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なぜか冷蔵庫にある通帳…「おまえは病気」と妻を責めるモラハラ夫 いまだ認知度が低い「ガスライティング」の実態

  • 2024.5.24
「ガスライティング」のこと、知っていますか?
「ガスライティング」のこと、知っていますか?

「ガスライティング」という言葉、耳にしたことがありますか。DV(ドメスティックバイオレンス)の一種で、相手を心理的にコントロールすることを目的に、「相手にうその情報を与える」「相手の言動を強く否定する」といった自己疑念を増幅させるために行う行為(心理的虐待)を指します。2018年にイギリスで流行語となり、一般的に知られるようになりました。

今回は「恋人・夫婦仲相談所」所長である筆者が、「ガスライティング」がどういうものなのか、実例とともに紹介します。

名前の由来は「映画」

1944年に製作された「ガス燈」というアメリカ映画があります。主演はシャルル・ボワイエ、イングリッド・バーグマンという当時の人気俳優の共演です。

あらすじは、美しい妻を、夫がうそをついて追い詰めていくというもの。映画の中で、夫は妻の物忘れの激しさを指摘するのですが、実際には全て夫が仕組んだことでした。「わざと物を隠して、それを妻の物忘れのせいにする」といったことを繰り返して不安にさせ、家に閉じ込め、孤立させてコントロールするという恐ろしいストーリーです。こんな“悪魔夫”とどうして結婚したんだ? とハラハラしてしまう劇場型結婚サスペンスで、このタイトルが「ガスライティング」という名前の由来となりました。

映画では妻は救われますが、もし現実に、夫が(妻が)うそを重ねながら相手を追い詰めて支配下に置いてしまったらどうなるでしょうか。メンタルが壊れてしまうでしょう。

ガスライティングは、家庭内という密室で行われることから、立証が難しいのが現状です。イギリスで流行語になった後、2021年から韓国で有名人が被害を告発したり、2022年にはアメリカで「今年のワード」の一つに選ばれたりと、世界中で問題視されるようになりました。

しかし日本では、「モラハラ」という言葉は広まりましたが、ガスライティングはまだまだ認知度が低いです。「あなたが夫婦仲に悩む原因の一つではないか」として、夫婦仲相談所では警鐘を鳴らしています。

モラハラ夫のガスライティング疑惑

麻由子さん(54歳、仮名)と夫は学生時代に出会い、卒業後すぐに結婚。麻由子さんは専業主婦になりました。2人の娘に恵まれましたが、夫はモラハラ気質で、ことあるごとに麻由子さんをバカにしていました。「何年も料理を作っているのに、こんな味しか出せない」「今の世界情勢、おまえには理解できんだろう」と。

そんな父親の姿を見て育った子どもたちは、思春期になると母親をかばうようになります。特に長女は母親に離婚を勧めるようになり、麻由子さんも、2人が大学を卒業したら離婚しようと決心。事務のパートを始めて、お金をためるようになりました。

次女の就職が決まったときに、「離婚して家を出たい」と夫に切り出します。しかし、夫は全く相手にしません。

当時、長女は家を出て一人暮らし。次女は一緒に住んでいて、「父親と二人になりたくない」と母親に離婚を考え直すよう懇願します。次女を悲しませたくないと、麻由子さんは離婚を思いとどまりますが、そこから夫のガスライティング疑惑が始まりました。

「頼んだことができていない」「約束したことが守られていない」「あるべきところにあるものがない」「言ったことを忘れている」など、夫は執拗(しつよう)に麻由子さんを攻撃し始めます。そして、それを自分の両親に言うようになりました。

心配した義理の母から病院へ行くことを勧められた麻由子さんは、自分の母親が軽度の認知症だったこともあり、「自分も遺伝でそうなってしまったのか」と不安になります。現実を直視するのが怖くなり、パートも辞めて家に閉じこもるようになりました。

次女は就職したばかりで仕事が忙しく、自分のことで手一杯だったので、長女に相談しました。初めて聞いた長女はビックリして家に帰り、母親と話をして状況を確認。母親が認知症である可能性もあるとは思いましたが、ずっと父親のモラハラを目の当たりにしていた長女は、父を疑いました。父以外の人との間で、腑(ふ)に落ちない行動はないとも聞いていたからです。

薬剤師の長女にはガスライティングの知識がありました。母親に、これから父親と会話をするときには必ず録音をするように伝えます。

ある日、麻由子さんは長女に「やっぱり自分は認知症なのかもしれない」と連絡をしました。麻由子さんが引き出しにしまったと思っていた通帳と印鑑が冷蔵庫に入っており、それを夫に指摘されて「おまえは病気」と言われた、というのです。その会話は録音できていましたが、うそか真実かは分かりません。しかし長女には、父が強い口調で母を責めていることは分かりました。

麻由子さんは長女と一緒に心療内科に行きましたが、認知症の兆候はなく、長女は「やはり父が母をおとしめているのでは」と想像しました。次女に説明して、しばらく3人で一緒に暮らすことを決め、夫がいる家を出た麻由子さん。夫は無関心で、追いかけてきませんでした。

その後の麻由子さんには、おかしな行動は全くなく、むしろ元気になりました。夫の行動を常時監視することはできないので、ガスライティングかどうか実証はできませんが、子どもたちは離婚を勧め、現在、準備をしているところです。麻由子さんのパート仕事も復活しました。

麻由子さんのケースは、長女にガスライティングの知識があり、かつ行動力もあったので、“ガス疑惑”の段階で夫から離れることができました。まずは、ガスライティングがどんなものであるのかを多くの人に知っていただくこと。「自分はもしかしたらガスライティングを受けているのかも」「あの人の状況はガスライティングなのかもしれない」と気付くことができれば、早めの対処が可能です。

「恋人・夫婦仲相談所」所長 三松真由美

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