1. トップ
  2. エンタメ
  3. 「世のおじさん達を啓蒙する映画」映画『蒲団』主演・斉藤陽一郎、単独インタビュー。冴えない中年男を熱演

「世のおじさん達を啓蒙する映画」映画『蒲団』主演・斉藤陽一郎、単独インタビュー。冴えない中年男を熱演

  • 2024.5.24
  • 869 views
写真:岡野はるか

山嵜晋平監督による映画『蒲団』が5月11日から公開中。主演には、現在53歳である名優・斉藤陽一郎が、脚本家としての仕事や、恋愛へ執着している冴えない中年男役を熱演した。今回は、斉藤氏に共演キャストたちとの裏話や、衝撃のラストシーンについて深くお話を伺った。(取材・文/ZAKKY)
ーーーーーーーーーーーーー
【斉藤陽一郎 プロフィール】
1970年生。1994年篠原哲雄監督作品『YOUNG&FINE』のオーディションにて主役に抜擢され俳優の道へ。青山真治監督による多くの作品に出演。映画『軒下のならず者みたいに』(2003)では主役を演じ、他、幅広く活躍中。

写真:岡野はるか
写真岡野はるか

ーーー作品を拝見して思ったのは、主人公の竹中先生、切なすぎるということです。まず、この脚本を読み、竹中時雄を演じることになった時の、斉藤さんの感情をお聞きしたいです。

「うだつの上がらない、売れなくなった脚本家である中年のおじさんが、いびつな純愛に突き進んでいく感じが多分、監督やプロデューサーには、僕にぴったりだと思ってくれたんだろうなと感じましたね(笑)だから、ぜひやらせてくださいって、すぐに思いました」

ーーー脚本家の役を演じる上で、脚本を担当した中野太さんと話し合ったことはありますか?

「いや、特にお話はしませんでしたが、脚本家だからどうこうというわけではなく、傍から見たら普通にデスクワークをしている人として考えました。もちろん、デスクワークだけに限らない作家としての作業がある事は理解しつつも、頭の中で考えていることをアウトプットしている様の方を意識しました。」

ーーー失礼かもしれませんが、その姿はこれ以上なくハマッていました。

「そう思って頂けたのならうれしいです。時雄の心情は、僕の中でも冗談抜きでどこか腑に落ちるところもあるっていうか、わからないことでもないというところが大きかったです」

ーーーある種の共感を得たと。

「ええ。2022年に撮影をしたのですが、ハラスメント的なことや、コンプライアンスみたいなことに対して今まで以上に真剣に向き合わなくてはという気運が高まっていた時期だったと思うんです。で、今はもっとそういうことがあからさまに世の中の問題として噴出してきていると思うんですね。

そんな最中に僕は、竹中時雄となった姿が映し出されているわけですが、そんな、おじさんを楽しんでもらいつつも、ある種の世のおじさん達を啓蒙する映画みたいな側面ともあるだろうなと思っていて。今の時代ではアウトな表現も結構ありますし」

ーーー原作小説は、約100年前の話ですからね。

「原作は、さらにいびつなエロスに焦点が当たっているんですよね。ただ、調べたところ、当時も、物議をかもしていたらしいです。 現代とは、その意味合いはまたちょっと違うのかもしれないですけど。

竹中時雄という役を通して色んな意味で、問題提起となるような作品になるといいなという思いで現場には臨みました。」

写真:岡野はるか
写真岡野はるか

ーーー時雄はすごくピュアな人なんだなという印象なのですが、演じてみた感触はいかがでしたか?

「もちろん演じている間は、ピュアな純愛をしている男という感覚でいましたが、これは大いなる勘違いでね。やっぱり奥さんもいるという家庭環境の中で、横山芳美(秋谷百音)という自分の弟子に恋をするわけですよ。

しかし、魔が差す瞬間っていうのは、別にこれは男性に限らず、女性でも有り得る話で。そこはなんか、コロッと落ちてしまう瞬間、何かが外れそうになってしまう瞬間の危うさって、誰でも起こることだと、今回演じながら思いました。だから、そこのリアリティーをどう醸し出せるかは、意識しました」

ーーー横山芳美が寝ている時の、時雄の何とも言えない行動は、息を飲むくらいのリアリティーさを感じました。

「嬉しいですが、恥ずかしいですね(笑)うん、時雄は残念な人だという思いもありながら、でも、その気持ち、どこかでわかるよということが男として感じられるキャラクターなんだと思います」

ーーーパートナーがいたとしても、他人に恋心を持ってしまうのはしょうがないですからね。

「それはそれとして、理性でその気持ちを留められるかという、自分の中でのせめぎ合いと言うかね。でも、そういった瞬間というのは、見方を変えれば苦しいけど、本人にとっては意外といい時間なんだとも思うんですよね。好きなものは、好きなんだ!というね」

ーーーあ~。すごくわかります。

「時雄の仕事場における屋上で横山芳美と一緒にいるシーンが、流れるBGMも含めて、すごく好きなんですよ。なんかもう、ただの汚いおじさんだったのに、一気に青春映画みたいになって」

ーーー何歳になっても、青春は感じられるんだなと、僕も最近、よく考えます。

「そうそう。あの屋上で空を見上げながら、撮影していて何とも言えぬ気持ちよさがありましたし、50代の僕でも、青春映画的な役を演じられるんだってね」

写真:岡野はるか
写真岡野はるか

ーーー横山芳美役の秋谷百音さんと、ディスカッションはしましたか?

