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六代目中村時蔵 襲名披露狂言『妹背山婦女庭訓』三笠山御殿 演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの一押しステージ情報!

  • 2024.5.24

演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ作品をご紹介。今回は、六代目中村時蔵 襲名披露狂言『妹背山婦女庭訓』三笠山御殿 をピックアップ。


三代での襲名パワーが、歌舞伎界を活気づける

襲名は、歌舞伎俳優にとって人生の最重要イベント。「襲」という字にはもともと「かさね(る)」の意があり、ただ名前を継ぐのではなく、代々の役者が成し遂げてきたことを襲(かさ)ねてゆく使命があるのだと、十代目を襲名した際の坂東三津五郎が話していたのをよく覚えている。これはほんとにその通りで、名前を渡す側と引き継ぐ側の俳優の間で大事な芸の継承が行われるのはもちろん、観客側にとっても、その俳優の名を聞くだけで思い浮かぶイメージというものがあって、それが長年にわたり引き継がれているぶん、ファンが抱く共同幻想もより強固なものになっていたりする。そして、そうした役割や期待を担って名前が変わると、出世魚のように俳優としての技量も芸格もグレードアップし、名跡と芸が一致してゆくのが、よき歌舞伎俳優の常。襲名はただの改名儀式とは異なる、底知れぬマジカルパワーを秘めた伝統継承システムなのだ。

この6月を皮切りに襲名披露・初舞台を行うのは、中村時蔵を筆頭とする萬屋(時蔵家の屋号)ファミリー。現・五代目時蔵が初代中村萬壽(まんじゅ)、その長男の梅枝が六代目時蔵を襲名し、梅枝の長男で8歳の小川大晴が五代目梅枝を名乗って初舞台。さらに五代目時蔵のいとこにあたる中村獅童の長男で6歳の小川陽喜が初代中村陽喜、次男で6月に4歳になる小川夏幹が初代中村夏幹として、同じく初舞台を踏む。

歌舞伎界では、先輩俳優である父親が、まだ未熟な後輩俳優である息子を指導しながら、経験を積ませてゆく。萬壽となる五代目時蔵は、7歳の時に父の四代目時蔵を亡くしたが、10代の頃から可憐で品のある女方として頭角を現し、,81 年、26歳で時蔵を襲名。現在は歌舞伎界を代表する重鎮だ。六代目時蔵を襲名する息子の梅枝は、現在36歳。父の庇護の下で順調にキャリアを重ね、実力的にも申し分ない優れた女方に成長した。もしかしたら華のある人気女方の名のイメージがある「時蔵」になるのが遅れてはならないと父は判断して、息子に六代目を委ねることにしたのかもと、勝手に想像している。「梅枝」もいかにも初々しく清楚な、若女方らしい名跡だ。8歳の五代目が将来女方になるかどうかは楽しみに待つとして、萬屋の「萬」と文字通りめでたい「壽」を合わせた新たな名でスタートする父と息子と孫。三代揃ってバリバリに元気な襲名披露が実現するとは、ハッピーなことこの上ない。萬屋一門の襲名パワーが、歌舞伎界を明るくしてくれるだろう。

『妹背山婦女庭訓』お三輪=梅枝改め六代目中村時蔵(©松竹)

『六月大歌舞伎』
出演=菊五郎、仁左衛門、時蔵改め萬壽、獅童、梅枝改め時蔵、梅枝、陽喜、夏幹
6月1日(土)~24日(月) 歌舞伎座
(問)チケットホン松竹 TEL:0570-000-489

文=伊達なつめ

※InRed2024年5月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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