ては「祈り」だと思う。親は子どもの幸せを願って、良かれと思う方向に舵を切るが、親の思い通りに進むとは限らない。

そのことも踏まえた上で、「やはりこの道を」と選択して決めたのならば、たとえどんな結果になろうとも、腹をくくることが大事なのではないだろうか。

私たち親が子どもにできるのは、いつだって、いちばんの応援団であり続けること。恵子さんが来年の今頃、たとえ、春香さんがどんな道を選択しようとも、我が子の応援団長として、笑顔でいてくれることを願っている。

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鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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