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至高のエトワール、ミリアム・ウルド=ブラームが微笑みのアデュー。

  • 2024.5.25

美しい微笑みを残し、オペラ座を去ったミリアム・ウルド=ブラーム。photo: Julien Benhamou/ OnP

5月18日、エトワールのミリアム・ウルド=ブラームのアデュー公演がガルニエ宮にて行われた。クラシックダンサーとしてのキャリアを全うしたいと願った彼女が選んだ演目は『ジゼル』。1月に42歳の誕生日を迎えている彼女だが、フレッシュな外見も卓越のテクニックも年齢を感じさせず。会場を埋めた観客の記憶に、エトワールという肩書きにふさわしい見事な舞台姿を彼女は刻みつけたはずだ。終演後の通常のカーテンコールに続き、アデュー公演恒例の星型の紙吹雪が舞台に舞い落ち、スモークがステージに雰囲気を作り上げる中、まずステージに登場したのは花束を抱えたジョゼ・マルティネス芸術監督。その後、彼女の夫でダンサーのミカエル・ラフォンとふたりの息子が舞台に現れるや、その微笑ましい光景に会場からは大きな拍手が送られた。アレクサンダー・ネーフ総裁との抱擁があり、仲間のエトワールたちが次々と舞台の下手と上手に姿を見せて。マチュー・ガニオ、ドロテ・ジルベール、ユーゴ・マルシャン、パク・セウン、レオノール・ボラック、ブルーエン・バティストーニ......懐かしい顔ぶれはイザベル・シアラヴォラ、マニュエル・ティボー、そしてミリアムを2012年にエトワールに任命した元芸術監督のブリジット・ルフェーブルだろうか。拍手喝采を続ける観客を前に涙が頬をつたう瞬間もあったけれど、ひとりの職業人としてやるべきことを終えてオペラ座を去ることができるといった満足や安堵感が彼女に感じられた。高いプロ意識を貫いたエトワールの清々しく、感動的なアデュー公演だったと言える。

アルブレヒト役はポール・マルク。photo: Julien Benhamou/ OnP

オペラ座いちの理想の足の持ち主という定評のあるミリアム。写真は2016年の公演から。photo: Svetlana Loboff/ OnP

アデュー公演も含め、今回ミリアムがジゼルを踊ったのは4回。過去の彼女のアルブレイヒトはマチアス・エイマン、ジェルマン・ルーヴェだったが、今回はポール・マルクがパートナー。ヒラリオン役はアルチュール・ラヴォー、ミルタ役はヴァランティーヌ・コラサントという豪華な配役で、芸術面でも優れた彼らの仕事が作品に厚みを加えていた。ミリアムは第1幕の最後の狂乱のシーンでは表情も動きも大袈裟ではなく、そのぶん引き裂かれた心から血が滴っているような内側の痛みを強く感じさせ、第2幕ではまさに浮遊する霊。軽やかなポワントワークと繊細な腕の動きは美しく、詩情にあふれていた。彼女のジゼルをもう二度と見ることのできないのが残念だ。

第1幕。この写真は2016年の公演から。photo: Svetlana Loboff/ OnP

第2幕より。photo: Julien Benhamou/ OnP

満席の会場。スタンディングオベーションの観客に向かって。photo: Julien Benhamou/ OnP

 

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