1. トップ
  2. 子どものいない女性は惨め?独身は寂しい?ドラマ『西園寺さんは家事をしない』で描かれた昭和の固定概念

子どものいない女性は惨め?独身は寂しい?ドラマ『西園寺さんは家事をしない』で描かれた昭和の固定概念

  • 2024.7.23

家事はしない、やりたくないことは徹底してやらない、をモットーとしている西園寺一妃(松本若菜)。彼女が主人公の火曜よる10時放送ドラマ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系列)では、血縁関係はないけれど助け合う“偽家族”をつくる過程が描かれる。7月16日に放送された第2話では、38歳独身の娘である一妃に向けた、父・康平(浅野和之)の言動が注目を集めた。

38歳独身・子なし女性は「寂しい」?

主人公・一妃の、家事をしないこだわりは徹底している。床掃除はルンバ、洗濯は乾燥機付きドラム洗濯機、料理はせず買ってきたもので賄い、窓拭きや照明の掃除など「やらなくても死なない家事」は一切やらない。

undefined
火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』第2話より (C)TBS

賃貸できる部屋のついた一軒家を購入し、保護犬を引き取って独身生活を満喫している38歳独身の彼女。アプリ制作会社のプロダクトマネージャーとして、日々忙しく働いている。ひょんなことから、新しく入ってきたシングルファーザーの社員・楠見俊直(松村北斗)とその娘・ルカ(倉田瑛茉)と共同生活を送ることになる。

「家族でもない人に甘えるのは異常」と潔癖気味な考え方を持つ楠見に対し、血縁関係じゃないけれど助け合う、“偽家族”になることを一妃は提案するが……

今後の物語の大きな転換点を担う第2話。半ば無理やりに一妃の自宅へ押しかけてきた父・康平の言動が、SNS上で話題となった。

たまたま見かけた楠見親子に対し「母親はいないのか、あの親子?」「再婚は?」など、プライベートな領域に入り込み、不躾な質問を繰り返す様子は、まさに昭和の生き字引。くわえて一妃に対し「38歳で独身。普通なら子どもがいてもおかしくない年頃だろう」「その寂しさを紛らわせるために、あの親子を巻き込むとか……」と続ける。

undefined
火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』第2話より (C)TBS

いわゆる“良い歳をして独身”な人間に向けて、しばしば向けられるのが「寂しい」という言葉だ。一人で暮らしていること、この先も孤独な人生を過ごし、亡くなる瞬間まで一人であろうことを、簡単な「寂しい」の一言にまとめてしまう。

「結婚して子どもをつくり、家族で幸せに暮らしていくこと」が普通で、一般的で、それこそが幸せな人生を証明する唯一の道である、とする考え方は、康平のような昭和世代にこそ多いように思える。いや、世代を問わず、独身=寂しいという図式は根強いのかもしれない。

昭和世代からかけられる「呪い」の解き方

振り返れば、ドラマ『こっち向いてよ向井くん』(2023/日テレ系列)でも、独身で趣味を謳歌する女性に対し「寂しい人」と断ずるシーンがあった。子どもや家族のいない女性を「寂しい」とひとくくりにする呪いには、どのように立ち向かえばいいのか?

一妃は康平の「自分の考えでしか話をしようとしない」「違う考えの人には耳も貸そうとしない」スタンスに対し、真正面からNOを突きつけている。仮に、一妃が子どものころから、康平のような言動を見聞きしていたのだとしたら、世間で勝手に定められている「普通」から逃れようとするのは、自然な流れに思える。

ましてや、一妃の母は、夫である康平の偏った価値観や、やるのが当たり前とされている家事負担に押しつぶされて、家を出ていってしまったのだ。

一妃はただ単に、やりたくないから、という一点だけでNO家事生活をしているわけではない。いわば彼女は、世間や父親から押し付けられる「普通」という価値観に、真っ向から抵抗しているのである。

undefined
火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』第2話より (C)TBS

38歳で独身は寂しい? 子どもがいない女性は惨め? そんなことはない。ドラマ『西園寺さんは家事をしない』は、一人で暮らすことの豊かさと、人と助け合って生きていくことの可能性を、絶妙なバランスで描き出している。



TBS系  火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』 毎週火曜よる10時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_