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チャバネゴキブリの起源判明!2100年前に始まった人間との共生関係

  • 2024.5.25
なぜ特定のゴキブリだけが世界を支配しているのか?
なぜ特定のゴキブリだけが世界を支配しているのか? / Credit:Canva

Gの起源が明かされます。

シンガポール国立大学(NUS)で行われた研究により、世界的に害虫とされているチャバネゴキブリがどこを起源にし、どのような経路で拡散していったかが示されました。

研究ではDNAの分析が行われており、チャバネゴキブリの先祖がいまから2100年前のバングラディッシュあたりで人間にとって不本意な「家畜化」をはじめていたことがわかりました。

2100年前の彼らと人類の間に何があったのでしょうか?

研究内容の詳細は2024年5月20日に『PNAS』にて公開されました。

目次

  • チャバネゴキブリは2100年前に家畜化を開始した

チャバネゴキブリは2100年前に家畜化を開始した

あまり知られていませんが、ゴキブリ目の多くは森林などの湿った場所に生息しており、人間社会にみられるのはそのうちの一部に過ぎません。

ほとんどのゴキブリ目の昆虫たちは森の中で落ち葉や朽ち木など腐食性の有機物をを食べて過ごす平和な「分解者」として生活しています。

しかし現在、チャバネゴキブリなど特定のゴキブリたちはもともとの生活圏を離れ、人間世界に広く分布するようになってしまいました。

なぜ特定のゴキブリだけが、世界中に広がっているのか、そしてどのような経路で世界中に広がったのでしょうか?

謎を解くためシンガポール国立大学はDNAを調べることで、世界的な害虫として知られるチャバネゴキブリがどこに起源があり、いつどのような経路で世界に広がっていったかを調べることにしました。

調査にあたってはチャバネゴキブリの「バーコード」遺伝子CO1の配列が調べられ、その配列を類似したアジア産のゴキブリ種と比較した。

バーコード遺伝子とは、生物種を特定するために使用される短いDNA配列のことを指します。

この部分の配列情報はDNAの「バーコード」のように機能し、異なる生物種を迅速かつ正確に識別できます。

結果、チャバネゴキブリの配列は、インド東部からバングラデシュ、ミャンマー地域に生息する種「Blattella germanica」の配列とほぼ同じであることがわかりました。

チャバネゴキブリは2100年前に家畜化を開始した
チャバネゴキブリは2100年前に家畜化を開始した / Credit:Canva

つまりこのあたりがチャバネゴキブリの起源だったのです。

次に研究者たちは、チャバネゴキブリがどのようにして世界に広がったのかを解明するために、研究者らは6大陸17カ国で採取したゴキブリのDNAから15万以上の一塩基多型を特定し、この変異がどのようにして現れたのかをモデル化しました。

するとチャバネゴキブリには「他のゴキブリと異なる」遺伝的変異が蓄積しており、人間の世界で起きた技術発展や交易のタイミングと一致していることが判明しました。

またDNAの分析では今から約 2100 年前にインドかミャンマーのどこかで、アジアゴキブリの一種から進化したことが確認されました。

アジアゴキブリの中には、もともと人間の居住地や農園の近くに生息していたものがあり、人間が植えた作物を食べるようになったのではないかと研究者たちは推測しています。

人間の住居に自分たちがもともと食べていたものと似た食料源があったため、人間に接近したわけです。

研究者たちも「アジアのゴキブリの一種が今のチャバネゴキブリに変化し始めたのはその頃です」と述べています。

そのため研究者たちはこの変化は人間との関わり合いによって起きた「家畜化」であると結論しています。

通常家畜化と言うとオオカミがイヌになったり、リビヤのヤマネコがイエネコになったり、あるいは食用や農耕用に改良されたウシやウマを思い浮かべるでしょう。

言い換えれば「元となる種から人間と一緒に暮らすことに適応・進化した種」となります。

ここで問題なのは家畜化によって出現する種がイヌやネコやウシやブタのように人間にとって有益な種にだけに限られないという点にあります。

誠に遺憾ながら、私たち人間の繁栄は、結果的にチャバネゴキブリに対して生物学的な「家畜化」を起こし、人間と共に生きる存在にしてしまったのです。

そして約1200年前に、インド東部から西へ向かう初期の伝播経路(第1波)があったことが発見されました。

これはおそらくイスラム教のウマイヤ朝またはアッバース朝の貿易と軍事活動の増加によるものでしょう。

次の伝播ルート(第2波)は約390年前にインドネシア諸島へと東方へと向かったものでした。

おそらく香辛料、茶、綿などの製品を取引していたヨーロッパの東インド会社がそれを促進したと思われます。

またチャバネゴキブリがヨーロッパに到達したのは約 270 年前と推定されました。

不思議なことに、この時期は七年戦争の歴史的記録と一致します。

そして最後に今から120年前、蒸気船による輸送の高速化により、ヨーロッパから世界の他の地域に広がりました。

研究者らは、人間の文明の隆盛が、チャバネゴキブリたちに都市環境に適応するように進化の圧力をかけ、世界的な拡散を手伝ったと結論しています。

日本でチャバネゴキブリが頻繁にみられるようになったのは明治ごろだと考えられています。

また興味深い説の1つとして、野口雨情の童謡『こがねむし』は本種を指すものであるとするものもあります。

(※こがねむし~は~金持ちだ~♪ かねぐら建てた~くら建てた~♪)

コガネムシとチャバネゴキブリは見た目が大きく異なりますが、写真や解説書が限られていた当時の日本では、昆虫全般に対する知識が限られていたことが原因だと考えられています。

昔の日本人たちは見慣れぬチャバネゴキブリのことをコガネムシだと勘違いしてしまったのかもしれません。

2100年前にはじまったチャバネゴキブリの家畜化が、日本の童謡にも影響を与えていたのは、奇妙なめぐり合わせと言えるでしょう。

参考文献

Scientists solve 250-year-old mystery of German cockroaches
https://www.uwa.edu.au/news/article/2024/may/scientists-solve-250-year-old-mystery-of-german-cockroaches

元論文

Solving the 250-year-old mystery of the origin and global spread of the German cockroach, Blattella germanica
https://doi.org/10.1073/pnas.2401185121

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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