「ディスカッションと言うか、撮影の合間に普通の雑談は少ししていました。秋谷さんがガンズアンドローゼズ(※アメリカの古参人気ハードロックバンド)のTシャツを着ていて、秋谷さん、世代でもないのな~と思って 『ガンズ、好きなんですか?』みたいな話をしたんです。そしたら、『お母さんが好きで、来日すると必ず観に行くんですよ~』といった、演技とは関係ない話とか。想像していなかった秋谷さん像が垣間見れて楽しかったですよ(笑)」

ーーーああ、斉藤さんはガンズ世代であり、おそらく秋谷さんのお母さん世代ですものね。

「そういうことです(笑)だからね、今、おじさんが若い子に話しかけることの怖さみたいなのって、あるじゃないですか。そういうことも含めて、こちらからは必要以上に話しかけなかったです。そしたら、秋谷さんもそれを察したのか、いい具合に距離を置いてくれていたような気がします」

ーーー時雄が、横山に距離を置かれた時のような感じに近い気が。

「ああ、そんな感じだったかもしれません。うん、だから、それがいい意味での役作りへのディスカッションだったのかもしれませんね(笑)」

ーーーとても興味深いです。

「ただ、本当に自分が歳を取ったんだなっていうことを、すごく感じました(笑)あと、もしかしたら、 秋谷さんの方が台本を読んだ際に、芳美に入り込むため、空き時間にはそういう感じに接するように意識していたのかもしれないです。うん、そう思いたいです(笑)」

ーーー時雄と横山芳美との関係性は、色んな意味で複雑でしたね。

「自分の弟子が、自分より才能があって売れていって、その子のことを女性として好きになってしまうんですからねえ。そして、芳美の彼氏である田中くん(兵頭功海)に、自分のウィークポイントを辛辣に突きつけられる。でも、その言葉は、ある種、自分でも一番気づいていることだったりしてね。

もう、言うな!もう、わかってるよ!みたいな。『あなたは作家として終わってるんですよ』というセリフは、『あなたは役者として、終わってるんですよ!』と、言われた事と同じ意味だと捉えると、ものすごい恐ろしい言葉だなと(笑)」

ーーーそれは俳優さんならでは感覚ですね。

「いや、現実社会では、どんな職業の人でも、そういう戦いの中で、日々、おじさんたちは生きているわけで。『わかってんだよ、そんなこと!』ということを気付かせてくれた上でも、良い会話のシーンだったと思います。とにかく、若者と共存するためにも、世のおじさんたちに観てほしいです(笑)」

写真:岡野はるか
写真岡野はるか

ーーー時雄が田中くんに最初に会った際の「芳美と別れてくれ」と、ムキになって言うシーンも大好きです。

「ああ、あそこは、時雄の感情剥き出しで。言ってることデタラメですけどね(笑)」

ーーー時雄最高でした!あと、夫婦仲が冷めていた妻である竹中まどか(片岡礼子)が、最後の最後に時雄の救いになっているという。

「そうですね。妻が『あなたが好きなもの書けばいいよ』と言ってくれた優しさは、演じていて本当に染みましたね。でも同時に田中くんに色々言われて、『俺に本当に書きたいものはないんだ』という絶望も、今一度、気付いてしまうシーンだとも言えるんです」

ーーーああ、なるほど。

「救いがある分、傷がまた深くなるという二面性のある場面だったなと思っています。あと、片岡さんの絶妙な演技も最高ですね。本当に妻から言われているような染み入り方でした。」

ーーー時雄がビールを飲みながら走って転ぶシーンも、哀愁が。

「あんなことしちゃ、ダメですよねえ。酔っぱらってなくても、おじさんはコケるんだから(笑)」

ーーーそして、衝撃のラストシーンだったわけですが。

「結局、タイトルでもある自分が恋をした女性が寝ていた蒲団から立ち上がるという物語なんです(笑)カそこに純愛の形をいかに表現できるかという。

あと、ラストシーン近くのバックは、夕日なんですよね。それって、皆に平等に日は落ちて、また登るということを表わしているのかと。

山嵜晋平監督と、そのような傷ついたおじさんが、もう一度立ち上がる成長物語であるということであるとは、共通認識をしていました。まだまだ、おじさん、頑張るよ!と、色んな意味で伝わってもらえたら、嬉しい限りです」
(取材・文/ZAKKY)

元記事で読む
の記事をもっとみる