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「サツキとメイ、なぜ影がない?」 ジブリ公式が明かした、まさかの“ウラ事情”

  • 2024.8.23

2024年8月23日(金)、金曜ロードショー(日本テレビ系)にて『となりのトトロ』が放送された。『となりのトトロ』は、日本の夏の空気を感じさせる場所で展開される小さな姉妹と不思議な生き物・トトロとの交流を描いた物語。刺激的な物語なわけではないが、何回見てもなぜか心の奥底がワクワクしてしまう。

メイとサツキは死んでいる?都市伝説をジブリが否定

『となりのトトロ』には、有名な都市伝説がある。それは、作中の最後でサツキとメイに影がなく、木の上から自分の母親を見ていることから、二人は死んでいるのではないかという内容だ。また、二人は死んでいるのでは? という疑念から、トトロは死神なのではないか? という意見もある。

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© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

実は、この都市伝説はジブリ公式から否定されている。スタジオジブリのホームページ内にあるジブリ日誌(2011年に更新終了)の2007年5月1日の欄に、「トトロが死神だとか、メイちゃんは死んでるという事実や設定は、となりのトトロには全くありませんよ。最近はやりの都市伝説のひとつです。誰かが、面白がって言い出したことが、あっという間にネットを通じて広がってしまったみたいなんです(※)」と記載されている。また、映画の最後の方でサツキとメイに影がないのは、作画上不要と判断して省略していると、影がない理由にまで言及されている。

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© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

作画上の都合や展開などから、ネットを通じて広がった事実無根の都市伝説というわけだ。いつの間にか都市伝説ができ、これだけ有名になったのは、『となりのトトロ』がそれだけ日本人に愛されているという証拠かもしれない。

※引用:「スタジオジブリ」ジブリ日誌 https://www.ghibli.jp/storage/diary/003717/

美しくて、どこか懐かしい 日本の夏を思わせる背景美術

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© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

『となりのトトロ』のモデルになっているのは、東京都の武蔵野地方から埼玉県所沢市と入間市にまたがる狭山丘陵と言われている。関東の森が表現された背景美術からは、木々が風でざわめく様子、川の水がキラキラと反射する様子などが美しく表現され、風の温度や匂い、肌を焼く日差しまで伝わってくる。日本人のDNAに刻まれた古き良き田園風景への郷愁が、刺激されるのだ。

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© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

『となりのトトロ』の重要な要素である背景美術を担当したのは、数多くのジブリ作品に携わってきた背景美術の男鹿和雄。
1970年代より背景美術を描き始めた男鹿は、『はだしのゲン』『時空の旅人』などの美術監督を務めたあと、『となりのトトロ』制作時に宮崎駿から直接スカウトを受けて、制作に参加した。以降、『おもひでぽろぽろ』『もののけ姫』などでも美術監督を務めている。

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© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

2008〜2009年に開催された「ジブリの絵職人 男鹿和雄展 トトロの森を描いた人。」で、「自然の風景や植物には定まった色や形は無い」と語った男鹿は、描く風景の参考にしたい場所を実際に歩いて確かめていたそう。『もののけ姫』制作時には、モデルとなった屋久島の原生林や東北の白神山地などを歩いて作り上げたことも明かしている。男鹿本人が、その場で感じた空気や風の温度、匂いなどが背景に反映されているからこそ、背景美術から自然の営みが感じられるのだ。

子どもらしい健気な葛藤

そして、どこか理想にも感じられる日本らしい夏の風景と小さな姉妹の葛藤との対比が『となりのトトロ』の魅力だ。

作中のサツキとメイは、新しい環境にはしゃいだり、近所の親切にしてくれるおばあさんや新しい学校の友人たちとも仲良くやっているように見える。一見、美しい田園風景のなかで、のびのびと暮らしているように感じられるだろう。

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© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

しかし、心のどこかで彼女たちは長く入院している母親の病状をずっと気にしている。今いる環境がとてつもなく不安なわけではなくとも、漠然とした不安が心にあるまま明るく元気に過ごしているのだ。2人はたびたび、父親に母親の病状を明るい雰囲気を保ったまま確認している。前向きでいたいけど、どこか不安がある。これを健気と言わずなんと言えばいいのだろう。

前半は、可愛らしい姉妹の日常と不思議な生き物・トトロとの交流が描かれ、二人の不安が溢れ出るのは後半だ。母の退院が延期になったことでメイの不安が爆発し、そのメイの反応を見てサツキの思いも決壊してしまう。自分の中の葛藤をずっと押し殺していた二人が、子どもらしく泣き喚く姿には胸が締め付けられてしまう。

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© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

ただ懐かしい風景に癒されるだけではなく、まだ小さな姉妹の可愛らしい生活の様子、健気な葛藤も鮮やかに描かれている。だからこそ『となりのトトロ』は綺麗で美しいだけではなく、小さな姉妹のまだ未熟な心のなかにある寂しさと、それを飲み込もうとする気持ちが表現された物語になっているのだ。

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© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

子どもの頃は、田舎の夏の風景のなかでのびのび過ごすサツキとメイ、不思議な生き物・トトロとの胸が踊る交流に、心からワクワクさせられたという人も多いだろう。その魅力はいつ見ても変わらないが、大人になってから見るとサツキとメイのなかに確実にある心細さ、その葛藤と向き合ったことによる姉妹の成長も描かれていることに気付く。

しばらく見ていないという方は、新たな気付きや古き良き日本の夏の風景へのノスタルジーを求めて、『となりのトトロ』の世界をぜひ堪能してほしい。



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202